投稿日: 2022/09/02
最終更新日: 2022/09/13

こんにちは、バラ十字会の本庄です。

バラ十字会日本本部代表、本庄のポートレイト

東京板橋では、残暑もずいぶんと落ち着いて過ごしやすくなってきました。今日は朝から細かい雨が降っています。

いかがお過ごしでしょうか。

胎児と進化の歴史

さて、初めて知ったとき、私はびっくりしたのですが、人間の胎児は、受胎してから誕生するまでに、人類の進化の歴史を繰り返します。

人類は遠い昔までたどれば、初めは単細胞生物でした。そして海の中で進化し、4億年ほど前に古代魚になり、さらに両生類に進化し、空気を呼吸することができるようになり、爬虫類になると海辺から離れた陸上で生きることができるようになりました。その後、2.5億年ほど前に哺乳類になりました。

解剖学者であり発生学者であった三木成夫さん(1925-1987)が、著書『胎児の世界』(中公新書)で紹介しているのですが、人間の胎児を観察すると、受胎後32日目にはフカのような顔、36日目には古代爬虫類の顔をしていて、38日目に哺乳類の顔になるそうです。

生きものがえら呼吸から肺呼吸に変わったとき、体全体に大きな変化が必要でした。

受胎後30日~37日には、この歴史的な変化に対応する変化が胎児の心臓と血管に起きるので、無事に出産するために乗り越えなければならない、特に注意すべき時期になるのだそうです。

これを「個体発生が系統発生を繰り返す」と言いますが、このことは他の生物にも当てはまります。ニワトリでは、陸上進出という歴史上のこの時期が卵を温め始めた4日目にあたり、慎重に条件を整えてあげないと孵化が止まってしまうことを、養鶏業者の多くが知っているそうです。

参考記事:「アゲハチョウの幼虫と進化

体の変化に関して、胎児が人類の進化を繰り返すということは、それだけでも驚くべきことだと私は感じるのですが、さらに、子供が生まれた後の心理的な発達にも、同じことが当てはまると考えられています。

植物の苗を植える子供

欲求の段階説

この研究は、進化心理学(evolutionary psychology)という分野で行われています。その草分けは、20世紀の初めに活躍したアブラハム・マズローという心理学者です。

マズロー以前の心理学の研究といえば、精神病の理解と治療を研究する精神分析と、人間の行動に遺伝と環境が及ぼす影響を調べる、行動主義心理学が主な分野でした。

しかしマズローは人間の創造性、健康、道徳に注目して研究を行い、人間性心理学(humanistic psychology)という新しい分野を打ち立てます。

彼は、有名な「人間の欲求の段階説」を唱えます。人間の欲求は、5種類に分類することのでき、子供から大人になるときの心理学的な成長は、そのうちのどの欲求に主に支配されているかを特徴とする、まったく異なる5つの段階を経るとマズローは唱えました。

参考記事:『人生の学習-マズローの心理学

マズローの欲求の分類を列挙すると次のようになります。

1.生理的欲求

2.安定と安全の欲求

3.社会的欲求(所属と愛の欲求)

4.尊重の欲求(他者から認められたいという欲求、自分を価値ある存在だと感じたいという欲求)

5.自己実現の欲求(創造性、自発性、道徳性の発揮、問題を解決したいという欲求、偏見から解放され事実を受け入れたいという欲求)

このうちの1の生理的欲求が、最も下位の基本的な欲求にあたります。生まれたばかりの赤ちゃんは、食欲、睡眠欲、排泄欲に完全に支配されている段階から、心理的な成長をスタートします。

そして、下位の欲求が十分に満たされると、それより上位の欲求が起こり、次々と進歩の段階をたどっていくとマズローは考えました。

そして、その段階は、人間が歴史的にたどってきた心理的な進歩を再現しています。

魔の二歳児

たとえば、「2.安定と安全の欲求」に支配されている段階は、平均的な子供では2歳ごろにあたります。この時期の子供は、自分の体が外部の環境とは別個のものだと意識し始めたばかりで、自分の安全に強烈な不安を持っています。

