投稿日: 2024/10/22

以下の記事は、バラ十字会日本本部の季刊雑誌『バラのこころ』の記事を、インターネット上に再掲載したものです。

※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。

区切り

ゾロアスター|光と闇を発見した古代の指導者
ZOROASTER – Ancient discoverer of light and dark

ナヒド・アリアンプール
By Nahid Aryanpour

シャー・ナーメ(フィルドゥーシーがペルシア語で書いたイラン民族最大の叙事詩)のボンベイ版写本のゾロアスターの挿絵(1849 年)
シャー・ナーメ(フィルドゥーシーがペルシア語で書いたイラン民族最大の叙事詩)のボンベイ版写本のゾロアスターの挿絵(1849 年)

ゾロアスター(脚注1)は、ザラスシュトラ、ツァラトゥストラの名でも知られていますが、キリスト教が発祥する以前の世界に出現した偉大な指導者です。彼はゾロアスター教で、世界に究極の再生をもたらすサオシュヤント(訳注)の一人であると考えられています。サオシュヤントとは、アヴェスター語(脚注2)で「恩恵をもたらす者」という意味ですが、さらに「光をもたらす者」という意味もあります。

(訳注:サオシュヤント(Saoshyant):ゾロアスター教では、人類には新しい段階の秩序と進歩の時期が1000年ごとに訪れるとされ、その始まりに出現する者をサオシュヤントと呼ぶ。)

ゾロアスターの出生地は不明ですが、イラン高原の東部で生まれたという説が有力であり、おそらく現在のアフガニスタンのバクトリア、あるいは現在のイランのザグロス山脈のあたりであると考えられています。ゾロアスターが生きた時代は、一部の資料では紀元前2000年頃~紀元前1500年頃の間であり、エジプト第2中間期(訳注)とほぼ同時期か、その数世紀前とされています(脚注3)。別の資料では、紀元前7世紀から6世紀のアテネの偉大な政治家であり詩人であったソロン(紀元前639頃~紀元前559頃)とほぼ同時代の人とされています(脚注4)。さらには、そもそも実際の人物であるとすればですが、はるか有史以前の、おそらく紀元前6000年頃の人物であるという説もあります(脚注5)。

(訳注:エジプト第2中間期:紀元前1782年~1570年頃の、古代エジプトの王権が弱体化していた、第13王朝から第17王朝の時期を指す。)

イランのザグロス山脈
イランのザグロス山脈

ゾロアスターの出生地にも生きた時代についても一致した見解はありませんが、おそらく彼の教えは、まったく新しい宗教だったのではなく、既存の信仰体系にいくつかの根本的に新しい概念を取り入れた改革宗教であった可能性が高いと考えられます。新約聖書で、イエスが古い宗教であるユダヤ教の改革者として描かれているように、ゾロアスターはさらに古い、有史のはるか以前にまでおそらくは遡る起源を持つ、ヴェーダの宗教の改革者であった可能性があります。

(訳注:ヴェーダの宗教(Vedic religion):紀元前2000年頃から紀元前500年頃にかけてインドで編纂された一連の宗教文書であるヴェーダ(Veda)を聖典とする宗教。)

ゾロアスターがアクナトン(アメンホテップ4世)やモーセと同時代の人物であり、その時期に著作を残したという推測もありますが、ほぼ確実に誤りでしょう。この推測は、彼らが創始した3つの宗教の共通点、すなわち一神教という、たったひとつのつながりだけを根拠にしているからです。しかし、ゾロアスターがアクナトンより何世紀も前に生きていたのだとすれば、ゾロアスターの教えが最終的にアクナトンの父のアメンホテップ3世の時代、あるいはそれよりも数世紀前にエジプトの王朝に伝わったということは、まったく考えられないことではありません。それはちょうど、初期のヴェーダの伝統思想の最高神を表す最高の表現であるオーン(Om)が、エジプトの神々のシステムに伝わってアン神(Am)となった可能性があり、アン(Am)もしくはアムン(Amun)の男性形であるアメン神(Amn)がテーベの最高神になり、高さ1メートルほどの彫刻として表されたのと同じです。何千キロも離れた地域での当時の宗教信仰が、互いにある程度影響を及ぼし豊かになっていったということは、今日でははるかに広い範囲で起こっていますが、それが間違いなく起こったのだと思われます。

