まえがき
こんにちは、バラ十字会の本庄です。今回はダライ・ラマのことを話題にしたいと思います。2025年7月6日はこの方の90歳の誕生日で、後継者の選定についてのニュースがたびたび話題になっていました。
最初にお断りしておきますが、当会は宗教や政治のいかなる組織からも独立した哲学団体であり、特定の宗教団体や政治団体について賛否や意見を述べる立場にありません。以下の内容は、私と当会のある研究者による個人的意見です。
私個人について言えば、40歳の頃まではダライ・ラマにあまり関心を持っていませんでした。しかし、大乗仏教の始祖だとされる龍樹の『中論』に興味があり、ダライ・ラマ14世がそれについて本を書いていることを知り何冊かを読んだのが、この方のことをさらに知りたいと思ったきっかけでした。
2011年の東日本大震災の際には、亡くなった人たちのためにご本人が何度も般若心経を唱えてくださっていることと、東京での四十九日法要と現地への慰問を行なってくださったことをニュースで知り、それ以来、感謝とともに深い親しみを感じる人になっています。

チベット仏教の成立と赤帽派(サキャ派)
ご存じの皆さんも多いと思いますが、仏教はインドが発祥の地です。西暦8世紀にインドの僧侶パドマサンバヴァ(Padmasambhava)がチベットの人々に仏教、特に密教を伝えたとされています。その当時のチベット固有の宗教はボン教(Bon)という呪術的傾向の強い宗教でした。
そのためチベット仏教は長い間、密教とボン教が混ざり合ったものでした。信者はいつも赤い帽子を身につけていたので、サキャ派(Sakya-pa:赤帽派)の名で知られていました。

黄帽派(ゲルグ派)
西暦1350年頃に、大乗仏教の僧侶ツォンカパ(Tsong-kha-pa)がチベットのラサ近郊のガンデン(Ganden)に寺院を起こし、ゲルグパ(Gelugpa)だけを受け入れる宗派を設立しました。ゲルグパとは「道徳にかなった道を歩む修行者」を意味します。
ここには微妙な点があります。つまり当時のチベットには、いわゆる「道徳にかなっていない修行」がかなり多くの人たちに行なわれていたということが示唆されています。
ツォンカパの影響により、チベット仏教は大乗仏教の道徳性と、密教の実践をバランス良く組み合わせた教えになりました。そして、大乗仏教の中でも先ほど話題にした龍樹が始祖である中観派の影響を強く受けています。
チベット仏教のこの宗派は現在ゲルグ派(黄帽派)と呼ばれ、チベット仏教の主流派を構成しています。一方で、少数派になったサキャ派は、中国とインドの間に位置するブータンに主に存続しています。

ダライ・ラマの継承と生まれ変わり(輪廻転生)
チベットでは僧侶のことを「ラマ」(Lama:精神的指導者)とも呼びます。ラマの最高位は「ダライ・ラマ」であり、「ダライ」(Dalai)はモンゴル語で「大海」を意味します。
現在のダライ・ラマの本名はテンジン・ギャツォ(Tenzin Gyatso)で、1935年に生まれています。第14代目のダライ・ラマにあたります。歴代のダライ・ラマは先代のダライ・ラマの生まれ変わりだとされ、ダライ・ラマが死亡すると、寺院の高僧はただちに彼が、いつ、どこに生まれ変わる(輪廻転生する)のかを探り出し、その地を訪れ、将来の準備のためにその子どもを連れて行く許可を両親に求めます。

中国のチベット侵攻とダラムサラ、ノーベル平和賞の受賞
1959年に中国はチベットに侵攻しました。そのためほとんどのチベット人僧侶はインドに避難しました。ダライ・ラマ14世も祖国を逃れ、現在はインドのダラムサラの寺院に住み、亡命チベット政府の最高指導者とダライ・ラマを兼任しています。
1989年には、チベットの解放と、歴史と文化遺産の保護のための非暴力的な活動が理由で、ダライ・ラマ14世はノーベル平和賞を受賞しています。

