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メルヘンとシュタイナー

2016年2月26日


 

こんにちは。バラ十字会の本庄です。

バラ十字会日本本部代表、本庄のポートレイト

 

東京板橋は、数日ぶりに晴れ渡って爽やかな日になりました。もうそろそろ、寒さも和らぐころですね。

いかがお過ごしでしょうか。

 

さて、メルヘンという言葉から、あなたはどのような話を思い浮かべるでしょうか。空想的で、聞いていて幸せを感じるような、ほのぼのとした話を連想するのではないでしょうか。

 

ドイツの代表的なメルヘンに、グリム兄弟が集めた話があります。『ヘンゼルとグレーテル』や『白雪姫』が含まれている童話集です。

ところが、初版の翻訳を読むと、ちょっと驚きます。残酷だったり、嘘つきだったりする登場人物の話のオンパレードなのです。それどころか、動物や人の首がはねられるシーンがあったり、嫉妬や裏切りや子捨てが、多くのストーリーで鍵を握っています。

 

これらの話は、グリム兄弟がドイツの各地をめぐって、民間の口伝えをできるだけそのまま書き留めたものなのだそうです。ところが初期の出版には、子供たちにふさわしくない、語り口がぶっきらぼうすぎるなどの批判があり、何度も書き換えられ、童話としての体裁が整えられました。

残酷な話が、必ずしも子供に受けないわけではないようですが、ドイツ語の「メルヘン」(maerchen)は語源的に、「短い詩」、「小さい海」などを意味し、もともと、特に子供向けという訳ではなかったようです。

 

19世紀のドイツの神秘家ルドルフ・シュタイナーは、メルヘンについての講演を何回か行なっています。そして、真のメルヘンは、人の心の最も奥底にある真実が表わされたもので、どのような年代の人にとっても、魂の最良の栄養になることを指摘して、メルヘンを読むことを大いに勧めています。

絵本を読む母親と女の子

 

シュタイナーはまた、メルヘンの中には太古の人間の記憶が表れていると考え、メルヘンを自身の神秘学の立場から、次のように解釈しています。

人間には昔、感覚するだけで、自己と環境を区別する能力(意識)も考える能力(悟性)もなかった時代があったのだそうです。ところがその当時の人間は、自然界の四大元素、つまり地水火風のエネルギーを思いのままに操ることができたので、そのときの自分たちの偉大さのかすかな記憶が、メルヘンの中では巨人として登場します。ですから巨人たちは、自然の荒々しい力を反映して凶暴ですが、必ず愚かなのだそうです。

 

そして、時が経ち、人が考える能力を身につけたときの記憶は、メルヘンでは、「賢い女たち」、「姉妹」として登場します。

そして、さらに自己意識を持つようになると、人間は、自然界の諸力をコントロールする能力を失い、環境に対する自分の卑小さ、無力さを感じるようになったのだそうです。その当時の記憶が民話の中では、「こびと」として表わされています。しかし「こびと」は、狡猾さによって巨人に勝利します。(脚注1)

Steiner Berlin 1900 big

 

以前ご紹介させていただいたことがありますが、イギリスでは、言語学者のJ・R・R・トールキンは、古代のヨーロッパの伝承を収集して、それを素材にして『指輪物語』や『ホビットの冒険』、『シルマリルの物語』を作りました。

こちらにも、巨人、賢い女性、こびとなどが同じように表れます。それどころか、これらは、あらゆる文化に共通する普遍的な要素のようです。心理学者C・G・ユングが「元型」と呼んだ心の作用と深い関連があるのではないかと思われます。

(記事「ロードオブザリングについて」: http://www.amorc.jp/blog/?p=977

 

グリム童話を読むと、残酷で不道徳な要素が満載であるにもかかわらず、不思議な心地よさを感じます。そして、思わず引き込まれて、時間が飛ぶように過ぎていきます。

グリム自身は次のように語っています。

「(このような口伝えの物語の)その存在そのものが、守るに値するのです。これほど多様に、そしてくり返し新たに楽しませるもの、心を動かし、教えを与えるものは、それ自身の中に必然性を備えており、あの永遠の泉、すべての生きるものを露で濡らし、閉じた小さな葉の中のほんのひとしずくさえが曙の光に輝くあの永遠の泉より、湧き出たものに違いありません。」(脚注2)

 

一方この分野では、日本もヨーロッパに負けていません。『日本霊異記』や『遠野物語』は実に素晴らしい説話集です。何となく心がざわざわとする懐かしさがあり、心にたっぷりとエネルギーをもらうことができます。人の心の最も奥底にある真実が表わされた、シュタイナーの言う「真のメルヘン」にあたるのでしょう。

 

メルヘンと呼ばれているわけではありませんが、バラ十字思想に深く関わっている良質な寓話が多数あります。ぞくぞくするほど不思議な話です。その中でも、特に有名なものを以下に3つご紹介します。

1.『クリスチャン・ローゼンクロイツの化学の結婚』(Chymical Wedding of Christian Rosenkreuz)

当時ドイツで活動していたバラ十字会の一派チュービンゲン・サークルが1616年に公表した寓話です。謎めいた城を舞台にした7日間にわたる物語で、錬金術にまつわる多数の象徴を用いて、人間の心の変容を幻想的に表わしています。

 

(この話の日本語訳は、紀伊國屋書店から書籍『化学の結婚』として出版されています。この本には、『化学の結婚』に先立つバラ十字会の2つの文書『バラ十字友愛組織の声明』(1614年)、『バラ十字友愛組織の信条告白』(1615年)も含まれています。この3つの文書の英語版は、当会の米国本部の下記のWebページで読むことができます。)

http://www.rosecroixjournal.org/resources/

 

2.『地上の迷宮と心の楽園』(The Labyrinth of the World and the Paradise of the Heart)

ユネスコ精神の生みの親であり、近代教育学の父とされるヤン・アーモス・コメンスキー(コメニウス)が、『バラ十字友愛団の声明』から様々な要素を取り入れて書いた寓話です。チェコ文学の一大傑作とされており、邦訳書が出されています。

(紹介記事「コメニウスと『地上の迷宮』」: http://www.amorc.or.jp/misc/Comenius.html

コメニウスの肖像画

コメニウス

 

3.『緑の蛇と百合姫のメルヘン』

こちらは、『クリスチャン・ローゼンクロイツの化学の結婚』に刺激されて、ゲーテが書いたメルヘンです。先ほどご紹介した『メルヘン論』に付録として掲載されています。

(紹介記事「ゲーテについて」: http://www.amorc.jp/blog/?p=989

 

それ以外にも、『パラボラ』(Parabola)、『太陽の扉の向こう側に立つ赤い男』(脚注3)、『ザノーニ』(Zanoni)などが、バラ十字思想に深く関連している、幻想的で奇っ怪な寓話として有名です。

ご興味のある方は、どうぞ、お好きな入り口から、この魅惑的な世界にお入りください。そして、優れた寓話が、心にパワーを与え、目覚めさせてくれることを体験してみてください。

 

それでは、また。次回もお付き合いいただければ、心から嬉しく思います。

 

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脚注

1.『メルヘン論』、ルドルフ・シュタイナー著、高橋弘子訳、水声社、1990年

2.『初版グリム童話集1』、株式会社白水社、2015年(電子書籍版)、序文

3.紹介記事:「太陽の扉の向こう側に立つ赤い男 -バラ十字の錬金術の寓話」 http://www.amorc.or.jp/misc/The_Red_Man.html

 


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