ベヒストゥンの碑文、ゾロアスター教の象徴の下に描かれている、敵に勝利する古代ペルシアの王ダレイオス
ベヒストゥンの碑文、ゾロアスター教の象徴の下に描かれている、敵に勝利する古代ペルシアの王ダレイオス

ゾロアスターの生涯は謎に包まれていますが、後世に残したその崇高な原理に謎めいたものはありません。その原理は誠実で建設的な生き方をする方法を示すものであり、アクナトンの信仰システム、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の古代の原型であることは明らかです。ゾロアスター教の核心にあるのは、光と闇という概念です。もちろん、人間の精神に現れる相反する2つの概念は、光と闇だけではありませんが、光と闇はおそらく最も古い概念でしょう。

現在の人類が登場するよりもずっと以前から、昼と夜に対応するこの2つの概念が、初期のヒト科の祖先の日常生活に深く根付いていたことは間違いありません。昼と夜は、自然界の中で最も明確に表れている正反対の性質を持つペアであることは確かであり、ほとんどの生きものは、昼と夜の間の壮大な差異を把握しています。昼の光は、善なる光の神アフラ・マズダ、別名オルマズド(啓示を受けた知恵)になり、夜の闇は、悪の暗黒の神アンラ・マンユ、別名アーリマン(破壊と闇の神)になりました。

ゾロアスター(中世および現在のペルシア語ではザルドゥシュト(Zardusht))は、あらゆる面で普通の人でしたが、周囲に存在する苦しみと不正を見て心をかき乱されました。妻や親戚は非常に心配しましたが、ゾロアスターはある日、答えを求めて荒野に向かいました。この話をどこかで聞いたことがないでしょうか。モーセも、イエスも、ムハンマドも、皆同じ行動をとりました。ある日、洞窟の入り口の前に座りながらゾロアスターは、苦行者としてのこの生活に取り組む価値があるのか、すべてを諦めて家に帰ったほうが良いのではないかと考えました。それからまもなくすると、遠い丘の向こうに太陽が沈み、眼下の谷に闇が忍び寄りました。その様子を見つめていて、外面的な生活が昼の光と夜の闇に分かれているように、思考の世界も善の光と悪の闇に分かれていることを彼は初めて理解しました。そして、邪悪な思考すなわち悪の闇であるアーリマンが、人間のあらゆる苦しみの原因であると考えました。

この考えは、21世紀の私たちにとってはありふれた考えであり、当たり前のことに思えるでしょう。しかし、今日ではまったく当たり前のことと思われている基本原理の多くは、かつてある人が初めて考え出したものであり、それ以前には誰も考えたことがなかったのだということを心に留めておくべきです。私たちが考えることのできるあらゆるものには最初があったのであり、そして疑いなく、善と悪の概念の登場や、それを光と闇の概念に結びつけることにも、最初に行われた時がありました。

ゾロアスター教の聖典「ゼンド・アヴェスタ」の写本の一部(ボドリアン図書館MS・J2)
ゾロアスター教の聖典「ゼンド・アヴェスタ」の写本の一部(ボドリアン図書館MS・J2)

この啓示を受け取った後、ゾロアスターは家に戻り、彼に耳を傾けるすべての人に、善について、そしてどんな犠牲を払っても善を追求する必要があることを教え始めました。ゾロアスターはおそらくその当時も、さらには彼の死後何世紀のことを考えても、最も偉大で最も革新的な宗教指導者でした。彼の影響は、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教という3つのアブラハムの宗教の教義に残されています。ゾロアスターの教えは神聖な三角形を形成しています。その3つの頂点はこの3つの宗教にモットーとして繰り返し登場します。それは、「善の思考」、「善の言葉」、「善の行動」、すなわちアヴェスター語で「フマタ」(Humata)、「フクタ」(Hukhta)、「フバルシュタ」(Hvareshta)です。

