以下の記事は、バラ十字会日本本部の季刊雑誌『バラのこころ』の記事を、インターネット上に再掲載したものです。
※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。
皇帝の与えた種子
The Emperor & the Seed
ジェニー・ツァン
by Jenny Tsang
皇帝の病気は巧妙に隠されてはいましたが、宮廷内では憂慮すべき問題となっていました。皇位継承者が存在せず、明確に指名された後継者がいなければ、皇帝の死後ただちに、内乱が始まってしまうに違いないからです。皇帝は、ふさわしい後継者をこれほど短期間で、どのように見つけたらいいのかが分らなかったので、国中のすべての中規模の町から、10代の少年を10人ずつ連れてくるように命じ、大集会を開くという想像もつかないことを実行したのでした。そして、ある日、数千人の少年たちが宮殿の外庭に集められると、皇帝はこう語りかけました。
「私には、蓮華の門をくぐり、永遠の安らぎの地に赴く時が、いよいよ近づいてきている。よって、間もなく私の後継者となる次の皇帝を選ぶ時が来る。私が信頼する予言者たちは、過去と未来の出来事をすべて記した記録書に基づき、お前たちの中からただ一人、神々の祝福を受けるに値する者が見いだされ、皇帝にふさわしい勇気と知恵をもって帝国を統治すると、執拗に忠告している。そこで、今後、私に代わって蓮華の玉座に就く者をお前たちの中から一人選ぶこととする。」
「本日、一人一人に種を一粒授けよう。お前たちはこの極めて特別な種を、家に持ち帰って蒔かなくてはならない。水をやり世話をして、丈夫で健康な植物に育て、そして今日からちょうど一年後に、ここに戻り、この種から育てた植物を私に見せなさい。持って来た植物を審査して、お前たちの中から次の皇帝を選ぶことにする。」
その日、リンという名の少年もその場にいて、他の少年と同じように一粒の種を受け取りました。リンは家に帰ると、これからやるべき努めについて、興奮して母親に話しました。母親も種まきを手伝い、一緒になって、できる限りのあらゆる手段を尽くして種の世話をしました。リンは毎日、土の中の種に水をやり、成長しているのかどうかを観察しました。
2週間もすると、町の少年たちの何人かが、自分の種がとても上手く芽を出し、どれほど丈夫に元気よく育ち始めたかを、近所の人たちに話し始めました。その話を聞いてリンは不安になりました。最善を尽くしているにもかかわらず、自分の種はまだ芽も出ていなかったからです。3週間、4週間、5週間と過ぎていきましたが、まだ何も生えてきません。今では、他のすべての少年が、自分の苗について熱心に語っていました。片やリンは自分の種がまったく育っていないため、誰とも話すこともできず、芽の出ない種を持って皇帝のもとに戻ったら、自分や家族はどうなるのだろうと、ひっきりなしに心配していました。
半年経ってもリンの鉢には何も生えてきませんでした。リンはその頃には、種の世話のしかたが間違っていたために、きっとこの種は死んでしまったのだろうと考えていました。他の少年たちが小さな木や背の高い草を育てているのに、リンには何もなく、恥ずかしくて友達と会うのを避けていました。
ついに一年が経ち、すべての少年が審査のために自分の植物を持って皇帝のもとへと向かいました。命がどうなるのかと怯えながらも、正直なリンは、空の鉢を持って宮殿に行きました。リンは他の少年たちが育てた植物がさまざまであることに驚きました。それらの植物は美しく、形も大きさもまちまちでした。リンが自分の前に空の鉢を置くと、多くの少年たちがリンを笑い、からかいました。
皇帝が到着し、少年たちが持ってきた植物を審査するために、広い外庭をくまなく歩き回りました。皇帝は、いくつかのとても美しい植物に賞賛の言葉さえかけました。リンのそばを通りかかると、皇帝はリンと空の鉢にちらりと目をやっただけで、リンが見えないかのように、他の少年たちの植物を検分し続けました。リンは今や、皇帝の機嫌を損ねたことで、自分や家族がこれからどんな目に遭うのかと思い、恐ろしくなっていました。ついに審査が終わると、皇帝は玉座への階段を上り、少年たちのほうを向いて言いました。
