以下の記事は、バラ十字会日本本部の季刊雑誌『バラのこころ』の記事を、インターネット上に再掲載したものです。

※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。

区切り

ミハエル・マイヤーの預言者マリア
Michael Maier’s MariaProphetissa

ピーター・ビンドン
by Peter Bindon

ミハエル・マイヤーの預言者マリア

この記事の著者、ピーター・ビンドンフラターは人類学と植物学の専門家です。彼は長年、バラ十字会のフランス本部の機関誌『バラ十字ジャーナル』誌(https://www.rose-croix.org/revues-rose-croix/)の編集委員として活躍され、アメリカの英語圏本部の機関誌『バラ十字ダイジェスト』誌にもたびたび寄稿されています。バラ十字公園で開催された「単純な見方の中に隠されているもの」という秘伝哲学のシンポジウムでは、「古代の錬金術の図表-それは現代の人間のソウルを映す鏡か」という論文を発表しました。ピーター・ビンドンフラターは、本会のオーストラリア・アジア・ニュージーランド担当英語圏本部のグランドマスターを長年務められました。
この記事では、1617年に発行されたミハエル・マイヤー(Michael Maier)の『黄金の卓の象徴』(Symbola Aurae Mensae)の表紙裏のページに描かれている有名な女性錬金術師である「預言者マリア」とその象徴的意味について、ピーター・ビンドンが解説します。

錬金術の古代の文書を研究している現代の著作家によれば、現存する錬金術の著作は2つのグループに分類できます。第一のグループは、自然界の驚異に心を動かされ、関心を持った自然哲学者である、象徴主義の錬金術師によって書かれた著作です。もう一方のグループは、卑金属を黄金に変えることに努力したが成功することなく、面白おかしく「吹く輩」(puffer)と呼ばれた人たちの著作です。後者は物質的な富を得ることにしか関心がありませんでしたが、前者は、意図的に創造されたと考えられるこの世界において、人間自身が占めるべき位置を理解し、その位置での役割を果たすことに意義を見いだしていました。これは現代でも同じです。物質の世界で生きることの複雑さを理解しようと努めながら、内面的な成長や神秘学的な意味での進歩を常に進めようとする人たちがいます。彼らは、充足感と満足感を第一の目標にしています。その一方で、物質的な豊かさという点に関してだけ、成功と満足を求める人もいます。しかし、この分類には、過去の錬金術師を分類するのに用いた先ほどの方法と同じ欠陥があります。なぜならいずれの場合も、2つの極端な場合の間に、数多くのグループが存在しているからです。人間の状態にはあらゆる可能性があり、それをたった2つの種類に分けようとすることは、あまりにも単純なやり方です。錬金術の実践として歴史上行われた多様な取り組みのすべてを正確に分類するのは、ほとんど不可能なことです。これが、錬金術の著作の意味を理解するのが困難な理由なのでしょうか。現在「化学」(chemistry)と呼ばれている学問は、極めて明確な科学のひとつであり、錬金術は化学の基礎になったにもかかわらず、それはなぜなのでしょうか。その答えは、錬金術というテーマの複雑さにあります。

マンダラのような図で表されたり、定式的な文句によって示されたりする錬金術の個々の要素には、ほぼ同等な意味を表す数多くの別の図案があります。錬金術の象徴をリストアップすることは比較的簡単なことですが、深い探究を行っている研究者は、それぞれの象徴にはただ一つの意味があるのではなく、多くの意味があることを発見します。ですから、リストアップしたそれぞれの象徴で、適切な意味はどれなのかを定めることが問題になります。スイスの心理学者カール・ユング(Carl Jung)やアメリカの神話学者ジョーゼフ・キャンベル(Joseph Campbell)の著作を読まれた方々なら、おわかりになるように、個人が象徴を解釈する方法を分類するのは常に困難なことです。幸いなことに、過去の錬金術師たちは、個人としては、象徴と意味の多数の組み合わせの中から、1つか2つだけを選んで使用していました。そのおかげで、錬金術の象徴を分類しその意味を解明する作業は、いくらか容易になっています。とはいえ、錬金術の図案には数多くの解釈の可能性があります。

