投稿日: 2024/04/09
最終更新日: 2024/04/24

以下の記事は、バラ十字会日本本部の季刊雑誌『バラのこころ』の記事を、インターネット上に再掲載したものです。

※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。

区切り

太陽神ラーの涙と神聖なミツバチ
Tears of Ra – The Sacred Bee

ペンサトリックス
By Pensatrix

数百万年前の岩石や琥珀の中から、ミツバチ(蜜蜂)の化石が発見されています。旧石器時代の人々は、動物を家畜化したり農業を行ったりするようになるずっと以前から、ハチミツ(蜂蜜)を採集していました。古代の人々はどんな重要な出来事も、ミツバチに伝えるべきだと考えていました。それに違反することの恐れは大きなもので、たとえば赤ちゃんの誕生をミツバチに伝えなければ、災いが訪れると考えられていました。

狩猟採集民の食生活においてハチミツは甘味の主要な供給源であったため、彼らは野生のミツバチの巣から蜜を得るための、どんな苦労も惜しみませんでした。スペイン東部のバレンシア地方のアラーニャ洞窟(クモの洞窟)では、およそ1万年前の岩絵が発見されています。そこには、野生のミツバチの巣に向かって岩壁を登っている人とミツバチの姿が描かれています。バラ十字会AMORCに長年貢献した会員であったダブリンのテレサ・ライドンは、アイルランド・エジプト学会誌に掲載された記事の中で、深い愛情とともにミツバチについての以下の解説を行っています。

「クモの洞窟」の岩絵。野生のミツバチの蜜を採集するために壁を登っている人
「クモの洞窟」の岩絵。野生のミツバチの蜜を採集するために壁を登っている人

ミツバチは熟練した航海者であり、植物学者であり、エンジニアである。蜜蝋でできた巣は、驚異的な堅固さと軽さを備えている。ミツバチの巣は、しばしば厚さが1/3ミリ以下の薄い壁で仕切られた、断面が六角形の部屋(cell:巣房)が並ぶ構造になっており、自重の30倍の重さを支えることができる。ミツバチは、ときには自分の体重の半分ほどに達する花の蜜を蓄えて野原から巣に戻る。そして巣の上でダンスを行う。まず一方向に円を描き、次に8の字を描くように反対向きにもう一度円を描くことを繰り返す。円が合わさった所では、尻を勢いよく振りながら、まっすぐに飛ぶ。ダンスをしているハチの周囲には他のミツバチが群がり、そのハチが訪れた花の香りを触角で嗅ぎ取る。次に他のミツバチは巣を離れ、尻振りダンスによって示された方角に飛んでいく。このようにして時間を無駄にすることなく、蜜の豊富な花を見つける。」

「1ポンド(約450グラム)のハチミツを作るには、花の蜜を3万7千回も運ぶことが必要である。花が咲き乱れる場所でも、赤道の長さの2倍以上の距離を合計で飛ぶことになる。すなわち、たった1ポンドのハチミツのための飛行距離は8万キロにも及ぶ。ミツバチの大きな複眼は、何千もの六角形のレンズから構成され、赤色は見えないが、青と黄と、人間の目には見えない紫外線を見ることができる。ミツバチはまた、空から届く偏光を分析することもできる。」

「太陽の位置によって、ミツバチは空のそれぞれの区域に特徴的な偏光のパターンを見ている。人間にはただの青色にしか見えないが、ミツバチには空に偏光のパターンが見えており、それによって東西南北を知ることができる。ミツバチが探している花の上方に到着すると、花の香りによって蜜がある花へと導かれる。」

「ミツバチは花の蜜をハチミツへと変化させる。ミツバチの体内にある酵素によって、その変化が開始される。ミツバチは巣で、花の蜜が含まれた液体を他のミツバチに渡し、次にそのミツバチがその液体に別の酵素を加えて、空いている部屋に貯蔵する。そのセルで余分な湿気が蒸発し、花の蜜はハチミツになる。およそ400ポンド(180キログラム)の濃縮されたハチミツが、コロニー(colony:群れ、集団)を1年間維持するのに必要とされるが、それは、花の蜜を集めるミツバチが1500万回近くも往復した成果にあたる。」

ミツバチの化石の例
ミツバチの化石の例

「巣の中に住むミツバチには、働きバチ、雄バチ、女王バチの3種類がいる。ミツバチの大多数は雌の働きバチで、女王バチよりも小さく、卵を産むことはできない。働きバチはコロニーを維持するための膨大な働きを担っている。食べものを集め、幼虫を育て、巣を清潔にし、巣を防御することである。雄バチはドローン(drone)と呼ばれることもあるが、未受精卵から生まれ、働きバチよりも少し大きくなる。コロニーの中での雄バチの唯一の役割は、新しい女王と交尾をすることである。」