まず、最初の頂点である「善の思考」について見てみましょう。ゾロアスター教の聖典には次のような記述があります。

「あなたの人格はあなたの思考によって構成されている。あなたは、自分が考えたとおりの人物になる。」

すべての人は自由意志を持ち、善の思考を抱くか悪の思考をはびこらせるかを選べるということをゾロアスターは強調しました。これはかなり後の仏教哲学に登場する正しい思考(正思)と、そうでない誤った思考にあたります。

「崇高な考えを抱けば、崇高な性格とともに生まれる。邪悪な考えを抱けば、邪悪な性格とともに生まれる。」

思考としての崇高な構想は万物の始まりであり、そのため、ゾロアスター教の神聖な三角形の最初の頂点です。先ほどの引用文が暗に示しているように、ゾロアスター教では、明確には語られていないものの、ヴェーダの宗教の系統に見られるような生まれ変わり、もしくは輪廻転生(訳注)の存在を明らかに認めています。

(訳注:生まれ変わり(reincarnation)もしくは輪廻転生(transmigration):この2つの語は完全に同じ意味として用いられることもあるが、前者は人間が動物に生まれ変わることはないとし、後者はあるとすると区別されることもある。)

ラファエロ作「アテナイの学堂」(1509 年)のゾロアスターを描いた部分
ラファエロ作「アテナイの学堂」(1509 年)のゾロアスターを描いた部分

次に、2番目の頂点、「善の言葉」について見てみましょう。聖典では善の言葉について、「各々の人にふさわしい、受け取るべきものが与えられる」(因果応報)と忠告しています。優しい心から発する言葉を声に出してください。相手の心に触れる善の言葉を惜しみなく話す機会は、毎日数えきれないほど何度も訪れます。善の言葉によって、相手の人生に良い変化がもたらされる可能性があります。言葉には、善をなすようにも悪をなすようにも、人を駆り立てる力があります。しかし、発し続ける価値があるのは善の言葉だけです。善の言葉だけが人生のあらゆる部分に成長と励ましをもたらすからです。

そして最後に、三角形の3番目の頂点である「善の行動」を見ていきましょう。親切な行為を通して私たちは、それまで考え、話していた想像の内容を実際の行動に変えます。行動することによってだけ、想像を物質的な現実に具現化することができます。善の行動を行うたびに、その行動をする人も、その行動から恩恵を受ける人も、さらに高度な内面的理解へと続く道を少し前進することになります。バラ十字哲学では、真の精神的な成長への鍵は、他の人たちへの奉仕という無私の行為にあるとされています。

イラン、ヤズドのゾロアスター教寺院
イラン、ヤズドのゾロアスター教寺院(Zenith210,CC BY-SA 3.0 www.creativecommons.org/ licenses/by-sa/3.0, via Wikimedia Commons)

ゾロアスター教の信者は、自分たちの宗教のことを「マズダヤズナ」(Mazdayazna:マズダの崇拝)もしくは「ディン=エ・ザルドゥシュト」(din-e zardusht :ゾロアスターの宗教)と呼んでいます。そしてゾロアスター教は、すべての人々にとっての永遠である善はただ一つ、「ソウル(魂)の健全性と影響力と純粋さ」であると主張しています。このことを象徴する際だった例を、インドのゾロアスター教の信者であるパールシー(Parsis:「ペルシア人」を意味する)の服装に見ることができます。パールシーは、この古代の光の宗教を今でも信奉しています。