下記は、当会の研究者によるダライ・ラマについての記事です。

記事:『ダライ・ラマ、倫理学と神秘家』
The Dalai Lama: Ethics & Mystic
ベティ・メイン
By Betty Main
テンジン・ギャツォ、ダライ・ラマ14世は世界で最も尊敬を集めている宗教的指導者の一人です。苦痛と苦悩に満ちたこの世界における内面的改革の必要性を彼は長年の間説いてきました。1935年7月6日にチベット北東部に生まれた彼は、2才の時に、前任者ダライ・ラマ13世の生まれ変わりであり、したがって慈悲の観音菩薩、チェンレンシの化身であると認定されました。菩薩とは、悟りを得ても涅槃に入らず衆生を救うために生まれ変わることを選択した存在です。

1950年、15歳の時に中国の軍隊がチベットに侵攻し、その政治的な力に屈することを彼は余儀なくされました。9年の間彼は、毛沢東や他の政治家たちと和解の話し合いをしていましたが、チベットでの武装蜂起によりそれは中断され、その結果中国側は「夏の宮殿」(ノルブリンカ宮)を爆破すると脅迫してきました。伝統ある建築物の数々とそこに住む居住者を守るために、彼はヒマラヤ山脈を越えてインドへ逃れざるを得なくなり、その地への政治的亡命が認められました。
インド北部のヒマシャル・プラデシュ州ダラムサラに本部を設立し、彼はそこで教えと導きによってチベットの伝統と文化を守り続けようとしました。亡命政府の人々は非暴力的な方法で、故国の将来に備えて活動を続けてきました。
肯定的そして否定的振る舞い
仏教の僧侶としての修行の結果、彼の教えは他者への愛、共感、配慮に基づくようになりました。その教えは、日常生活に組み入れられている原理の多くを反映しているので、バラ十字会員にとって興味深いものです。内面的改革という観念に鼓舞されダライ・ラマは、不幸と苦痛の原因となっている否定的な思考をやめて、代わりに精神が肯定的に思考できるよう訓練することを世界中の人々に説きました。
現在世界中に存在している悪の多くは人間が作り出したものであると彼は認識しています。テレビや新聞で毎日見られるイラク、アフガニスタン、スーダンのダルフール地区での戦争や暴動は、そのような例です。ダライ・ラマは様々な問題は暴力と破壊ではなく、対話と話し合いによって解決すべきであると唱えています。国境や国家主義の存在を彼は悲しんでいます。というのもそれらは「彼ら」と「私たち」との間の対立を作り出しているからです。対話と非暴力を実践することを通して何らかの和解に到達できるようにするために、力を行使するのではなくて、あらゆる角度から様々な問題を分析し議論すべきであると彼は信じています。

