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月とヘビとウサギ

2018年6月8日


 

こんにちは。バラ十字会の本庄です。

バラ十字会日本本部代表、本庄のポートレイト

 

昨晩の東京板橋は、金星と火星がさんさんと輝く、澄んだ夜空となっていました。本格的な梅雨の前の最後のごほうびでしょうか。

 

いかがお過ごしでしょうか。

 

 

さて、私ごとですが、最近、縄文文化について調べていました。

縄文時代は今から約12,000年前に始まり、約2,000年前まで続いています。直後の弥生時代から現在までの5倍も長いのです。

ですから縄文時代は、私たちの文化や深層意識にきっと大きな影響を与えているはずだと考えたのです。

 

ご存じのことと思いますが、この文化の特に印象的な遺物に、土器と土偶があります。人の形をかたどっているように見えるのが土偶ですが、中央が落ちくぼんでいる顔をしている土偶が、かなりの数見うけられます。

またそのような土偶の一部は、顔が多少上向きになっていたり、完全に上を向いていたりする、人間とは思えない不自然な形をしています。

さらに奇妙なことに、涙を流していたり、鼻水やよだれを流していたりするように見える線が描かれていることがあります。

 

Dogu (clay figurine) with heart-shaped face, Jomon period, 2000-1000 BC, from Gobara, Higashi Agatsuma-machi, Gunma - Tokyo National Museum - DSC06322

群馬県吾妻郡出土の通称「ハート形土偶」。顔の中央が落ちくぼみ、上を向いている。ネリー・ナウマン(後述)によればハート型やいちょうの葉の形は、月が欠け、再生し、満ちることを象徴している。 By Daderot [CC0], from Wikimedia Commons

 

ウィーン大学の教授ネリー・ナウマンは、日本の古代文化の専門家であり縄文研究の第一人者でした。ちなみに、ナウマン象の名前の由来になった地質学者のナウマンは男性であり、彼女とは別人です。

ネリー・ナウマンの縄文研究の集大成と言われるのが、邦訳で『生の緒』(いきのを)という題の本で、その中で彼女は、顔の中央が落ちくぼんだこの種の土偶が月の神を表わしているという説を唱えています。

 

長野県藤内遺跡出土の土偶

長野県藤内遺跡出土の土偶。顔の中央が落ちくぼみ、後頭部はとぐろを巻いた蛇に飾られている。額はイチョウの葉形をしており、左目の下には涙のような線が刻まれている。クリックすると拡大されます。(ネリー・ナウマン、『生の緒』、言叢社、p.152)

 

そして、この説の裏付けとして、月に関する世界中の言い伝えを紹介して、古代人にとって月は何を意味していたのかを説明しています。

このブログでたびたび話題にしていることですが、世界各地の古代の象徴や言い伝えには、驚くほど多くの共通点が見られます。月にまつわる言い伝えもまさにその一例です。

以下の話題は、『生の緒』に紹介されている言い伝えと、私が他の本やインターネットから得た情報です。

 

月を記号で表わすとしたら、あなたはどのような図形を描くでしょうか。きっと三日月を書くのではないでしょうか。実際に、占星術やタロットに使われている象徴でもそうですし、ほとんどの場合、国旗や紋章に描かれる場合もそうです。

三日月形のこの記号は、古くから世界の多くの場所で同じであったようです。そして、ペンシルヴェニア大学のシュメール文化の研究家マーク・G・ホールの説によれば、元々それは新月から数日後の月相(月の形)を描いたのではなく、月の神のための儀式に用いられたボウルのような容器を横から見た断面でした。

シュメール文化の初期の碑文には、月神の祭りで用いられる、飲むと不死になる液体が入った容器のことが書かれているそうです。

 

さらには、月そのもののことを液体の入った容器だと見なす言い伝えもあります。

アメリカの古い言い伝えでは、月は、雨期に降る雨を溜めている容器だとされています。次のような言葉が残されています。「月は太陽ほど輝かない。泣くことで自らを空にする天体だからである。月は液体を放つ。光や叫び、雨がそれである。」

 

新月の時期が近くなり、月が欠けて空から失われてしまうように見えることは、死を連想させます。しかし3日ほど経つと、月は再び現れて日が経つとともに満ちていきます。このため、古代人は月のことを、生命、再生をつかさどる神だと考えました。

 

円錐形土偶、鋳物師屋遺跡

鋳物師屋遺跡出土の円錐形土偶。顔の中央が落ちくぼんでいる。ナウマンによれば、いちょうの葉形の額と三本指の手も月を示す象徴的表現である。クリックすると拡大されます。(国際縄文学協会、『Jomon Vol.6』、半田晴久、p.49)

 

また、今では忘れかけられている知識になっていますが、動植物の成長、生殖に月は大きな影響を与えています。

よく知られている例が2つあります。

 

ひとつは、珊瑚(サンゴ)の多くが、夏の満月の夜に一斉に産卵するということです。

もうひとつは、俗に10月10日(とつきとおか)と言われますが、人間の受胎から出産までの平均の日数は、月の満ち欠けの周期(朔望月、29.5日)の9倍(265.5日)に、ちょうど一致するということです。

月が生命や再生に結びつけられたのは、これらのことも理由の一端になっているのでしょう。

 

動植物の成長や生殖と月の関係についての他の例にご興味がある方は、以下の電子書籍の第10章を見てください。

www.amazon.co.jp/dp/B013ZZA6ZA

ライフ・マップ表紙

 

翻訳文の言葉づかいはやや古いですが、他の章にも、人生の7年周期など、周期にまつわる興味深い話題が掲載されています。

 

