投稿日: 2021/12/10
最終更新日: 2024/05/30

アイザック・ニュートン卿、ゴッドフリー・クネラー准男爵画(1723 年没)
アイザック・ニュートン卿、ゴッドフリー・クネラー准男爵画(1723 年没)

 アイザック・ニュートンは、物理学、光学、天文学、数学、機械工学および、その他の関連する分野に重要な貢献をしたことから、現代科学の父と呼ばれています。一方で彼はまた、きわめて信仰心に篤い人物でもありました。アイザック・ニュートンは神秘家として、比較宗教学、聖書解釈学(聖書の文章の解釈に関する研究)、錬金術、神秘学に関する数多くの著作を書いています。今日彼の名を有名にしている自然科学の分野の著作よりも、これらの著作の方が多いのです。

ニュートンは自身の本の中で、神や宇宙の法則に関する重要な見解を表明しています。そしてまた、神への礼拝が行われる神殿の、太古から伝わる適切な構造についての重要な意見を述べています。ニュートンはフラウィウス・ヨセフス(訳注)やフィロン、マイモニデス、タルムード(訳注)学者たちの著作について、幅広く研究を行っていました。研究のある段階で、神殿の正確な形状が重要になったため、ニュートンは、さまざまな資料によって、その形状を明らかにしました。モーセの幕屋とソロモンの神殿とエゼキエルの神殿(訳注)を比較すると、この2つの神殿の大きさが幕屋の2倍であるという例外を除けば、すべてが同じ設計であったということをニュートンは明らかにしました。

訳注:タルムード(Talmud):ユダヤ教の聖典

フラウィウス・ヨセフス(Flavius Josephus、西暦37~100年頃):ユダヤの歴史家、将軍。フィロンとマイモニデスについては後述。

モーセの幕屋(Tabernacle of Moses):エジプトを脱出したモーセがシナイ山で、神から十戒を授けられた後に、神の命令に従ってシナイ山のふもとの荒れ野に作らせた移動式の聖所で、この中でも神がモーセに語ったとされる。

ソロモン(Solomon)の神殿:紀元前10世紀に古代イスラエルの王ソロモンが、現在のエルサレムに建設した神殿。第一神殿と呼ばれる。

エゼキエル(Ezekiel)の神殿:古代イスラエルは紀元前6世紀に、バビロニアの王ネブカドネザル2世に滅ぼされ、第一神殿が破壊された。捕囚となったエゼキエルはバビロンで啓示を得て預言者となり、再建すべき神殿を幻視したとされる。

ニュートンの時代には、古代エジプトの神殿はまだほとんどが砂に埋もれており、ヒエログリフは未解読の謎でした。ニュートンの時代よりもかなり後になって、ようやくエジプトの神殿の研究が行なわれるようになり、周辺の国々の人々によって後に建設された多くの神殿の手本になったのがエジプトの神殿であったことが明らかになりました。しかしニュートンは、歴史をはるか昔にまで遡る太古の神殿の宗教的な背景について次のような明確な考えを持っていました。

「しかしながら、魂の輪廻の教えや星々や四大元素への崇拝とともに宗教が始まったと考えることはできない。というのも、これらすべての宗教よりもさらに古い別の宗教、つまり、聖なる場所の中央で、絶えず火が燃やされていたある宗教が存在したからである。ウェスタ崇拝(訳注)がすべての宗教の中で最も古いものである。」

訳注:ウェスタ崇拝(Vestal cult):燃え続ける火への太古の崇拝。古代ローマでは女神ウェスタへの崇拝として盛んであった。

ニュートンの見解では、この超古代の宗教は、およそ6000年前にすでにアダムに明かされていました。しかしそれは大洪水の前の時代に堕落し、また、ノアの子孫が世界中に広がり、自分たちの祖先を誤って神として崇拝し始めたときに、さらに堕落が進んだのです。

トリニティ礼拝堂(the Chapel of Trinity)で行なった少なくとも2つの説教の中で、彼は偶像崇拝の問題を扱っています。彼は「列王記Ⅱ」の第17章第15~16節をテーマに選びました。この書では、イスラエルの子孫たちが2つの子牛の像を鋳造し、偶像神として崇拝したことが述べられています。神は、全知や全能のような自身に内在する性質が理由で崇拝されることを望んではおらず、自身が行ったことが理由で崇拝されることを望んでいるとニュートンは主張し、以下のように述べています。