殺人、暴力、レイプ、結婚生活と家族生活の破綻もまた同じように否定的な振る舞いによって生じています。それらは恐怖、疑い、無力感、自己嫌悪を引き起こします。肯定的な思考を展開することにもし人生を捧げれば、愛、共感、寛容、非暴力に実践などの倫理的徳を広めることができます。否定的な振る舞いによってなされる損害に打ち勝つだけではなく、倫理的な価値観を広めることにも努めなければなりません。
肯定的思考を目指すだけでは十分ではありません。私たちはまた自身の行為の責任も背負わねばなりません。もし自身の思考と感情を再び整えたら、もっと容易に苦痛を乗り切ることができるだけではなく、おそらくはそもそも苦痛が生じることも避けることができる筈です。倫理を肯定して行動している人は一般に、倫理を無視している人よりも幸福であり、より満足感を得ていることが分かっています。
倫理学
ではこの倫理とはいかなるものでしょうか? それは本質的に他者への配慮を基盤としています。私たちの生活は非常に入り組んでおり、そのため他人や他人の協力、そして日常生活に必要なものを提供してくれる無数の人たちがなくては自身が存在することができません。したがって、私たちの思考や行動が他者を傷つけたりしないのであれば、それは倫理的であり、他者を害するのであればそれは倫理的ではありません。
この意味では、私たちの生活は、幸福を求める偉大な探究によって支えられていて、特定の行為が幸福をもたらしてくれると望み、期待しています。幸福になりたい、苦痛を避けたいという望みに国境はありません。心理と感情の面から、私たちは皆同じなのです。たとえ、皮膚の色、外観、肉体的な作りが違っていてもです。私たちは皆、平和と平穏をもたらすこの肯定的な感情を、わずらわしい否定的な感情同様、分かち合うことができます。
この統合された目的に到達するために、倫理的基準として普遍的に認められる規律を設けなければなりません。このために、私たちは他者への共感という感情を発達させ、他人の悲しみを理解し、他人の苦痛を分かち合おうとするべきです。他者の幸福を大切にすることは内的幸福と精神の平安をもたらします。もし私たちの精神が十分強ければ、困難な状況の中にあったとしても、静かで平穏であり続けることができます。
世界には豊かな国もあれば貧しい国もあります。しかし奇妙なことに、その進歩した工業や科学にもかかわらず、より苦しんでいるのは多くの場合、物質的に発展した国に住んでいる人々です。というのも発展が遅れた国々では、期待がそれ程高くはないので、そこに住んでいる人々に比べて先進国の人達は、満足してもいなければ幸福でもないことがしばしばあるからです。豊富に物質な物を持つことで、その所有者がより多くのものを欲しがり続け、貪欲、羨み、悪意といった混乱した感情に屈することになっています。満足が幸福ではなく、物質的関心によるものであるところでは常に、不安、抑圧、混乱、不確実、憂鬱が蔓延しており、精神安定剤、薬物、睡眠薬を日常生活で治療のために使用することが時おり必要になります。
宗教の影響
仏教、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教、シーク教、ゾロアスター教のような宗教は愛、共感、許しを基盤としています。多くの宗教がそうです。世界中には多くの国々と共同体があることから、必然的に様々な信仰が存在し、それらは個人個人が育った文化によってある人々にはふさわしく、それ以外の人々にはそうではありません。しかしながら、この信仰の多様性の中で、すべての人々は調和して生活することと、他者の信仰に寛容であることを学ばねばなりません。

