投稿日: 2021/12/10
最終更新日: 2022/08/08


資料室

穏やかな時間

A time For Tranquillity

ゲイル・ベスト

By Gail Best

曲がりくねった山道を登っていくバスは、おしゃべりを楽しむ人たちで満員でした。周りの人たちは、私が思いに浸り静かに座っている間、皆、笑い合い、ジョークをとばしていました。「一緒に山に行ってリラックスしましょう」と姉に誘いを受けたのですが、私はこの週末を心穏やかに過ごせるとは思っていませんでした。その日は甥が亡くなってからちょうど2年が経った日で、彼の思い出が私の心を重くしていました。しかし、穏やかさは私と一緒にバスに乗っていて、“彼女”(穏やかさ)が同行することを知らなかった私は、実のところとても驚いたのでした。

私たちは、深い緑をした木々の間を何キロもバスに乗り続けました。白いふわふわした雪が、木々の枝を枕にして積っていました。ときおり家が現れ、その庇には陽射しに輝くつららが下がり、風景と見事なコントラストを見せていました。そのような美しい景色を眺めながら、私は喜びでいっぱいになり、穏やかさが確かにそこにあることを感じたのでした。話し声のさざめきや、ときおり起こる笑い声は、静かに思いを巡らしている私の気分には、心地良いバックグランドミュージックのようでした。

穏やかさはまず、囁くように指示を出しました。「静かにしていなさい」。19世紀の英国の経済学者でありジャーナリストでもあったウォルター・バジョット(Walter Bagehot)の言葉が思い出されます。「静かにしていられないことは、人類の明白な欠点のひとつである」。穏やかさは好ましい来客ですが、招かれない限り、たまにしか訪れてくれることはありません。“彼女”が訪れるための準備として、身体をリラックスさせておかなければなりません。穏やかさは時として、予想していないときに訪れることもありますが、不調和が支配している場所に、あえて入って来ることはありません。私はかつて、夕日の中で手をつないで歩いている恋人たちを見ているときに、”彼女”が一瞬訪れたのを見たことがあります。そこは混雑した騒がしい通りでしたが、平和な別世界がふたりのまわりだけに存在していたのです。

穏やかさは次にこう命じます。「聞きなさい」。私の夫は最近こう言いました。「君の注意を引くものすべてが穏やかさの邪魔になるのかもしれないよ」。穏やかさの声はとても小さいので、“彼女”の声を聞くためには、とても注意深く耳を傾けなければなりません。穏やかさがそばにいるときには、呼吸の音、気持ちを落ち着かせる音楽、遠くに聞こえる鐘の音、遊んでいる子供たちの声などが、あなたを幸せで満たします。しかし、ブリキの屋根をたたく雨つぶの音や、窓をガタガタいわせたり、雪を吹きだまりに舞い上がらせたりしながら、家の外で唸っている風の音を聞いているときでも、満足を感じることがあります。

最後に穏やかさはこう提案します。「見なさい」。毛布を顎まで引き上げてベッドに潜り込んでいるときや、パチパチと燃える火のそばに座っているとき、淡い色の青空を目的もなく漂っていく白い雲を見ているときは、優しい穏やかさの舞台として、うってつけの時間です。しかし私はひどく騒がしい部屋の中でも、“彼女”が活躍するのを見たことがあります。たくさんのおもちゃが部屋中に散らばっていて、よちよち歩きの幼児が一人か二人いる部屋を思い描いてください。子どもたちはライオンのように唸り、ブロックでできた塔を打ち倒しています。穏やかさはここでも生き残ることができるのでしょうか。

見てください。窓のそばの椅子に座った母親が、眠そうにしている子どもを揺りかごであやし、そっと撫でながら、優しい言葉で話しかけ、あやしています。子供は明らかにリラックスしています。固く握りしめていた小さなこぶしを開き、そして小さな子どもの目は、かなたを見るような眼差しになっています。穏やかさがが到着して、母親も子供も包み込んだのです

穏やかさには、感情を静める作用があり、あなたの生活を豊かにします。とても忙しい日には、“彼女”に感情と思考を開くようにしてください。そうすれば“彼女”があなたを見捨てることはありません。たびたび穏やかさを招き入れるようにすれば、彼女は熱心にあなたのもとにやって来るようになります。しかし、彼女を無視していると、水銀の球のようにつかまえにくくなってしまうのです。穏やかさ、善意の精、神々しさ、尊さなど、“彼女”のことをあなたは好きなように呼ぶことができますが、穏やかさは、私たちが内なる自己への扉を開いて、中に入ることを許したときにだけ、私たちの生活に入ってきてくれます。その選択は私たち次第です。ですから、たびたびこの扉を開けることにしましょう!

※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラのこころ」の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。

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