感覚の曖昧さ ~クロスモーダル現象~
「クロスモーダル」現象という言葉をご存じでしょうか?
これは視覚と触覚、聴覚と嗅覚、味覚と嗅覚など、人間の感覚(モーダル)において、五感が相互に作用・干渉し合う現象のことです。
人は覚醒時には、複数の感覚(モーダル)を用いて対象を認識しますが、これを「マルチモーダル」と言います。
見ること、聴くことをそれぞれ脳で処理しますが、実際には聴覚と視覚の和がそのまま脳で認識される訳ではなく、音と視覚の相乗効果の結果が感覚として脳で認識されます。
この「マルチモーダル」と「クロスモーダル」の線引きはかなり難しいのですが、「クロスモーダル」は、聴覚や視覚が同時に入力された際に、例えば、視覚情報によって聴覚情報が変化することを表します。
たとえば、実際の室温は変わらなくても、
寒色系の壁紙の部屋に入ると涼しく感じる
暖色系の壁紙の部屋に入ると暖かく感じる
または、
風鈴の音を聴くと涼しく感じる
蝉の鳴き声を聞くと暑く感じる
などもクロスモーダル現象によるものです。
しかし、「風鈴の音」を涼しく感じるのは、日本の文化のバックグラウンドがあるためであり、「風鈴の音」と文化的なバックグラウンドがない人にとっては、この効果は現れないため、記憶との結びつきも大きな要素となるようです。
音楽による味覚の変化
ある実験があるのですが、
「軽やかな音楽」を聴きながらチョコレートを食べると、苦みよりも甘さを感じ、
「おどろおどろしい音楽」を聴きながらチョコレートを食べると、より苦く感じる、
というものです。
にわかには信じがたいのですが、実験に参加した人の約7割が同じように感じたそうです。
まだまだ未解明な部分はありますが、この実験では、
「ポジティブな音楽」が、「チョコレートは甘い」というポジティブな方向に
「ネガティブな音楽」が、「チョコレートは苦い」というネガティブな方向に
それぞれ味覚を変化させたことを示しています。
おもかる石
京都の伏見稲荷大社に「おもかる石」というものがあります。
これは、願いを心に思い浮かべながら直径20cmほどのあまり大きくはない丸い石を持ち上げ、「軽ければ叶う」、「重ければ叶わない」ということを占うものです。
クロスモーダルにおいても「大きさ-重さ錯覚」というものがあり、実際の「重さが同じ」でも、視覚的に物体の大きさが「小さいものは重く」、「大きいものは軽く」感じられるという錯覚現象です。
これは、「大きいものほど重い物である」と脳が予め認識して筋肉を使うことを予め準備しているため、大きいものほど思っていたほど重くは感じられません。
反対に、小さい物を持ち上げた場合、「小さいものほど軽い物である」と脳が予め認識するため、筋肉の準備ができておらず、思いのほか重く感じることになります。
ですから、「おもかる石」も「願いの重さ」を予め脳が認識することによって、持ち上げる際の重さの感覚に違いが生じるようです。
これは対比的(反対的)な効果ではありますが、視覚が人間の感覚に影響を与えているというクロスモーダルの一例です。
ランニング中の音楽
マラソンやランニングをされている方なら、スマートフォンなどで好きな音楽を聴きながら走ると、何も聴かないときよりも楽に走ることができるという体験をされた方も多いと思いますが、これもポジティブに感じる音楽が感覚に影響を与えているようです。
このように、通常はしんどくて辛いことであっても、周りの環境(音や自然)などによって自身の捉え方が変化するということは通常よく経験することであり、当たり前のようにも思われますが、深く考えるととても不思議な現象でもあります。
たとえば、歯医者での治療の後に子供にお菓子をあげる、なども痛い治療を乗り切るポジティブな材料となります。
この場合、厳密なクロスモーダル現象というよりは、記憶が作用しているとも考えられますが、治療中にポジティブなことを考えると、痛みが軽減されるのではないかと思われます。
すべては振動
さて、ここで一歩話を進めてみましょう。
視覚で感じる光、聴覚で感じる音、味覚で感じる味、など、実はすべてのものは振動によって人間の五感に刺激を与えています。
そして、物体の存在自体も原子や分子の振動によるものであり、もしもこの振動がまったく無くなってしまったとしたら、もはや物体として認識、存在することはできません。
ですから言い換えれば、私たち人間は、様々な振動の波の中を漂っている存在であるとも考えられます。
参考記事:「振動の世界 - 土地、お酒、身体に響く音」
しかし、実際に人間が知覚しているものは、「外部からの振動だけ」によるものではなく、五感で認識する際の受容体の部分も実は振動しており、この「2つの振動の相互作用」によって生じる波動が五感の感覚として脳に伝達されます。
そして、クロスモーダル現象においても、まだ仮説の段階ではありますが、ポジティブ又はネガティブな影響下にある場合、受容体自体の感度やバイアスが変わると考えられています。
たとえば、赤いフィルターのついた眼鏡で見ると周りがすべて赤っぽく見えるのと同様に、受容体の状態によって、外部の認識が変わるのです。
ですから、「甘い」と「軽やかな音楽」がその人にとって共にポジティブな方向にある場合には、その度合いが増強され、
「甘い」と「おどろおどろしい音楽」がポジティブな方向とネガティブな方向にそれぞれ向いている場合は、お互いに相殺され、「軽やかな音楽」のときよりも甘さを感じなくなります。
捉え方を変える
ポジティブな影響によって自分の五感の感じ方に変化を与えられるのであれば、たとえ外部からのポジティブな刺激がなくても、ポジティブな精神状態を保つことによって、自身の周りに起きる現象の捉え方を変えることができるかもしれません。
ハッピーな気持ちでいると周りに起こるものがすべてハッピーに感じられたり、暗く沈んだ気持ちのときには何をやっても喜びを感じないなど、今までは何となくそうなのだろうと思っていたことも、クロスモーダル現象などの解明によって、人間という神秘的な存在についての研究が進み、その理解が深まっていくのではないかと思われます。
みなさんもぜひ、チョコレートで実験をしてみてください!
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