「あらゆる存在の中でも最も賢明なお方は、その本質がゆえにではなく、その行いがゆえに、我々が彼を讃えることを求めている。すなわち、善き意志と喜びに従って行われた万物の創造、保護、支配がゆえに讃えられることを求めている。神が活動するときに常に用いている知恵と力と善と正義は神の栄光であり、それらを神は、堅く保ち、用心深く守っている。」

モーセが幕屋に、決して絶やしてはならない火を灯したとき、モーセは、原初からの真の崇拝を復活させたのであり、その崇拝は、ノアが彼の祖先から学んだものであるとニュートンは主張しました。

「さて、この神殿を理論的に説明するとすれば、〈自然〉を作り出した神は、自然に似せて作られた神殿の中で崇拝されるべきであるということであり、いわば神の似姿である神殿において崇拝されるべきであるということである。中央に火のある聖域は、世界というシステムの象徴であったということに、すべての人が同意している。(中略)」

「大いなる神の真の〈神殿〉にあたる世界の基本的構成を表すために、神殿は太古に考案された」とニュートンは述べています。しかし、「人はいつでも迷信に陥る傾向があり」、エジプト人たちは、いつわりの神々を導入して真の宗教を堕落させたのです。しかしながら、神によって創造された世界を表現したある聖域で、真の崇拝が行われていました。この超古代の神殿は、中央に火が置かれ、7つの惑星を象徴する7つの光に照らされており、世界を象徴していました

ニュートンは、神殿が表していることを象徴的に解釈した、数多くの哲学者の書物に精通していました。その中にはモーゼス・マイモニデス(Moses Maimonides、1135 – 1204)が含まれています。彼はスペイン出身のユダヤ人哲学者で、生涯の最後の数十年間をイスラムの高官アル・ファーディル(Al Fadil)の侍医としてカイロで過ごしています。彼の最も有名な著作は『迷える人々のための導きの書』(The Guide of the Perplexed)ですが、彼はまた、神殿や律法、ユダヤの儀礼が象徴的に表している事柄を解明するための体系的な取り組み方法の進歩に貢献しました。

モーゼス・マイモニデス

また、プラトンを信奉していたユダヤ人哲学者のフィロン(Philo Judaeus)も、ニュートンに大きな影響を及ぼしました。彼は、アレキサンドリアで紀元前20年から紀元50年までを過ごしており、それゆえにイエスと同時代の人でした。人が誠実な世界市民になることのできる唯一の方法は、自然の法則に従うことであるとフィロンは考え、プラトンのイデア説は、〈真の存在〉である神に従う説であると主張していました。

「哲学の仕事は神を見ることである。もしそれが不可能であれば、神の似姿を見るか、〈聖なる言葉〉を聴くことである。それさえも不可能であるならば、神の完璧な業、すなわち形ある創造された世界を見ることである。神は〈王〉であり、神へと続く道が最も高貴な道である。哲学はこの道に沿って進むが、複雑な議論によってそうするのではない。」

デミウルゴス(訳注)は、それぞれの土地の守護神(demon)たちの助けを借りて創造を行ったとプラトンは考えましたが、フィロンの考えでは、神は自然の様々な力を用いました。それらの力の中で最も重要なものは、創造の力と支配の力です。聖なる言葉、すなわち「ロゴス」(Logos)は、この2つの主要な力を結合したものであり、創造力、支配力、ロゴスを頂点とする3角形が構成されます。フィロンは時おり、ロゴスの代わりに知恵という言葉を使用しています。フィロンは、ロゴスとは世界の理性であり、それゆえに、ロゴスが世界を神に結びつけているのであると考えていました。ロゴスは、創造するという行ないであるとともに、創造された世界であり、世界は、〈あの言葉〉(訳注)の表われであると考えたときにだけ、世界を理解することができるとされています。ロゴスの中に、イデアの世界、すなわち〈観念界〉(Mundus intelligibilis)を見いだすことができます。イデアは〈あの言葉〉の中にあるのであり、建築家の心の中にある、ある都市の設計図のようなものです。

訳注:デミウルゴス(Demiuruge):プラトンが世界の創造者であるとした神。後に、この世界に悪が存在するのは、デミウルゴスの創造が不完全だからであるという思想が生じた。