「女王バチはコロニーを一つにまとめる力である。新しい女王バチは、特別な部屋に置かれた幼虫から成長し、ロイヤルゼリーという特別な食物を働きバチから与えられて育てられる。これは、ビタミンやたんぱく質が豊富な、働きバチの咽喉腺からの分泌物である。新しい女王バチは交尾のための飛行を行った後に、巣の中に戻り、そこで何千個もの卵を産む。働きバチが作るロイヤルゼリーを食べて、一日で女王バチは自分の体重と同じくらいの卵を産むことができる。」

「卵が孵化すると、視力のない白色の、足のない幼虫になる。働きバチの場合、1日に1300回も食事をし、6日もしないうちに1600倍近くの大きさに成長する。次に幼虫は食べることを止め、自分の周囲に薄い繭を作る。そして世話係のミツバチが通気性のある蜜蝋で部屋を覆う。外から見えない状態で幼虫は成長し、3週間目の終わりに繭を噛み破り自由な世界へと出てくる。大きなコロニーでは1日に千匹の新しいミツバチが、4万もの部屋がある巣から姿を現す。」

ミツバチとハチの巣
ミツバチとハチの巣

巣の中では、すべての働きバチがコロニー全体の繁栄に貢献するために、何らかの作業を忙しく行っています。ある働きバチは蜜蝋を作り、また別の働きバチはハチミツを貯蔵したり、女王の世話をしたり、巣の入り口を守ったりしています。その一方、羽で扇いで巣の内部全体に新鮮な空気を送り込んでいる働きバチもいます。新しく生まれたミツバチは、およそ2週間巣の中で働きますが、その仕事の種類は、体内で発達する腺の順序によって定められています。2週間が過ぎると、ミツバチは巣を離れ、花の蜜を探すために空に飛び立ちます。その後は一生、花の蜜や花粉を探して野山を飛び巡ります。

寒い季節になると、コロニーでは巣の中でハチたちが体を寄せ合って、ゆるく編まれた球体のようなものが作られ、気温の上昇や低下に伴って膨張したり収縮したりします。この球体の中では、何匹かのハチたちがダンスをしています。ミツバチたちは左右に動いたり、前に出たり後ろに下がったりして踊り、この動きを続けることによって、運動によって体を暖め、巣の温度を上昇させます。球体の外側に集まったミツバチは、断熱性の高い外壁の役割を果たし、熱が逃げることを防いでいます。外側のハチは、その時々に、躍っているハチと場所を入れ替わります。このようにしてミツバチは、体の運動を熱に変えたり、空気の流れを生み出して巣を冷やしたりして、ハチミツを作る巣の温度を調整しています。

黄色い蜜蝋
黄色い蜜蝋

「古代エジプトの神話では、太陽神ラー(Ra)が泣いてその涙が地面に触れたとき、ミツバチに変化したとされている。」(参考文献1)

太陽神ラー
太陽神ラー

ハチミツは、世界中で何千年も前から狩猟採集民に知られており食用にされていましたが、特にアフリカではそれが盛んでした。また、古代エジプトには、ハチミツの採集やミツバチの薬としての重要性について説明した文書や碑文が残されています。紀元前3500年ごろ、上エジプトと下エジプトが一つの王国に統一される数百年前には、ミツバチは下エジプト(主にナイルデルタ地帯)を象徴する象形文字であり、葦が上エジプトを象徴する象形文字でした。この2つの象形文字を組み合わせたものが、「上エジプトと下エジプトの王」を意味していました。

紀元前1825年ごろの、中王国の第12王朝のファラオ、アメネムハト3世の時代のカフーン・パピルスには、次のような文章があります。「彼は2つの土地を統一した。彼は葦をミツバチに結び付けたのである」。紀元前3世紀には、植物の開花時期の違いを活用するために、ハチの巣が平底船に載せられたり、ロバの背に載せられたりして各地に運ばれました。こうして、ミツバチはエジプト全土を旅するようになったのです。

ハチミツの採集(第18王朝の高官レクミラ(Rekhmire)の墓の壁画をエジプト学者Nina de Garis Daviesが模写したもの)
ハチミツの採集(第18王朝の高官レクミラ(Rekhmire)の墓の壁画をエジプト学者Nina de Garis Daviesが模写したもの)

