投稿日: 2023/09/29
最終更新日: 2023/12/25

イシスとオシリスについての古代エジプトの神話

イシスとオシリスについての物語をご存じでしょうか。後にやや詳しくご説明しますが、計略によって弟に殺された神オシリスが、妻のイシスの力によって復活するというあらすじです。

このような物語はもともと、特定の人たちだけに披露される儀式において演じられる象徴劇だったと推測されています。このような儀式は、内容を外部の人に語ることが禁じられていたため、「密儀」(initiation:秘密の儀式)と呼ばれています。しかし、約束を破った誰かがいたおかげで、現代にまでこのような物語が伝わっているというわけです。

イシスの女神像

密儀とは

英語の「ミステリー」(mystery)という語は、この密儀に関連しています。ミステリーの語源は「ミステリア」(mysteria)という語であり、それは「ムオ」(muo)という動詞と「テリア」(teria)という名詞に由来するという説が有力です。「ムオ」には、口を閉ざす(秘密にする)とか、目を閉じるといった「閉ざす」という意味があり、「テリア」は「祝祭」を意味します。そこで、「ミステリア」という言葉の元々の意味は、「そこで、秘密が伝達された祝祭」となります。

このような祝祭は、多くの場合、一年のうちの特定の日付に行われました。たとえば、『イシスとオシリスの伝説について』(岩波文庫、プルタルコスの著作)には、エピフィ(Epiphi)の月の30日、月と太陽が完全に一列に並んだときに、ホルス神の祝祭が行われていたと書かれています。エピフィとはナイル川の増水を一年の初めとする古代エジプトの太陰暦の11月の名前であり、ホルス神とはイシスとオシリスから生まれた、ハヤブサの頭を持つ男性の像で表される神です。

密儀の目的は、その宗教が最も重要だと見なしていた真実を、理屈として説明するのではなく、象徴劇によって人々の感情に直接刻みつけることでした。

古代エジプトの四柱の神々 - イシス・オシリス・ネフティス・セトの関係

地上を象徴する神ゲブと天界を象徴する神ヌートは、古代エジプトのヘリオポリス(太陽の都市)で伝えられてきた創造神話を代表する2体の神でした。

この神話では、この2体の神の間に、以下の4体の兄弟姉妹の神が生まれたとされます。

・オシリス:男性原理を象徴し、太陽神の精神を象徴するとされることもある。以下の逸話のため、死と再生の神であるとされた。

・イシス:女性原理を象徴している。オシリスの妹であり妻でもある。

・セト:オシリスの弟で、破壊原理を象徴している。

・ネフティス:4体のうち最も年下の女神。創造原理を象徴している。セトの妻になるが、その後セトを裏切る。

エジプト・ルクソールのメンナの墓にあるオシリス神の壁画
エジプト・ルクソールのメンナの墓にあるオシリス神の壁画

イシスとオシリスの伝説

イシスとオシリスについて伝えられている物語はこのようなものです。

セトの計略と宴会

オシリスは、偉大な善神として、あらゆる神々の中でも最も尊ばれていました。そして妹のイシスと結ばれ、睦まじい夫婦になっていました。オシリスの弟であるセトは、オシリスの地位と幸せを憎むようになり、彼の暗殺を計画し、そのための宴会を開きます。

この宴会では、高価な木材で作られた美しい棺(ひつぎ)が贈りものとして用意されていました。招待された人全員が、そこに順々に横たわり、体に最もぴったりと合った客に、棺がプレゼントされると知らされていました。そしてこの棺は、密かに、オシリスの体に合うように作られていました。

オシリスの番が来て、彼が棺の中に入ったとき、セトとその共犯者が駆け寄り、棺の蓋を釘付けにしました。そして彼らはその棺をナイル川に投げ込みました。棺は大河をただよい、地中海へと流れていきました。

イシスの探索とオシリスの復活

このことを知ったイシスは棺を探し、レバノンの港町のビブロス(Byblos)で見つけます。その後イシスは、数々の危機を乗り越えて夫の遺体をエジプトに持ち帰り、秘密の場所に隠します。

ところが執念深いセトは、その場所を発見して遺体を奪い、切り刻んで14の断片にします。そして、世界の様々な場所にばらまきます。イシスは長い間探し続け、オシリスの遺体のうち13の断片を発見します。それをひとまとめにして、創造神アトゥム・ラーの力を借りて復活させます。オシリスとイシスは再び一緒になり、ホルスという子供を設けます。

イシスの像(古代エジプト後期、青銅製)
イシスの像。通常この像は膝に子供のホルス神を乗せているが、この遺物ではその部分が失われている。(古代エジプト後期、青銅製)
オシリスの像(古代エジプト後期、青銅製)
オシリスの像(古代エジプト後期、青銅製)

(いずれも、バラ十字古代エジプト博物館(https://www.egyptianmuseum.org/)所蔵、米国カリフォルニア州サンノゼ市)

デメテルとペルセポネの物語

密儀で用いられたと思われる神話には他にもいくつかがあります。たとえば、デメテルとペルセポネの逸話です。

この神話は、紀元前15世紀ごろにミケーネで発生し、古代ギリシャに広まり、西暦5世紀ごろまで存続していたとされるエレウシスの密儀で用いられたようです。

冥界の神ハデスによる拉致

デメテルは大地の豊穣の女神で、大神ゼウスとの間に、美しい娘ペルセポネ(幼名コレ)がいました。コレが野原で水仙を摘んでいたときに、大地が割れて冥界の神ハデスが現れ、コレを冥界に連れ去り、自分の妻にします。

