投稿日: 2016/06/03
最終更新日: 2024/05/31

こんにちは、バラ十字会の本庄です。

※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。

欲求(needs)は願い、願望、望みなどと、多少ニュアンスの違う言葉に言い換えることができますが、私たちの人生にとってあまりにも重要な要素ではないでしょうか。自分が何を望むか、周囲の人が何を望んでいるか、自分の身体の状態、環境の4つによって、人生のほとんどが決まっているとさえ言えるのではないでしょうか。

また、現在の世界の状況は、あまり好ましいものではないとお感じになっている方が多いと思いますが、それらは多くの人の、あるいは一部の人の人間的欲求に左右されているとは言えないでしょうか。人間の欲求がこれからどのように変化するかが、これからの世界の動向を左右する最大のファクターではないでしょうか。

そこで今回は、人間の欲求の心理学を話題にしたいと思います。

個人というレベルで考えても、人生の学習、つまり豊かに幸せに生きるために役立つ学習としても、人間の欲求についての心理学は素晴しいテーマだと思います。

アブラハム・マズロー(1908-1970)はアメリカ合衆国で生まれ活躍した心理学者であり、特に、人間の欲求の階層説(段階説)を唱えたことでよく知られています。この階層説は、マズローのピラミッド、マズローの法則と呼ばれることもあります。

心理学者というと皆さんは、誰のことを真っ先に思い浮かべるでしょうか。フロイトでしょうか、ユングでしょうか。それともアドラーでしょうか。

20世紀の初めに、彼らが作り上げた分野は精神分析学と呼ばれます。この心理学が主に目指していたのは、心に病を抱えている人たちを救うことでした。人の心には潜在意識という部分があり、行動に大きく影響を与えていることがわかりました。

またこの当時、心理学には別の流れもありました。急速に発達した物理学に影響され実験を重視するようになった心理学で、行動主義、実証主義と呼ばれています。

そしてアブラハム・マズローによって、この2つの心理学に転機がもたらされます。マズローは、心の病を抱えている人だけでなく、心の健康な人も研究すべきだと考えたのです。彼の創始した心理学は人間性心理学(ヒューマニスティック心理学)と呼ばれます。

アブラハム・マズロー
アブラハム・マズロー

そして彼は、長く多面的な調査を行なった後に、人は潜在意識に、それほど絶対的に支配されているわけではなく、実験だけでとらえられる存在でもないという結論を出しました。そして、自由意志を用いて、創造的で幸せな生き方を実現することは、人の誰もが本来持っている能力であると考えました。人間についての、とても明るい見方だと思います。

またマズローは、このような自己実現をなし遂げている人の多くが、『至高体験』(Peak Experience)と呼ばれる経験をしたことがあるということも発見します。世界と自分が一体であることが感じられ、あらゆるものに生命が満ちていて、すべてのものごとに意義が感じられる体験です。

マズローのこの発見から、自己を超越する能力に特に注目する、トランスパーソナル心理学という分野が生まれます。

ところがここで、疑問が生じます。誰もが持っている人の自然な能力によって、自己実現、自己超越をなし遂げることができるのだとしたら、それをなし遂げる人が、世の中でほんの一握りであることはなぜなのでしょうか。マズローは2つの原因を挙げています。

ひとつは「ヨナ・コンプレックス」と呼ばれます。ヨナは、神の言葉を聞くことができたにも関わらず、臆病さのためにその通りに行動せず、それが原因で魚に飲み込まれたという、聖書の逸話に出てくる人物です。

自己実現を達成すること、天職を見つけること、幸せになること、至高体験を得ることなどを恐れる性質が人間にはあることをマズローは発見し、この性質をヨナ・コンプレックスと名付けました。これらが実現できる可能性が身近に感じられると、とたんに恐ろしくなって、実現に向かって進むことを止めて逃げてしまうことが、人には往々にしてあります。

至高体験(イメージ)