〈あの言葉〉(the Word):さまざまな古代の伝説において、神が世界を創るときに発したとされている言葉。

フィロンが2つの力の結合であると述べたこのロゴスは、初期のキリスト教会によってセラフィムやケルビムなどとして採用されました。一方で、この2つの力は、中世に作られた聖人を描いた宗教絵画では、創造主が手にしているコンパス(創造的な力)と、キリストが持つ直角定規(支配する力)によって象徴的に表されました。

ここで、科学の歴史を少し旅して、「力」という言葉の物理的な意味を調べてみましょう。スコラ学(訳注)の力学で力とされていたものは、現在「推進力」と呼ばれているものにあたると理解することができます。推進力は、運動を表す量であり、ある物体の運動が始まるときに、その物体に与えられるのであり、そして、ある時間が経過すると使い果たされると(誤って)考えられていました。しかしニュートンは、自然界に存在する物体や、分子同士の間には、重力や磁気や電気のような現象によって、永続的に働く力があるということを、歴史上初めて理解した人物でした。そして彼は、有名な「31の問い」(著書『光学』(Opiticks)の第3巻)に次のように書いています。

訳注:スコラ学(Scholastic):中世の大学で、主にローマ・カトリック教会に属する学者によって研究されていた学問。

「そしてもし仮に、これらの(活動的な)原理が存在していなかったとしたら、地球や惑星、彗星、太陽といった天体、そして、そこに存在するすべての物体は、冷たく凍り、動きのない塊になる。そしてすべての腐敗作用、発生、植物の成長、動物の活動は止まり、惑星や彗星が、その軌道を保つこともない。」

物質の創造について

Of the creation of matter

「これらすべてのことを考えに入れるならば、時の初めに神は、固形の、重く、固く、貫くことのできない、運動する粒子として物質を創ったということが、かなり確実なように私には思われる。(中略)」

運動の原理

Principles of motion

「さらに、これらの粒子が持つのは、慣性力(Vis inertiae)と、慣性力から当然生じる〈受動的〉な運動の原理だけではない。粒子はまた、重力の原理のような、いくつかの〈能動的〉な原理によって運動していて、これらの原理によって、活発な活動や物体の凝集が起こっているように私には思われる。これらの能動的な原理を、私は「隠された性質」(訳注)だとは考えておらず、あるものが特定の現れ方をした結果であると想定し、ものごとが起こるときの一般的な自然法則にあたると考えている。自然法則という事実は、様々な現象によって私たちに明かされる。しかしながら、自然法則の原因にあたるものは、まだ発見されていない。つまり、自然法則は、性質としてははっきりと現れているのだが、その原因だけが隠されているのである。そしてアリストテレス派の人々は、現れている性質にではなく、物体の中に隠されていると彼らが想定している性質、そして、起こっている現象の知られていない原因に、「隠された性質」という名前を与えた。(中略)」

訳注:隠された性質(occult quality):オカルト(occult)の語源にあたるラテン語の「オクルトゥス」(occultus)は「視界から隠れた」を意味する。当時は近接したものの間にだけ力が働くのであり、重力も、何か空間を満たしている媒体の渦のようなものによって伝えられると考えられていた。そこで、離れた物体間に力が働くというニュートンの主張は、「隠された性質」を認めるスコラ学やアリストテレス派への逆行だと批判されていた。

知性ある創造者

An intelligent Creator

「ここでこれらの原理の助けを借りると、すべての物質は、先ほど述べたような硬い固体の粒子から構成されているように思われる。この粒子は、知性を持つ存在の計画によって、万物が最初に創造されたときに、様々な形で組み入れられたのであろう。この知性を持つ存在とは、この物質の粒子を作り、それに秩序を与えた神であると考えるのが適切であろう。そしてもし神がそのようにしたと仮定するのであれば、世界の原因を神以外に探し求めることは哲学的な洞察としてふさわしくない、そして世界は、ひとたび形成されたなら、自然法則によって幾歳月も続くことになるにもかかわらず、単なる自然の法則によって、混沌から世界が生じたと主張することも哲学的にふさわしくない。」

ニュートンの「31の問い」に登場する〈至高の存在〉は、デミウルゴスや「聖なる時計製作者」(訳注)でないことは確実であり、高い知性を持つ〈創造者〉であり〈支配者〉です。そしてこの存在は、自然の様々な力を用いて、自然の法則に従って、自体が作った世界を永遠に監督しています。