デメテルがこのことを嘆き悲しむと、地上には一切作物が実らなくなり、人類が滅びそうになります。

大神ゼウスによる仲裁

そこでゼウスは、コレを地上に返すようにハデスに命じます。ところがそのときすでにコレは、ハデスの計略でザクロの実を何粒か食べていました。ザクロの実を食べると結婚相手と別れてはならないという、神々の掟(おきて)があったのです。

ゼウスが仲裁を行い、その結果、コレは一年のうち三分の一は冥界でハデスとともに暮らし、三分の二は地上でデメテルと暮らすことになります。

この物語は表面的には、冬には植物が育たなかったり、草花が地上から消えたりすることの説明になっています。

オルフェウスの神話

密儀に関連するとされる、もうひとつの神話の例を挙げます。それは古代ギリシャのオルフェウスについての逸話です。彼は竪琴の名手であり、彼の琴の音と歌声を聴くと、木々は頭を垂れ、野獣は彼の足もとに横たわり、嵐が静まり、岩だらけの崖が、彼の乗る船のために進路を開いたとされます。

彼はニンフ(女の精霊)のエウリュディケと結婚しますが、エウリュディケは毒ヘビにかまれて死んでしまいます。オルフェウスは、冥界の王ハデスとその妃ペルセポネの心を、竪琴の音色によって動かし、妻をこの世に連れて帰ることを許されます。

しかし、ハデスとの約束を破って、地上に出る直前に妻のことを振り返って見たために、妻は冥界に引き戻されてしまいます。

参考記事:

自然界のサイクルと、生と死の関係

いかがでしょうか。密儀に用いられたとされる3つの神話を挙げましたが、そのいずれも、地上と冥界、あるいは生と死に関わっています。

また、それ以上に深い示唆もあります。それは、自然界のサイクルと生と死の関係です。

エレウシス神秘学では、収穫の祝祭のときに、このような物語が劇として演じられました。生と死は人間にとって、ごく個人的なできごとのように思われますが、それが自然の摂理に従って起きているということが、この象徴劇を見た人に、理屈ではなく感情的な観念として刻まれたのでしょう。

デメテルとペルセポネの神話では、さらに、人間の生と死は繰り返すものであるということを暗示しているように思われますが、イシスとオシリスの物語、オルフェウスの神話では、このことは明確ではないように思われます。

三角形の法則

先ほどの書籍『イシスとオシリスの伝説について』の中でプルタルコスは、自然界についての古代エジプト人の考え方を紹介しています。

それは、自然界はこの上なく完璧で優れたものであり、3つの原理から構成されているというものです。そして3つの原理とは、「知性」と「物質」と、この2つが組み合わされた「有機的な世界」です。

言い換えれば、神の「知性」が世界を構想し、それを「物質」に及ぼした結果、複雑な世界ができあがったという見解です。

この考えに当てはめると、イシスは物質、オシリスは知性、ホルスは創造された世界を象徴する神だということになります。

古代エジプト人は、すべての三角形の中で直角三角形が最も美しい三角形だと考え、イシスを長さ4の底辺、オシリスを長さ3の側面の辺、ホルスを長さ5の斜辺だとして、宇宙をこの直角三角形で表していたそうです。

三位一体の法則

このような三位一体が、世界のさまざまな宗教に見られるのも、興味深いことです。

キリスト教では、父と子と聖霊であり、ユダヤ教では、ケテルとコクマーとビナーであり、イスラム教ではピル=ビンヤミン、ピル=ダウィード、ピル=ムーシです。

ユダヤ教の秘伝哲学によれば、この3つは、神の「思考」と「言葉」と「活動」であり、人間は考え、話し、目的に沿った行動を採ることができるという意味で、神の性質を受け継いでいる、世界の副創造者だとされています。

紀元前1360年ごろの女神イシスの壁画、Wikimedia Commons, Public Domain
紀元前1360年ごろの女神イシスの壁画、Wikimedia Commons, Public Domain

まとめ

イシスとオシリスとセトの謀略についての古代エジプトの伝説を始めとして、密儀に由来する神話のいくつかをご紹介してきました。密儀にまつわる神話の多くにはさまざまな類似点があり、それはこの世界の根本にある何らかの真実を指し示しているのだと思われます。

以上、あなたのご興味を引く点、ご参考になる点が少しでもありましたら、とても嬉しく思います。

最後になりましたが、今までのご説明から分かるとおり、密儀(initiation)と言う言葉は多くの場合、古代宗教に関して用いられます。そして、宗教ではない場合には、「入門儀式」という別の訳語があてられることが一般的です。

神秘学(mysticism:神秘哲学)を学び実践する哲学団体が神秘学派ですが、歴史ある神秘学派の多くは入門儀式を採用しており、当会バラ十字会もそのひとつです。

当会のカリキュラムでは各課程の最初に、自分一人で、自宅でできる入門儀式が用意されており、実際に行ってみることが勧められます。この入門儀式は、これからの学習のために内面を準備することに役立ちます。

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区切り

執筆者プロフィール

本庄 敦

本庄 敦

1960年6月17日生まれ。バラ十字会AMORC日本本部代表。東京大学教養学部卒。
スピリチュアリティに関する科学的な情報の発信と神秘学(mysticism:神秘哲学)の普及に尽力している。
詳しいプロフィールはこちら:https://www.amorc.jp/profile/

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