ローマ時代には、養蜂家を表わす象形文字があり、「ハチミツを密封する者」(the sealer of the honey)と呼ばれていました。巣箱は、焼いた粘土で中空の管の形に作られ、片方が細くなっています。アブシール遺跡にある第5王朝のファラオ、ニウセルラー・イニの太陽の神殿の壁のレリーフには、ハチミツの圧搾、燻製、充填、密封の様子が描かれています。蜜蝋でできた巣からハチミツを取り出すためには、穴のあいた特別な粘土の容器が用いられていました。ハチミツは大きなボウルに流し込まれ、蜜蝋は主に神殿で行われる儀式のために保管されました。古代エジプトでは、養蜂家が、何らかの形の組織を作っていたことが知られています。ある地域の組織に所属する養蜂家もいれば、神殿に所属して、儀式や治療のためにハチミツを提供していた養蜂家もいました。このことは、古代エジプトの生活に、ミツバチとハチミツがいかに重要であったかを立証しています。

ハチミツは高級品でしたが、ほとんどの家庭で用いられていました。現在知られているプロポリスなどと同じように、ハチミツには治癒効果があると考えられており、ケリ・ヘブ(Kheri Heb)と呼ばれる高僧によって魔術的な治療の儀式に用いられていました。その知識は世代から世代へと伝えられていました。蜜蝋は小さな像を作るのに用いられました。第13王朝期に製作されたとされているウェストカー・パピルスには、エジプト古王国時代(紀元前2686~2181年頃)の逸話が書かれています。第3王朝末期のファラオ・ネブカの神殿の神官長は、彼の妻に愛人がいることを知ります。

蓮の花を放つ太陽神ラーの前に立つタペレット夫人の石碑(パリ、ルーブル美術館蔵)
蓮の花を放つ太陽神ラーの前に立つタペレット夫人の石碑(パリ、ルーブル美術館蔵)

彼は蜜蝋でワニの小像を作り、使用人に命じてその愛人が通る水路に沈めました。その愛人が通りかかると、蜜蝋の像は生きた実物大のワニに変化し、愛人を湖の底に引きずり込みました。神官長がこの話をファラオ・ネブカにすると、ファラオはそのワニに愛人を地上に連れてくるように命じ、さらに、目の前でむさぼり食うように命じます。次にファラオは、神官長の妻を出頭させ、死刑にして川に投げ込みます。

蜜蝋とハチミツは、人間や動物の腐敗防止処理にも使われていました。神殿とファラオに支払う税金は、ハチミツで納められていました。使者と軍隊の旗手に与えられる配給には、ハチミツが加えられていました。メンフィスの聖牛アピス、ヘリオポリスの聖牛ムネウィス、メンデスの聖なる羊バネブジェド、レオントポリスのライオンのマーヘス、クロコダイルポリスのワニのソベク・シェデティなどの神聖な動物には、上等な小麦粉や牛乳、ハチミツで作った菓子が供えられました。

ファラオの「口開け」の儀式を描いた第19 王朝の『死者の書』
ファラオの「口開け」の儀式を描いた第19 王朝の『死者の書』

ハチミツは、料理やワインの甘味料として重要な役割を果たしていましたが、最も重要な用途は医療でした。ハチミツと蜜蝋の効能を称えている、医療分野のパピルスが数多く存在しており、ハチミツと蜜蝋を用いた医学の訓練が神殿を中心に行われていたようです。

亡くなったファラオの「口開け」の儀式のひとつには、「ミツバチが彼の存在を保護する」という文言があります。エジプトの神官が儀式で行った魔術的な文言の詠唱によって、パン、ワイン、ハチミツが聖なる物質に変化したとされます。第5王朝の魔術のためのパピルスにはこうあります。「ラーが泣くと、再びその目から水が地面にこぼれ落ち、働きバチになった。働きバチはあらゆる種類の花々と木々の間で働き、蜜蝋とハチミツを生み出す」。猫が「太陽の穏やかな温かさ」と呼ばれていたのと同じように、ミツバチは「太陽の涙」を表していました。

ミツバチと葦(Nesut bit:ネスト・ビト)の象形文字は、「上エジプトと下エジプトを治める王」を表わしている。ミツバチは下エジプトの象徴であった
ミツバチと葦(Nesut bit:ネスト・ビト)の象形文字は、「上エジプトと下エジプトを治める王」を表わしている。ミツバチは下エジプトの象徴であった

参考文献

1. The Tears of Re (Beekeeping in Ancient Egypt) by Gene Kritsky ISBN: 978-0-19-936138-0.

※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラのこころ」の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。

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