以下の記事は、バラ十字会日本本部の季刊雑誌『バラのこころ』の記事を、インターネット上に再掲載したものです。
※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。
何かいいこと探そうゲーム
The “What’s Good Aboutcha” Game
子どもたちの自己信頼を育む方法
Building Self-Esteem in Our Children
アン・A・ダジュネ
By Ann A. Dagenais
かつての小さなかわいい男の子は、今では、24歳の背が高くて感受性豊かな青年に成長しました。彼は、自分が何者であるかを冷静に認識していて、それゆえの優しさと成熟した考えを持っています。自分を大切にし、他の人に対して親切にするという昔ながらの美徳が、彼の人格の感情面にしっかりと根を下ろしています。彼の行動や態度には親切さがいきわたっていて、微笑んだときには彼の目にそれが輝きます。彼は私の息子です。
彼は物心がついた頃から、母と素晴らしいゲームを戦ってきたベテランでもあります。それはいつでもどこでもできるゲームです。コマやゲーム盤やサイコロやゲーム用のお金などは必要ありません。この特別なゲームは、ルールに組み込まれている保証によって、すべての参加者が勝者になることができます。つまり、自己評価や精神の健全さを高め、相手のユニークな個性や性格の長所の真価を察知する能力を育むゲームなのです。この人生のゲームには、とても大切なことが詰まっています。
現代では私たちのほとんどに、自分を信頼することができないという傾向が、痛ましいほどはびこっていることを私は確信しています。自分の真価を発見するために私自身が戦った経験から、私は次のような結論にたどり着きました。社会の不健全さの多くは、さまざまなタイプの投げやりな気持ちから起こっているのであり、実際のところ、日々の生活からそうした不健全さを排除することは、それほど難しくありません。しかしそうするためには、自分が持っている素晴らしい資質を自分自身で評価することを親の世代が学び、自己を信頼するという感覚を自分の子どもたちに伝えなくてはなりません。そうすれば子どもたちは、息をするくらい本能的に、それを自分の子どもたちに伝えていくことでしょう。
では、この魔法のゲームとはどのようなものでしょうか。私はそのゲームに参加した人全員が勝つと確実に保証することができます。私は、このゲームを「何かいいこと探そう」ゲームと呼んでいますが、それはまったくもって簡単なゲームです。
マットと私は、このゲームを彼が3歳のときに始めました。20年が経った今でも、このゲームを続けていますが、私たちは遠く離れて住んでいますので、電話でゲームをしなくてはなりません。でもそんなことは気になりません。
「何かいいこと探そうゲーム」は、20数年前に家の居間で始まりました。積み木の塔が何度やっても崩れてしまうので、いらいらがつのり、マットがワッと泣き出したのです。その背後にある感情のすべてを私は理解しました。それは、自分の力不足に対して向けられた怒りでした。私は、こんなに幼い子供にそのような感情が生じることがあるのだとぎょっとしました。でも私は確かに彼と同じ気持ちになれたのです。私は、すぐにマットを膝の上に引き寄せ、このシナリオを本能的に演じ始めました。
「マット、何かいいこと探そうゲームの時間よ。お母さんがあなたの何かいいことを一つ言うから、そしたらあなたが自分の何かいいことをもう一つ言うのよ。さあ始めるわよ、いい?」
「そうね、あなたはおうちの猫にいつも思いやりがあって優しいわね。それに猫を決してお腹をすかせたままにしないわね。それがあなたのいいところの一つよ。」
「さあ、今度はあなたの番よ。」
この言葉の後に深い沈黙が続きました。私は待ちました。私の大切な息子が自分の良いところを一つも思いつかないことに、すっかりうろたえながら、さらにしばらくの間待ちました。まさにそれは、彼が育まなくてはならない習慣だったのです。ちょうど良いときに、私たちがそのゲームを始めたのは明らかでした。私は続けました。
「そうねえ、ほかにももっとあなたの良いところを思いついたわ。あなたは、小さな男の子の多くは行きたがらないのに、いつも私と一緒に養護院のお年寄りを訪ねてくれるわね。それにあなたはあなたの体にいい食べ物を食べるし、それに夜はいつも私にお休みのハグとキスをしてくれるし……」。そして彼がついに自分の良いところを思い切って見つけるまで、私は息子の良いところを話し続けました。
「そうだ、お母さん、僕、やっと一人でトイレができるようになったよ。それが僕の良いところだよ!」
はじけるような笑顔が彼の顔に輝き広がりました。そして積み木の塔のいらいらは、ついに忘れ去られました。年月を重ね、何かいいこと探そうゲームは、息子の成長と変化につれて変わっていきました。私たちはもう以前ほどはそのゲームをしません。私よりずっと背が高い2メートルの身長のマットは、私の膝にはもう座らないのです!
でも基本はいつでも同じです。たとえば高校時代には、息子の自己評価は、十代の同世代の仲間との競争、恋人のつもりだった女の子からの拒絶、代数の試験のひどい成績、彼の年にしては背が高すぎることを冷やかすクラスメートのからかいなどに脅かされていました。思春期のマットの自尊心は傷つき、怒りが爆発することや、「なぜ自分が?」という、よくある十代の苦悩の叫びとして現れることが多くなっていました。
そうした誰もが感じる絶望の叫びへの答えは、その当時も今もありません。(誰も聞きたくない答えが唯一あるかもしれません。「それが、あなただからでしょう」という)。しかし、マットの良いところを健全な薬として用いることで、人生の悩みや不公平感は、望ましく解消されているように思えます。ですから、20年にわたるこの物語の中で、ゲームが始まって以来、彼が飼ったすべての猫は、ずっと同じ親切で優しい扱いを受けていることを私は確信しています。お年寄りの知り合いに対する彼の思いやりは、変わらないどころか、何年もの間にさらに大きくなりました。そして、彼がたまに家に帰ってくると、彼の母は今でもハグとおやすみのキスを受け取っています。何よりも素晴らしいことに、比喩的に言えば、彼は今でもトイレの訓練中なのです!
この素敵な若い青年を育てることから私が喜びを得られたのは、「何かいいこと探そうゲーム」のおかげだと、私は心から信じています。私たちの誰もが、少なくとも子どもたちの発育期にはずっと、このゲームをしたらいいのにと私は思っています。もし私たちの多くがそのようにすれば、おそらく、自分のことを十分に信頼する若い世代を育てることができるでしょう。
もしそうなれば、何と素晴らしいことでしょうか。健全な心を持つ人々の世代全体に、私たちのこの世界を託すことができるのです。
※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラのこころ」の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。
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