そのため、自分を守ろうとして、自己の権力を強烈に誇示します。イヤイヤとわがままを言い続けて、親を屈服させようとします。日本では「魔の二歳児」、英語では「terrible twos」と呼ばれています。

この時期に対応する歴史的時代は、「呪術-神話的段階」、「力のある神々」の段階と呼ばれています。呪術師が崇拝されていた時代と、神話に基づく宗教の時代の中間にあたるからです。

「力のある神々」という言葉からは、ギリシャ・ローマ神話の神々が思い起こされます。これらの神々は、道徳的でなかったり嫉妬深かったり、現代人の目から見れば、数多くの性格的な欠点を持っています。

しかし当時は、社会の大部分の人がそのようなキャラクターを崇拝し、信仰し、力こそが正義だと考えていました。数々の巨大軍事帝国が出現し、周囲の国々を征服した時代に対応すると考えられています。

森の木の階段を上る子供

マズローへの批判

欲求の段階を、個人と人類の心理的な発達の段階と対応すると考えるマズローの説は、とても革新的でした。そして、数多くの批判がありました。

そのひとつは、マズローの研究は、西洋の価値観とイデオロギーに強く影響されすぎているのではないかというものでした。

もうひとつは、世界には多様な文化があり、それらには、この段階説は当てはまらないのではないかというものでした。

しかしその後、人間の欲求についても、社会の歴史的な発展についても広い範囲の研究が行われ、マズローの説は、世界中の文化におおむね当てはまる、普遍性ある発達段階の理論だと、進化心理学者の多くが考えるようになっています。

つまり、世界の多くの国で、子供の発達も社会の進歩も、心理的にはほぼ同一の順序をたどるということが調査により示されています。

しかし、マズローの説には、正しくない部分もあったということも知られています。

基本的な欲求が十分に満たされているかどうか、つまり、物質的に十分に幸せであるかどうかは、それより高次の欲求が生じるかどうかには、あまり関係がないということです。

お断りしておきますが、今回ご紹介している説は、バラ十字会が提供している通信講座の内容には、部分的にしか紹介されていません。まだ新しい説であり、事実であるという検証が、完全には完了していないと思われるからです。

バラ十字国際大学の心理学部門の専門家によって、積極的に研究が行われていますので、いずれふさわしい形で教材に組み込まれることでしょう。

地球儀を前にして学習する子供たち

精密化された段階説

話を戻します。現代の心理学者は幅広い調査を行い、マズローの理論を精密化して、何が真実や道徳の基準とされたかに特に着目して、人間の心理の歴史的発展について、スパイラル・ダイナミクス(Spiral Dynamics)という分類を作成しました。

(出典:『インテグラル理論』、ケン・ウィルバー著、加藤洋平訳、日本能率協会マネジメントセンター。各段階の名称はケン・ウィルバーによる。)

1.古代的(archaic)-本能的な段階

2.呪術的-アニミズム的な段階

3.「力のある神々」の段階

4.神話的秩序の段階

5.科学的達成の段階

6.感受性豊かな自己の段階

現在の世界全体では、成人の40%が神話的秩序の段階、30%が科学的達成の段階、10%が感受性豊かな自己の段階にあると言われています。

このような段階説は、新たな差別意識にあたるのではないかという批判があります。

一方で、後にご説明しますが、心理学的な進歩のある段階は、それより以前の段階を否定するのではなく、「含んで超越する」(transcendent and include)ので、差別にはあたらないと考える人もいます。

ある心理学的な段階から別の段階に移行することは、根本的で飛躍的な変化だと考えられています。そのため、ある段階にいる人が、別の段階にいる人の考えを理解したり同意したりすることは、多くの場合にとても困難です。

現代社会の争いの多くは、別の心理的な段階にある人たちが(大多数は4~6の段階であると考えられている)、互いに理解することができないために生じているのだと、一部の心理学者は考えています。