訳注:聖なる時計製作者:理神論(deism)と呼ばれる世界創造についての理論を唱える人たちの神のたとえ。この理論では創造者は、世界を作った後には、創造した世界に全く関与することをしない。世界は自体の機械的性質によって、時計のように、創造者とは独立して活動していく。

しかし、フィロンの神殿についての考えに戻りましょう。マイモニデス同様に彼は、神殿と宗教の式典を説明する際に、比喩を用いています。彼は祭壇を人間の魂になぞらえました。3つの段階によって人は、神の知識へと上昇していきます。最初は、徳の命令に従わなければならないという知識を吸収する段階です。しかし知識は実践しなければ不完全なままです。それゆえに、練習をして規律を身につけることが、次の段階となりますが、この段階は、英知の成熟と達成、つまり〈神の真理〉を直接、完全に認識する最高段階への準備にすぎません。

ニュートンは、真理の認識へと至る3段階の方法全体をよく知っていました。この3段階の概要がニュートンの著書の何冊かで述べられていることが知られています。ニュートンとマイモニデスによれば、神殿の聖域(典型例としてエルサレムのソロモンの神殿が取り上げられています)には、次の基本的な備品が不可欠です。

1.聖なる炎
2.7つの明かり(通常は7本の枝が付いた燭台によって表されます)
3.供えのパンのテーブル

聖書(『出エジプト記』第25章第23~30節)には、供えのパンのテーブルはアカシアの木で作られ、純金で覆われ、幕屋の中に置かれたと書かれています。それは「御前のテーブル」(table of the Presence)と呼ばれており、精白された小麦粉だけで作られた12個のパンを置くために使われます。そのパンは6個ずつ2列に置かれて、パンのひとつひとつがイスラエルの12支族のひとつを表していました(『レビ記』第24章第8節)。歴史家のヨセフスは、それは種なしのパン(訳注)であったと述べています。種なしのパンは時として「供えのパン」(shewbread)と言われています。「供えのパン」の文字通りの意味は「その顔の前に並べられるパン」、つまり「神の御前に並べられるパン」であるからです。

訳注:種なしのパン(unleavened bread):発酵させていないパン。モーセの出エジプトの際に、イスラエル人は種なしのパンを旅に持参したとされる。

バラ十字会で学習されている方々など、神秘学に親しんでいる皆さんは、1、3、7、12という数によって表されている重要な原理にすぐにお気づきになることでしょう。幕屋とソロモンの神殿は3つの部分に分かれていたことを心に留めておいてください。世界は〈神の神殿〉であり、それゆえに、いかなる神殿も、世界の基礎となる根本的な性質についての理解を具体的に表現したものでなければならないと、ニュートンははっきりと述べています。個々の人の中にもまた、世界と同じ普遍的法則に従って、神の性質が表されています。つまり、ミクロコズム(microcosm:人間という小宇宙)も、〈聖なる計画〉に従っています。「あなたは自身が神の神殿であり、あなたの中に神の霊が住んでいることを知らないのだろうか」(『コリント前書』第3章第6節)と述べた使徒の言葉を、ニュートンはよく知っていました。

おそらく、ニュートンのメモに発見された次の説明は、神の神殿に関する彼の考え方の要約として重要です。そしてまたこの文章は、自然法則の作用と物質の世界を理解しようとする、科学分野での彼の努力のすべてを支えていた神秘学的な思想を明らかにしています。

「星々からなる世界全体を、古の人々は、実際に、神の真実の神殿であると見なしていた。それゆえに、星々からなる世界の全体的な仕組みを表すのに最も適した方法で、古代人たちが構築した神聖な建物(Prytanaeum)は、神の神殿という名に値するであろう。宗教という基準は、他のいかなるものよりも理性的である(中略)。そこで、人々が崇拝している大いなる神の真の神殿である世界の構造についての研究を、古代の神殿の構造によって人々に示すことが、真の宗教の太古の集団の企画のひとつであった(中略)。そして、この太古の宗教は、様々な人々がそれを堕落させるまでは、他のすべての中で最も理性的なものであった。」

なぜなら、自然の構造を研究すること以外には(神秘学的啓示を除けば)、神の知識に至る道は存在しないからです。

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参考文献
この記事の情報の一部と、記事中に掲載したアイザック・ニュートンの文章は以下の記事から引用した。
“Sir Isaac Newton and the Holy Flame” by Hans Peters, published in Ars Quatuor Coronatorum D Transaction of Quatuor Coronati Lodge No. 2076 D Vol, 101 [Oct.1989], London

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