預言者マリア(訳注)は、「ユダヤ人のマリア」、「モーセの姉妹」などの名前でも知られていますが、バラ十字会員にとっては「グノーシスの伝統のマリア」の名でよく知られています。彼女は『錬金術における預言者マリアの実践』(Practica Mariae Prophetissa artem alchemicam)という題の著作を書いたとされていますが、この著作は実際には、アラビアが起源である可能性があります。ミハエル・マイヤーを含む多くの錬金術師が、この著作を参考にしました。1617年に出版されたミハエル・マイヤーの『黄金の卓の象徴』(Symbola Aureae Mensae)の表紙裏のページには、マリアを描いた挿絵が掲載されています。この挿絵の中で、マリアは「宇宙の山」の頂上に落ちて芽を吹いた苗(ルビ:なえ)を指さしています。この山に登るためには多大な努力が必要であることから、おそらく古代の人々はインスピレーションを受け取り、この山の姿と、錬金術における変容の過程を完了するのに必要なエネルギーを閉じ込める炉を同一視したのでしょう。宇宙の山の頂上は、「賢者の石」(Philosopher’s Stone:哲学者の石)がある場所です。宇宙の山の上では、種子に命が吹き込まれ5つの花が咲きます。それは、1年のうちの適切な季節に生命が再生することを象徴しています。花という象徴については、この記事の後半で、錬金術の用いる比喩について、さらに詳しく見ていくときに検討します。

(訳注:預言者マリア(Maria Prophetissa):4世紀の錬金術師であると推測されている。ケロタキス(kerotakis)と呼ばれる蒸留器を発明した。現在でも湯煎用の二重鍋には、フランス語ではベン=マリー(bainmarie)など、多くの国で彼女の名前が付けられている。)

ここでは、なぜ花が5つなのかについて考えてみましょう。5は人間を表す数であり、5つの花は再生の活動を象徴しており、この挿絵の作者が強調したかったのが、この再生です。では、なぜ5という数が人間を表しているのでしょうか。レオナルド・ダ・ヴィンチの「ウィトルウィウス的人体図」という有名なスケッチを思い出していただければ、その理由がおわかりになるでしょう。その絵には、頭、両手、両足の5つの部分で円と正方形に接している人体が描かれています。両手と両足の5本の指や、五感も同様に、5という数の象徴的な性質を際立たせています。4本の腕を持つ十字の中央に置かれた5枚の花弁を持つ赤いバラのことを、十字の4本の腕が象徴する四大元素の上位にあるもの、つまり第五元素(訳注)の象徴だと、錬金術師や神秘家は考えていました。神秘哲学者の一部は、5という数には、不吉な、あるいは邪悪な意味さえあると考えていました。しかし、錬金術師は必ずしもこのような解釈を採用してはいません。この意味は、カバラの解釈におおむね由来しており、5日間という空白の日数に関連している可能性を示唆しています。5日間とは、古代エジプトの人々が、自分たちの暦の1年の360日という日数を、約365日である太陽暦の一年に一致させるために必要とした日数にあたります。預言者マリアの挿絵には、宇宙の山の上下に2つの壺が描かれています。バラ十字会の解釈では、この2つの壺はそれぞれ「空気」と「土」を象徴しているとされています。つまり、創造されたすべてのものの源である四大元素のうちの2つです。この2つの元素が混ざりあってひとつになり、「下にあるものは、上にあるものに似ている」(as above, so below)という原理を説明しながら、預言者マリアは、一元性と二元性に関する錬金術の原理のひとつを次のように厳かに語ります。「1つは2つになり、2つは3つになり、3つ目のものから4つ目のものである〈一なるもの〉(One)が生じる。」錬金術の、半ば魔術的であり半ば宗教的な観点から、この言葉をさまざまな意味に解釈することができ、聖書の天地創造の繰り返しだとすることもできます。

(訳注:第五元素(quintessence):クインテセンス。第5の本質を意味するラテン語。四大元素を超えて存在する宇宙を構成する本質。)