「少年たちよ、何と美しい草木や花を育てたことだろう。神々でさえ及ばぬほどの完璧さを持ち合わせた美しいものを、おまえたちが育ててきたことを、心から嬉しく思う。お前たちはこの1年で、さまざまな生きものの命の支えとなるものに、どのように注意を払ったら良いかを学んだようだし、家族を養い、作物を市場で売るために、残りの人生を田畑で根気よく働く立派な能力を身につけたようだ。」
「私はそれを心から喜んでいる。さらに嬉しいことに、お前たちの中から誰を私の後継者に指名すればよいのかを、神々が今日、示された。衛兵よ、リンという名の少年を私の前へ連れてまいれ。彼の空の鉢も一緒にじゃ。」
リンは、皇帝の轟きわたる命令を聞いて、恐怖で気を失いそうになりました。衛兵たちは手荒にリンと空の鉢を皇帝の前に連れて行き、皇帝の足元に投げ出しました。皇帝は穏やかな声で、リンを起き上がらせるように衛兵に命じ、リンをその鉢と一緒に、皇帝が立つ玉座のところに連れてくるように命じました。皇帝は、慈愛に満ちた表情でリンを長い間じっと見つめ、ついに群衆の方へ向くと力強く宣言しました。
「リンを見よ、お前たちの新しい皇帝だ!」
リンは混乱しました。大事に育てて立派な植物になるようにと与えられた種を、十分に世話することができなかったので、自分は死の淵に立たされていると思いこんでいたからです。
それから、皇帝はもう一度、少年たちに話しかけました。
「一年前の今日、私はお前たち一人一人に種を授けた。種を持ち帰り、それを蒔き、水をやり、それを持って、今日私のもとに戻って参れと申し付けた。しかし、私が授けたのは、決して育たない茹でた種であった。リン以外の者は皆、木や草や花を持って来た。しかし、それらがどれほど美しかろうと、それらの育て方をどれほど学んだとしても、私が授けた種が育たないとわかると、お前たちは別の種を代わりに用いた。リンは、お前たち数千もの少年の中で、ただ一人、私の種を入れた鉢を持ってくる勇気と正直さを備えた者であった。したがって、リンはお前たちの中で唯一無二の存在であり、生涯にわたり、この偉大な帝国の皇帝として、お前たちとその家族を支配することとなる。」
ですから、どのような種を蒔くかには注意する必要があります。その種が、いつの日か刈り取るものを決めるからです。あなたが蒔いた種が、自分や後の世に生きる人たちの人生を、良くも悪くもするでしょう。そう、いつの日か、あなたは自分の正直さと誠実さの果実を享受することになり、その果実があなたに幸せをもたらします。そして、ええ、利己的な行いからもまた、その結果が生じ、それは歓迎できる種類のものではないことを心得ていてください。
人生から、すでに学びましたか?
正直さという種を蒔けば、信頼を刈り取ることになる。
親切という種を蒔けば、友を刈り取ることになる。
謙虚さという種を蒔けば、偉大さを刈り取ることになる。
不屈という種を蒔けば、勝利を刈り取ることになる。
思いやりという種を蒔けば、仲なか睦むつまじさを刈り取ることになる。
勤勉という種を蒔けば、成功を刈り取ることになる。
許しという種を蒔けば、和解を刈り取ることになる。
ありのままという種を蒔けば、親密さを刈り取ることになる。
忍耐という種を蒔けば、進歩を刈り取ることになる。
信仰という種を蒔けば、奇跡を刈り取ることになる。
不正直という種を蒔けば、疑惑を刈り取ることになる。
利己的な行いという種を蒔けば、孤独を刈り取ることになる。
高慢さという種を蒔けば、破滅を刈り取ることになる。
うらやみという種を蒔けば、厄介な問題を刈り取ることになる。
怠惰という種を蒔けば、成長の停止を刈り取ることになる。
敵意という種を蒔けば、孤立を刈り取ることになる。
むさぼりという種を蒔けば、損失を刈り取ることになる。
陰口という種を蒔けば、敵を刈り取ることになる。
心配という種を蒔けば、皺(しわ)を刈り取ることになる。
罪という種を蒔けば、やましさを刈り取ることになる。
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