投稿日: 2021/12/10
最終更新日: 2023/02/15

ジョージ・バレッツァ博士

生命と結晶の本質

 人間の意識が目覚め、心の発達という驚くべき神秘が始まった原始時代から、結晶の成長は、人々を魅了し惹きつけてきました。人間の心は、完全な光、つまり宇宙意識へ向かって、より完全に目覚めようと努力し続けています。このような努力を通して、人間の本質部分である心を作り上げている潜在意識の力は、自然界に存在する同じような力に惹きつけられます。しかし、詩的な感情や、類似性を見極める力や、探究心がなければ、心の奥に宿っている、輝くような自己にある創造的な性質は、新たな成長や活力を運ぶ媒体にも、また新たな成長や活力の原因にもなってくれません。結晶の成長は、人間の成長と同じように、強い関心を示すべき、そして、熟考し瞑想すべき価値があるテーマです。神秘家やバラ十字会員、そして詩人も指摘しているように、結晶学は、自然界の原理を解明していく学問、すなわち、私たち自身に作用するのと同じように、私たちの身の周りの世界にも作用している普遍的な原理を解明していく探究です。

進化という観点から言えば、一般に生き物であると考えられている形態に向かって、多数の分子が混ぜ合わされたスープが変化を開始したとき、その変化は最初、吸引力、すなわち粘り気の増加として表れます。このことは安定性という性質として知られています。引力と斥力の原理の作動、つまり物体に対して吸引力と反発力が作用することは、生命に不可欠な秩序ができ始めることであり、すなわちネゲントロピー(訳注)が増加し始めることです。しかし、生命に必要なこのような粘り気の増加は、その後、安定性と秩序を得るための道筋で、どのような種類のものになっていったのでしょうか。さまざまな分子が混ぜ合わされたスープは、実際にはどのようにして、正確に配置され生命になったのでしょうか。その答えは、同じものが集まり、まず一列に並び、次に層状に並び、次に格子状に並んだということです。手短に言えば、分子が結晶化します。というのも、結晶とは、秩序ある構造のことだからです。この理由から、結晶は、生命という秩序の基本構造であると言えます。また、岩はもとより、樹木や筋肉や骨にいたるまで、秩序あるあらゆる固体は、結晶と呼ぶことができます。

訳注:ネゲントロピー(negentropy):エントロピー(entropy)は無秩序さ、つまり乱雑さを表す熱力学の指標にあたる。物理学者エルヴィン・シュレーディンガーは、エントロピーに負号を付けた値をネゲントロピーと名づけ秩序の指標と考えた。放置すれば部屋が散らかるように、ネゲントロピーは時間とともにひとりでに減少する性質がある。しかし、外部環境にエントロピーを排出することで、生命は自体のネゲントロピーを維持しており、それが生命の本質だとシュレーディンガーは提唱した。

では、ある結晶とその秩序に、生命となる可能性、生命が織りなす不思議さを与えているものは何なのでしょうか。結晶は、液体や気体よりも低い温度で存在し、不活性で不活発であるにもかかわらず、なぜ液体や気体よりも、生命に近いのでしょうか。結局のところ、不活発であるということと死は、多かれ少なかれ同義語なのではないのでしょうか。おそらく、結晶が不活発であるにもかかわらず、液体や気体よりも生命に近いというこのパラドックスの背後には、相対性という要素があります。つまり、秩序と活動という2つの側面が、折り合わなくてはならないのです。生命は、自体の活動が秩序だって行われる程度には、秩序正しくなければならず、また、自体の秩序が変化し進化していく程度には、活動的でなければならないからです。このことは簡単な問題ではありません。なぜなら、原子がなぜ規則的に配置されるのかは誰にも分かっていないように思われるからです。