話を戻します。不死や若返りと月を結びつけて考えることは世界中で見られます。

日本ではたとえば、万葉集の歌や竹取物語が例として挙げられます。

「天橋文 長雲鴨 高山文 高雲鴨 月夜見乃 持有越水 伊取来而 公奉而 越得之早物」(集歌3245番)

(天上への橋が、長くあってくれたら。高山が、高くあってくれたら。月の神が持っている変若水(若返りの水)を取って来て、貴きあなたに差し上げて、若返っていただくのだが。)

 

竹取物語では、かぐや姫が「月の都の人は老いることがない」と語り、別れの際に、自分に恋い焦がれる帝に「不老不死の薬」を渡します。

帝は、かぐや姫が月に去った後に、彼女がいない世では不死であっても意味がないと語り、日本で一番高い山で不老不死の薬を燃やすように命じます。このことが富士山(不死山)の名前の由来だという説があります。

 

古代インドの宗教では、月はソーマで満たされたお椀だとされています。ソーマとは神々が不死であるために飲む液体で、後には月そのものがソーマと呼ばれるようになりました。

 

沖縄の宮古島にも、月と不死にまつわる民話が伝わっています。人間に寿命があることを月の神が気の毒に思って、不死の水を人間に飲ませようと考えました。

そして、不死の水と死の水の2つを別々の桶に入れて使いの者に担がせて地上に送ったところ、男が疲れて休んでいる間に、一匹のヘビが不死の水を浴びてしまいました。そこで人間は死の水を飲むしかなくなり、ヘビは毎年脱皮して長生きをし、人間には死が定めとなったのだそうです。

 

大英博物館が所蔵している、土地の境界を示す古代バビロニアの石(kudurru)には、太陽神シャマシュ、金星神イシュタル、月神シンが描かれています。月神シンは三日月型の断面をした皿として表わされ、蛇がその皿の中の液体を飲んでいます。この液体も、不死であるための飲み物だと考えられています。

 

古代バビロニアの境界石の彫刻の一部

古代バビロニアの境界石の彫刻の一部。クリックすると拡大されます。(ネリー・ナウマン、『生の緒』、言叢社、p.158)

 

ヘビは成長とともに脱皮を繰り返しますが、脱皮の直前には死んだように動かなくなります。そして、皮を脱ぐと、柔らかい若々しい姿を取り戻します。

そのため、ヘビも月と同じように再生の象徴になったと考えられます。そして、ヘビが脱皮によって若さを蘇らせることができるのは、月の神が放出する液体を飲んでいるからだとされたのです。

月とヘビという組み合わせと象徴としての意味が、宮古島と古代バビロニアの言い伝えで全く同じであることに驚かされます。

 

日本では正月に鏡餅を飾りますが、民族学者の吉野裕子さんの説によれば、ヘビは古語では「カガ」であり、「カガミモチ」はヘビの体の形をした餅を意味します。

2つ重ねにされた丸餅とその上のミカンは、とぐろを巻いたヘビの姿とヘビの目の象徴だと考えられます。

正装した家長が鏡餅を見ながら酒を飲むことで歳神を祭るのが、この年中行事であり、その背後にあるのは、生命力や再生を象徴するヘビへの古代からの信仰です。

 

最初にご紹介した、土偶に描かれている涙や鼻水やよだれですが、月の神が放出する生命力に満ちた不死の液体を象徴しているとナウマンは考えています。

 

笛吹市・一の沢遺跡出土の土偶

笛吹市・一の沢遺跡出土の土偶。両目の下に涙を表すような線が刻まれている。クリックすると拡大されます。(国際縄文学協会、『Jomon Vol.6』、半田晴久、p.27)

 

月といえば、すぐに連想されるのはウサギでしょうか。

中国では、月にはウサギがいて、臼と杵(きね)を用いて不老不死の薬を粉にしているとされています。

ここでも月と不老不死が関連しています。

この伝説が日本に伝わって、満月が望月(もちづき)と呼ばれることから、ウサギが月で餅をついているという伝承になったのだと思われます。

 

メキシコでは、月にウサギがいて、リュウゼツランの液から造るプルケという白い酒と関連しているとされています。

同じような言い伝えはテキーラにもあります。ある日、ウサギ狩りをしていた人に二匹のウサギが突進してきたのだそうです。

狩人がそのウサギの後をつけると、リュウゼツランの根が巣穴まで伸びており、そこにたまった樹液をウサギが飲んでいました。これがテキーラの発明されたいきさつだとされています。

ですからテキーラを飲み過ぎると、人もウサギのように目が赤くなるのだそうです。

 

酒は、古くは不老不死の薬を意味していたので、ここにも象徴の一致が見られます。

 

日本、中国、台湾では口噛み酒という風習が知られています。神事に用いられる特に神聖な酒は、巫女が米やサトウキビを噛んで作るというものです。

2016年に大ヒットしたアニメーション映画『君の名は』でもこの風習が取り上げられました。そのモデルになったのは、長野県佐久市にある新海三社神社で、年一回行われる口噛み酒の奉納行事だそうです。

 

今までの情報から推測すると、巫女は月の神の代理であり、月の神の唾液によって不死の飲み物を作ることを象徴していると考えられます。

 

 

今回は、世界各地に知られている、月、ヘビ、ウサギ、不死、酒にまつわる言い伝え、象徴としての意味の一致を見てきました。

最初にお話しさせていただいたように、一万年も続いた縄文時代は、私たちの心に深い影響を与えているはずです。ですから、私と同じように、このような伝承に、奇妙な納得感や懐かしさを感じた方もいらっしゃることと思います。

 

では、今日はこの辺りで。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

 

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