パールシーは、自分の職業に最も適したさまざまな服を身につけますが、その内側にはスドレ(sudreh:白いシャツ)とクスティー(kusti:ウール製の白い腰紐)を必ず着用しています。スドレは質素で清らかな人生の象徴です。子羊の毛で作られたクスティーは、着用する者に純真さと優しさを思い起こさせます。クスティーを身に付けるという行為によって個々の信者は、悪と闘うという誓いを思い起こします。腰紐を巻くという行為は、内なる真の自己に話しかけようとすることを意味しており、腰紐には3つのねじりが施されていて、善の思考、善の言葉、善の行動を表しています。

ゾロアスター教のパールシーのナオジョテ(入信)の儀式
ゾロアスター教のパールシーのナオジョテ(入信)の儀式

ゾロアスター教の信者たちは、そのように考えられてしまうこともありますが、火を崇拝していたわけではありません。信者にとって火は、内面的な清らかさの象徴であり、象徴以上のものではありませんでした。ゾロアスターの哲学は、心の内面の健全さと満足に最高の価値があるとすることを基礎にしており、信者は、暮らしに神聖な秩序を感じ取ることができます。定期的な祈り、世界を再生させるための儀式、社交の時間、慈善行為、偉大なる光の神アフラ・マズダに祈りを捧げる個人的な時間から信者の生活は構成されており、この生活様式の神聖な秩序によって、信者は結束と一貫性を感じます。

ハンバンダギ(Ham-bandagi)は共同で行う祈りですが、善の追求が手段であるだけでなく、それ自体が目的でもあることを表わしています。善を追求することによってだけ、社会的な協力、調和、個人の内面的な解放に人は導かれるからです。神聖な人生を歩むために定められた様式に従うと、成長、進歩、幸福のための多くの機会を宇宙が私たちに与えてくれます。ゾロアスターに「幸福とは何か」と尋ねたとすれば、おそらくただ一つの答えが返ってくることでしょう。「幸福とは、誰の目にも見えるようにあなたのソウル(soul:魂)を外に表現することです」。

ニュルンベルグ年代記に描かれ
たゾロアスター
ニュルンベルグ年代記に描かれ たゾロアスター

脚注

1. ゾロアスター(Zoroaster)は、ギリシャ語のゾーロアストレース(Zōroastrēs, Ζωροάστρης)の英語表記である。

2. アヴェスター語はペルシア語の初期の形態であり、サンスクリット語に非常に近いインド・ヨーロッパ語である。ゾロアスター教の教義の最も古い部分が古アヴェスター語で書かれていたことが一つの理由で、この分野の専門家は、ゾロアスター教の起源はヴェーダの宗教の出現に近い時期、紀元前2500年頃から紀元前2000年頃の間であると考えている。

3. いずれもゾロアスターが書いたとされる、『ガーサー』(Gathas)と『ヤスナ・ハプタンハーイティ』(Yasna Haptanghaiti)は、古アヴェスター語で書かれている。古アヴェスター語は、最も遅い見積もりでも紀元前2000年頃に用いられていたもので、さらに数百年前に用いられていた可能性も高く、サンスクリット語と同時代に使用された言語である。しかし、現存するゾロアスター教の文書はすべて、西暦5世紀から6世紀よりも後に書かれたか、あるいはこの時期に、それ以前の文書から転写されたものである。しかし、ゾロアスターの著作をプルタルコスやディオゲネスなどの古代ギリシャ人が参照していることから、それは紀元前600年より前の時代に書かれたと考えられる。

4. アレクサンドロス大王がバビロンとその東側と北側の土地を征服した後、セレウコス朝の王が大王の没年(紀元前323年)を基にした新しい暦を導入した。ゾロアスター教の祭司たちは、預言者ゾロアスターの生誕を基にした独自の暦を正式に制定しアレクサンドロス暦に対抗した。19世紀まで広く受け入れられてきたゾロアスターの生誕のいわゆる「伝統的な日付」は、アレクサンドロス暦よりも258年前、すなわち紀元前581年とされていた。

5. 『先史学者プラトン』(Plato Prehistorian)、メアリー・セットガスト(Mary Settegast)著を参照。

※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラのこころ」の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。

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