宗教の衰退の影響により、どのように生活していくかについての混乱が増大しています。かつては宗教と倫理学が密接に絡んでいました。今では多くの人々が、科学は宗教の誤りを証明してきたと信じています。精神的権威の最終的な証拠が何もないところでは、道徳そのものが個人の選択の問題となります。過去には、科学者と哲学者らが不変な法則と絶対的真理とを築くための堅固な基盤に対する差し迫った必要性を感じていました。いまやこの種の探究は成果をもたらさないものと見なされています。そのような探究では究極にはもはや何も存在せず、現実性そのものが疑問とされ、その結果は混沌です。
内面的改革
信仰の本質的基盤の欠如は、多くの不安、抑圧、混乱、不確実性、憂鬱に繋がっていますが、そこに配慮してダライ・ラマは自分の教えを通して、内面的改革の必要性を強く主張しています。その改革は誰にも受け入れられる倫理学的原理を基礎に据えなければならないと彼は述べています。そこでは共感と理解を発展させることによって、行動と思考が他者の幸福へと向けられます。
私たちは諸々の習慣を変換して思いやりのある人になり、美徳から倫理を作り出さねばなりません。私たちは忍耐と不屈の精神を持って非暴力を実践しなければなりません。我慢強さは否定的な思考を抑えます。怒りは、内的平安の、したがって幸福への大きな脅威ですが、忍耐を発達させることは怒りに対する解毒剤となります。倫理的訓練によって、私たちは共感を学ばねばなりません。それは他者の苦悩を気にかけ、分かち合うことを意味しています。
さらに私たちは環境を守るために行動しなければなりません。今のところ地球は、私たちの唯一の故郷です。月や国際宇宙ステーションに行き来した宇宙飛行士たちは、私たちの青い惑星を見下ろすことができ、地球が美しく壊れ易いものであることを理解しました。私たちは地球を破壊している環境汚染に責任があり、そしておそらく、もしかしたら、世界中で起きている洪水、地震、火山の噴火、その他の自然現象という今日の出来事は、私たちの扱いに対する地球の抗議の結果であるかもしれません。
ダライ・ラマは広く旅をし、世界中の指導者たち、大統領、法王、大司教、政治的指導者、宗教的指導者に会ってきました。また貧しくつつましい人々にも会い、彼はこのような人たちとも生活を共にしました。彼は議会、集会、あらゆる種類の集まりで発言し、非暴力の教えによる平和を促し、大きな問題も小さな問題も対話と議論を通して解決しなければならないと強調しました。彼にとって戦争は、人間の行いとして時代遅れなやり方でした。
平和を願って
この40年間、世論は変化し、真の平和を求める声が増えてきました。国家の経済がしっかりと絡み合い、集団安全保障が出現しました。そのため離れた幾つかの国において平和維持のために国連軍が配備されるのを目にすることも増えてきました。
ダライ・ラマの目標は、いつか世界に、現在の国連の視点をはるかに超えた「世界人民評議会」が設立されるのを目の当たりにすることです。そのような組織は実に様々な背景を持った人々からなることでしょう。学術関係者、芸術家、銀行家、環境問題の専門家、法律家、詩人、宗教思想家、作家、そして普通の男女です。

これらのすべての人々は、高潔で、基本的な倫理的人間的価値に自身を捧げていると評価されることでしょう。その評議会は政治的力を与えられておらず、その声明は法的強制力を持っていないことから、その独立性によって、様々な審議は世界の良心を象徴しています。したがってそれらは至高の道徳的権威を表しています。
多くの人々はこのことは不可能であると言うでしょう。しかし、物事がうまく行かないために人々が他者を批判し非難する傾向にある一方で、このような建設的観念を推し進めることには本当に価値があります。人間が真理、正義、平和、自由に対して一般に持っている敬意を考慮すれば、より良い、より思いやりに満ちた世界を作り出すことには、本当の可能性があります。人間にはそれを実現する潜在的な力があります。
もし教育とメディアを適切に用いてダライ・ラマが出した提案のいくつかを実行することができるとすれば、世界の中に永遠の平和を作り出したいという彼の夢を促進するのに役立つ状況を確立することができます。

あとがき(生まれ変わり、あるいは輪廻転生について)
本文でご紹介したように、ダライ・ラマの後継者には、生まれ変わり(輪廻転生)だと認定された人が選ばれてきています。
このブログで過去にご紹介した生まれ変わり(輪廻転生)についての記事には以下の2つがあります。ご興味がおありの方はどうぞこちらもお読みください。
参考記事:『生まれ変わりについて-バラ十字会AMORCフランス語圏本部代表のブログより』
参考記事:『生まれ変わり-私の人生を変えた個人的な体験』
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第1号:内面の進歩を加速する神秘学とは、人生の神秘を実感する5つの実習
第2号:人間にある2つの性質とバラ十字の象徴、あなたに伝えられる知識はどのように蓄積されたか
第3号:学習の4つの課程とその詳細な内容、古代の神秘学派、当会の研究陣について
執筆者プロフィール

本庄 敦
1960年6月17日生まれ。バラ十字会AMORC日本本部代表。東京大学教養学部卒。
スピリチュアリティに関する科学的な情報の発信と神秘学(mysticism:神秘哲学)の普及に尽力している。
詳しいプロフィールはこちら:https://www.amorc.jp/profile/