スパイラル・ダイナミクス(Spiral Dynamics)
スパイラル・ダイナミクス(Spiral Dynamics)

レベル4~レベル6

レベル4~レベル6に関して、この段階にある人がどのような特徴を持つかを、かいつまんで、紹介しましょう(出典はケン・ウィルバー、加藤洋平の前著)。

4の「神話的秩序の段階」は、古代国家の基礎になっていた心理の段階です。神話的秩序の段階の社会で生活する人たちには、絶対的とされる規則が強制されていることが特徴です。

個人が自由に行動することは、罪の意識によって妨げられています。個人は、集団に所属することが自分の最大の存在意義だと考えており、厳格な社会階層が存在し、父権主義的であり、男女が平等であると考えることには、多くの場合に困難を覚えます。

考えは、原理主義的であり、聖典に書かれていることは、批判にさらされることなく文字通りに正しいとされます。慣習に従う傾向が極めて強く、多くの人が体制に順応し、それに疑いを持ちません。

また、自分たちとは異なる神話を持つ人たちは、自分たちの同胞だと見なさず、そのような人たちの幸せには関心を持ちません。

5の「科学的達成の段階」は、法人型国家(corporate state)の基礎になっている心理の段階です。この段階に属する人は、群集心理から脱出して、個人として真実や人生の意味を探し求めるようになります。

正しいことの基準は「科学的」であることであり、世界は、自然法則に基づいて動作している機械のようなものだと見なされ、唯物論、物質主義が信奉されます。

世界中の人間を自分たちの仲間だと見なし、すべての人が幸せであることを望みます。

しかし一方で、人生はゲームのようなものであり、自分の利益の追求に勝利した者には、敗北したものよりも高い地位と特別な報酬を得ることが当然とされます。

6の「感受性豊かな自己の段階」を基礎とする社会は、まだほとんど成立していません。共通の感受性を持っていることをもとに、集団が自由に構成されることになるのではと考えられています。

この段階にいる人たちの多くは、人間らしい絆を重視し、エコロジーへ高い関心を持っています。平等主義的な傾向がとても強く、あらゆる文化が同等に尊重されるべきであると考えます。

また、何が正しいかどうかは、社会や文化によって仮に規定されているだけであり、絶対的に正しいことなどは何もないと考えています。対立している考え方を調整して、すべての人の間に合意を形成することを重視します。

この心理レベルにいる人たちは、地球上に住むすべての生きもののことを気づかう傾向があります。

このような人たちは、とても進んだレベルにあるように思われますが、欠点がないわけではありません。

合意形成のプロセスを際限なく繰り返すため、問題の解決のために具体的なアクションが必要なときにも、結局、抽象的な言葉をつむぎだす以外に、何もできないことが多々あります。

また、他の心理的段階にある人たちを激しく嫌悪します。額に青筋を立てて批判を繰り返す自然保護活動家もいます。

さて、いかがでしょうか。各段階のイメージをつかむことはできたでしょうか。

これらの段階にいる人たちが、互いに争っている様子を思い浮かべることができたのではないでしょうか。

母親と読書する小さい子供

心理的段階の間の争いの解決

心理的な段階は、その内容を理解するだけで、今よりも先に進むことが大いに助けられると、一部の心理学者は考えています。

かなり立ち入った内容でしたが、4~6の段階をご紹介させていただいた理由のひとつは、このことにあります。

心理学者の一部は、レベル6を超える段階があると考えています。そして、異なる心理的段階の間の不寛容だと考えられる、現代の多くの争いの解決は、レベル6以降にヒントがあるのではないかと考えている人が数多くいます。

これらのことを、後編の次回にご紹介させていただきたいと思います。

■ 後編の記事(下記)を追加しました。

胎児と子供は、人類の歴史を繰り返す(後編)

長くなりました。最後までお読みいただき、ありがとうございます。

またお付き合いください。

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