自己実現、自己超越がそれほど簡単でない第2の理由は、「欲求の段階説」という考え方に関係しています。マズローの初期の考え方によれば、人の欲求は主に5つの段階に分けることができ、この見方はマズローの法則と呼ばれることもあります。最も基本的な欲求は「生理的欲求」(physiological needs)です。食事とか睡眠とかの欲求で、これらをある程度満たすことができて初めて、人には次の「安全の欲求」(safety needs)が生じるようになります。そして、自分が安全であることをある程度感じることができるようになると、3番目の「社会的欲求と愛・所属の欲求」(belongingness needs)が生じるようになります。

同様にして、4、5番目に生じる欲求は次のようになっています。

4.「承認・自己承認の欲求」(esteem needs, self-esteem needs:他の人から価値ある人だと見なされること、他の人の中で価値ある人であること)

5.「自己実現の欲求」(self-actualization needs:自分の才能や能力を開発し、活用すること。目標を追求すること)

マズローの欲求の段階説(初期、5段階)
マズローの欲求の段階説(初期、5段階)

最晩年の1970年に発表された著書において、マズローはそれまでの5段階説を拡張して、4番目の「承認・自己承認の欲求」と5番目の「自己実現の欲求」の間に2つの欲求を追加し、また最上位の欲求として「自己超越の欲求」を加えています(脚注1)。この結果マズローの理論は1~4の段階は以前と同等ですが全体として8段階の理論になっています。

5.「認知の欲求」(cognitive needs:創造性、先見性を発揮すること、好奇心を満たし、ものごとの意味を知ろうとすること)

6.「美的な欲求」(Aesthetic needs:自然の美しさを体験すること、個人として審美的なスタイルを見いだすこと、自分にしっくりとなじむ場所に住むこと)

7.「自己実現の欲求」(self-actualization needs:自分の才能や能力を開発し、活用すること。目標を追求すること)

8.「自己超越の欲求」(self-transcendence needs:子供のような素朴さ、文化の超越、至高体験、他の人を支援することを目的として生きること)

ある個人がどの段階の欲求におおむね満足していて、どの段階の欲求を主に持っているかということは、その個人の心理面での発達のレベルを示しています。これは8段ある階段のようなもので、飛ばすことなく下から順番にひとつずつ上がっていかなければなりません。そのため、すべての人が7番目の段階に達しているわけではなく、8番目に達している人は、さらにわずかになります。

マズローの欲求の段階説(拡張版、8段階)
マズローの欲求の段階説(拡張版、8段階)

欲求の段階説は、多くの分野に活用されています。ここでは概略しかご説明できませんが、インターネット上に多くの記事が存在しますので、ご興味のある方は調べてみてください。

・たとえば会社のマネージメントにおいては、報酬、福利厚生、役割分担、業績評価、社員教育のそれぞれについて、欲求の各段階に対してマトリックス状の検討を行うことにより、課題と行動指針を明確にすることができます。

・マーケティングへの応用もよく知られています。ある商品の広告戦略を立案するときに、その商品を購入したいという欲求が、主にどの段階のものであるかを見定め、それを欲求の段階説の解説と比較することによって、その欲求が実際にはどのようなものであるかということについての明確な観念を得ることができます。

・その他にも、学校教育、看護への応用も有名です。これはマズローの研究が人間の行動を単なる環境への反応ととらえるのではなく、人間の欲求の全体に対するアプローチであることに由来しています。

森の階段を登る子供

今までのご説明に現れているように、マズローが示した人間の欲求の段階は、人間の内面の進歩としてもとらえることができます。そして、人間進歩についてのこのような研究は今も続けられています。

アメリカの心理学者ケン・ウィルバーによれば、この進歩は個人が成長とともにたどる内面的な進歩であると同時に、世界の各地で、社会が歴史的にたどってきた進歩でもあると考えることができ、その研究は進化心理学(evolutionary psychology)と呼ばれています。

現代の心理学者は幅広い調査を行い、マズローの理論を精密化して、何が真実や道徳の基準とされたかに特に着目して、人間の心理の歴史的発展について、スパイラル・ダイナミクス(Spiral Dynamics)という分類を作成しました。ご興味をお持ちの方は、次の記事、特に後編をお読みください。

参考記事:『胎児と子供は、人類の歴史を繰り返す(前編)

参考記事:『胎児と子供は、人類の歴史を繰り返す(後編)