ウィトウィウス的人体図
ウィトウィウス的人体図

その解釈については各々の読者の皆さんにお任せすることにします。ただ、数の象徴的意味についてのバラ十字会のシステムでは、偶数は女性を意味し、奇数は男性を意味することだけを紹介しておきましょう。錬金術の深遠で分かりにくい言葉には、別のレベルでの意味がありますので、これから論じていきます。預言者マリアは、1つの特別な物質の2つの側面の結合に関わっています。彼女は、「スペインから樹脂(gum)を、白い樹脂と赤い樹脂の2つの樹脂を取り出しなさい。そして、真の結婚、樹脂の樹脂との結婚で、この2つを結合させなさい」と言っています。これは何を意味しているのでしょうか。彼女が述べた物質の色に、この言葉を解釈するヒントがあります。これは、錬金術の「白の女王」と「赤の王」を意味しています。また、樹脂を表す錬金術の象徴は、現代のアルファベットの「g」の文字に似た2つの小さな文字を横に並べ、それを小さい十字で結び、その十字から小さい三角形がぶら下がっているという奇妙な組み合わせになっています。この象徴は、錬金術のある過程のことを強く示唆しており、預言者マリアの挿絵を読み解こうとするのであれば、この過程のことを知らなければなりません。

この絵に隠されている寓意的な意味は、2つの壺から立ち上る蒸気の雲が形作る図形によって、さらに強調されています。この図形は2つの正三角形が結合したものだと解釈することができます。一方の三角形の頂点は天の方向を指し、もう一方の三角形の頂点は大地の方向を指しています。上の三角形は男性的な活動的な元素である「火」を表しており、下の三角形は女性的で育成的な元素である「水」を表しています。錬金術師が四大元素のうちのこの2つを正しく結合することができたとき、彼らは、錬金術のバラによって象徴される赤色を生じさせることができます。そして、白い蒸気の2つの流れが2つの三角形が組み合わされた形で、錬金術のバラが私たちの前に姿を現します。この過程を描いたいくつかの挿絵では、生じた錬金術のバラには、外側に赤い花びらが並び、内側に白い花びらが並んでいます。しかし、この挿絵の場合は、白の要素は、それぞれの壺から出てもうひとつの壺へと流れる蒸気によって象徴されています。赤いバラは、大いなる作業(Great Work)と呼ばれる錬金術が成功のうちに完了したことを表す象徴でした。この作業から最終的に作り出されるのは賢者の石です。そして、先端が三つ葉の形になっている(訳注)十字を飾るバラが、他の象徴的な色ではなく赤色である理由のひとつは、このバラが完成を象徴するからです。

(訳注:先端が三つ葉の形になっている(trifoliate):バラ十字の多くの象徴では、十字の四つの腕は、いずれも三つ葉の形をしている。下のバラ十字の図案を参照。)

バラ十字

この一連の象徴から、バラ十字会員の実践に役立つような何らかの結論が得られるでしょうか。預言者マリアの挿絵の右半分は、以上の説明からわかるように、赤いマントを着た男性と白いヴェールをまとった女性に関連する象徴を中心に展開されています。

象徴的に言えば、赤いバラによって示される完成は、白いヴェールが取り去られたときにだけ達成することができます。2つの壺は、ヘルメス・トリスメギストスの壺を表しており、世界の創造に必要な元素を収納するという役割を完了しています。これらは、私たち一人一人の中にある二重の性質を表しています。いったん分割されると、内容物の昇華が完了するため、この挿絵は、変容の過程の最後から2番目の段階を示していることがわかります。預言者マリアは、過去の時代の叡智を擬人化したものであり、現在明らかになっていること、つまり、それぞれの人間の中には、性別に関係なく、反対の側面が存在するということを指摘しています。この2つの側面には、調和したバランスがもたらされなければならず、それは、互いに補い合い、完全で調和のとれた全体が形成されたときに実現されます。いったんこの状態になれば、それぞれの人は、自身が望むあらゆることを達成することができます。この至福の状態に到達することは、手の中に「賢者の石」をしっかりと握っていることで象徴的に示されます。これは過去の時代の象徴主義の錬金術師の目標でしたが、現代のバラ十字会員の目的でもあります。

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