原子の様々な位置にある原子固有のプラスとマイナスの電荷が、隣の原子と引き合ったり、または反発し合ったりして、原子の集合体として、そのように組み合わされることが、単に起こりやすいのかもしれません。まるで原子は生きているかのようであり、特に、圧力が加えられたり、水分が減少したり、温度が低下して、原子が密集してくるときに、秩序正しく配列されることが心地よいのだと原子が感じているようにさえ思われます。ある状況下では、この種の秩序が実際に、生と死という結果の差をもたらし、極めて劇的に、プロメテウス(訳注)のような性質を示します。しかしながら、秩序と準秩序(秩序に準ずる状態)には数え切れないほどの段階があります。結晶や生命を理解しようとするのであれば、私たちはこれらの秩序について研究しなければなりません。心に留めておいていただきたいのは、秩序を持つ対象を研究することは、そうでない対象について研究するほど簡単ではないということです。秩序を持たない物質について研究するということは、構造も形も持たない気体や液体について研究することを意味します。一方で、秩序を持つ対象には、多くの種類があり、壁紙のような一定の繰り返しパターンではないものもあります。そのようなものは、結晶に分類することはまったくできず、それゆえにおそらく、生体を構成する物質としては、まったく不適切であると考えられます。

訳注:プロメテウス(Prometheus):ギリシャ神話の神。ゼウスに逆らって人間に火を与えたという。ここでは、火のように、物質に劇的な変化をもたらすもののこと。

そこで、繰り返しパターンからなる、結晶が示すような、生き物の体を構成する秩序に取り組むことにしましょう。その種類は、そもそも極めて多数であるように思われますし、しかも、不純物や感染性の”病気”(結晶欠陥)、微小な気泡や異なる物質の混入により、そして、他の物質が混入していない高純度の物質からなる結晶中であっても、必然的な不連続性が生じることがあり、文字通り、何倍にも種類が増えることになります。現在、結晶は約1500″種”(species)に分類されています。結晶のこの複雑さからは、生物にも多数の種があることが思い起こされます。

これらの結晶の種類のひとつひとつには、特徴的な形があります。しかしその形は、極めて多数の原子が、高度に組織化された内的な配置を(まるで遺伝するように)していることが、外的に表れたものに過ぎません。そしてその配置は、結晶を構成している元素や化合物によって異なります。最近の計算によれば、1ミリメートル角の大きさの結晶において、結晶内を電子が飛び交っている運動状態には、およそ10の18乗のエネルギー”準位”(level)があります。そして、これらの準位は、その結晶の塊を構成している原子の価電子(自由電子)で占められています。さらに、そのような結晶のいずれかの表面が、1日に2ミリメートルという一見緩やかな速度で成長している場合でも、1秒間に平均で100層以上の分子が、結晶表面に正確に積み重ねられる必要があります。そして、ひとつの分子層は、約1000万個の正確に配列された原子からなっています。

1秒間に10億個もの原子が整然と飛び交うミクロの世界のブリザード(突風)の中で、適切な位置に収まることに失敗して、格子空孔と呼ばれる空き場所を作ってしまう原子が、ほんの少数(100万個程度)であるということは、とても不思議なことではないでしょうか。また、異物である粒子が、原子が配置されなかった場所に代わりに入ったり、隙間に入り込んだりして、結晶の中に混入することは十分起こり得ることだと思えるのではないでしょうか。同じ物質からなる、結晶方向の異なる2つの結晶が結合している場合の、結合面に見られる不連続性は、現在では、結晶欠陥の一種に分類されています。この結晶欠陥には興味深い特徴があり、その結合面の近くの原子層に含まれる原子は、どちらの結晶に属しているかに(ゆらぎによって)不確定性が表れます。まるで人の心のような曖昧さを示す、この不気味な現象は、物質と生命の接点の一つをなしているのかもしれません。この現象においては、決定論の中に非決定論が生じ、岩のように強固な運命への服従から、自由意志が、遠慮がちに芽生えているようにも思えます。

結晶の成長は、ありとあらゆる種類の成長や発達が示す、秩序という性質を象徴的に表しているかのようです。人間の心の成長や人間関係における成長も、ちょうど結晶の成長と同じように、一定の速度で規則正しく一歩一歩進むわけではありません。それは、落ち度(結晶欠陥)や一貫性のなさ(不連続性)が生じるためです。これらの落ち度や一貫性のなさを、私たちは欠点や不完全さとして感じることができ、その結果、快適さと完全性に対するあこがれが生じます。このあこがれは、まるで結晶が成長していくかのように、体と心を新たに進化させるための、生き生きとした創造力を私たちにもたらしてくれます。

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