Spiral Dynamics

しかし、このことは、心理学を基に作られた差別主義にはあたりません。ケン・ウィルバーによれば、進歩の段階が次に移行するとき、過去の欲求は新しい欲求に取って替わられるのではなく「含まれ超越される」(transcendent and include)のだそうです。つまり食欲や性欲や睡眠欲、安全への欲求は、捨て去られるべき低級な欲求ではなく、たとえば道徳的でありたいというような、それより上のカテゴリーの欲求を支える基礎として働きます。

彼によれば、このことは内面的な進歩だけではなく、あらゆる進歩にあてはまります。たとえば、宇宙の歴史には、まず原子が現れ、次に原子が結合して分子が現れ、分子の複雑な組み合わせによって細胞が現れ、その組み合わせである、私たちのような多細胞生物が現れました。多細胞生物には、以前のレベルを「超越」した多様性がありますが、原子や分子や細胞が、多細胞生物より劣っているのではありません。優劣の問題ではないのです。多細胞生物には、原子や分子や細胞が「含まれ」ていて、それに基礎にして生きることができます。

マズローの欲求の段階説によって、人の内面の発達には社会という要素がとても大切なことがわかります。生理的な欲求や安全の欲求を満たすためには、何よりも安定した社会環境が必要とされるからです。貧しい国や紛争地には、安全の欲求どころか、生理的欲求を満たすことも難しい人たちが多くいることでしょう。

先進国に生きている私たちは、内面の進歩にとって、かなり有利な状況にいることになります。ほんとうに幸せなことです。この幸せが早く世界中に広がることを心から願っています。そして、私たちのようにこの幸せを手にしている人は、自己超越の段階に早くたどり着く努力を重ねて、その成果を世界の精神面での進歩のためにフィードバックする責任があるのではないかと感じます。

では私たちが、人間欲求のこの階段を順調に上っていくためにはどうすれば良いのでしょうか。マズローは次のことを勧めています。

1.日常で、時間もプライドも忘れるほど何かに没頭する機会を持つこと

2.人生は選択であり、内面の成長は、どのような選択を行なうかにかかっているということを自覚すること

3.自分の心の内側の声に耳を傾けること

4.他の人からどう思われるかを気にしすぎずに、嫌なものは嫌だとはっきり言うこと

5.仕事に真剣に取り組み、能力をできるだけ発揮すること

6.他の人の欠点ではなく長所を見るように努力すること

7.自分の心理的防衛を発見し、それを捨てるように努力すること

いずれも、実に素晴しいアドバイスですね。一方で、かなり耳が痛いです。

最後の「心理的防衛」は、もしかしたら耳慣れない言葉ではないでしょうか。大ざっぱに言えば、自分の心を守るために、欲求が自分の中にあることを認めずに潜在意識に押し込めてしまうことです。心理的防衛には、抑圧、投射、分離など、いろいろな種類があります。ご興味のある方は、これらの言葉をインターネットで検索すると、有意義な情報がいろいろと得られることと思います。

参考記事:『シャドウとひとつになる

至高体験を先ほど話題にしました。マズローが至高体験と呼んだことは、バラ十字会のような神秘学派では神秘体験と呼ばれています。マズローの研究によれば、聖人君子や歴史上の偉人だけでなく、誰にもこの体験を得る能力があり、それは人の内面の進歩における自然なできごとであり、また、内面の進歩のための起爆剤になると考えられています。

バラ十字会も同じ意見です。そして、神秘体験を含む内面的な進歩全般のための学習カリキュラムを、世界中の方々にご提供しています。

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第2号:人間にある2つの性質とバラ十字の象徴、あなたに伝えられる知識はどのように蓄積されたか
第3号:学習の4つの課程とその詳細な内容、古代の神秘学派、当会の研究陣について

脚注

1.”SimplePsychology-Maslow’s Hierarchy Of Needs” https://www.simplypsychology.org/maslow.html 、2024/5/17閲覧

執筆者プロフィール

本庄 敦

本庄 敦

1960年6月17日生まれ。バラ十字会AMORC日本本部代表。東京大学教養学部卒。
スピリチュアリティに関する科学的な情報の発信と神秘学(mysticism:神秘哲学)の普及に尽力している。
詳しいプロフィールはこちら:https://www.amorc.jp/profile/

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