こんにちは。バラ十字会の本庄です。
※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。
楽観的とは
ご存じの通り楽観的とは、先行きが楽しい、喜ばしいと感じる(観る)こと、つまり今後の見通しが明るいと感じる傾向のことです。楽観にあたる英語は「オプティミズム」(optimism)で、その語源は、「最良」を意味するラテン語の「オプティムス」(optimus)です。
楽観の反対は悲観「ペシミズム」(pessimism)であり、「最悪」を意味するラテン語の「ペシムス」(pessimus)が語源になっています。
楽観的な人と悲観的な人のことは、さまざまなジョークのネタになっています。
未開の地に、靴のセールスマンが2人派遣されました。調査の後に、ひとりはこう言います。「先行きはとても暗い。この地の人には靴を履く習慣がない」。しかし、もうひとりは言います。「先行きはとても明るい。この地の人は、まだ誰も靴を履いていない」。
悲観的な人:「このウォッカは、南京虫の匂いがする」。楽観的な人:「この南京虫は、ウォッカの匂いがする」。
「悲観的な人は笑うことを忘れ、楽観的な人は笑って忘れる」。「楽観的な人は飛行機を発明した。悲観的な人はシートベルトを発明した」。
楽観的であることとポジティブであることの違い
「楽観的」と似た言葉に「ポジティブ」があります。こちらは積極的であることや肯定的なことを意味します。つまり、ものごとに進んで取り組む様子や、他の人に同意したり、ものごとに価値があると考える傾向を指します。以下に説明するように、楽観的な人の多くには同時にポジティブであるという性質があります。
楽観的な人の特徴
ある人が楽観的であるかどうかに関わらず、人生には良いことも悪いことも起こります。しかし、ある心理学者の研究によれば、特に悪い状況にいるときにこそ、楽観的な人の特徴が明確に表れます。
1.望ましくない事態を一時的だと考える
第1に、楽観的な人は、起こってしまった望ましくない事態を一時的なものだと考えます。この状況がそれほど長く続くはずがない、このような失敗が繰り返されることはないから今後は起こらないだろうなどと考えます。
2.不都合には特定の原因があると考える
第2に、そのような不都合には特定の特徴的な原因があると考えます。たとえば、今日交渉を行った相手の人には、自分と合意できない特別な理由があったのだろう。大切な人とけんかをしてしまったときには、今日は相手が特に機嫌が悪かったのだろうなどと考えます。
3.嬉しくないものごとにも、価値があると考える
第3は、前項のポジティブでご説明した「ものごとに価値があると考える傾向」にあたります。このような悪条件は、自分に何かを教えてくれている出来事に違いない。このように苦しんだのだから、これから私は、もっと人に優しくできるのだろうというように考えます。
楽観的であることのメリット(長所)、楽観と悲観のスペクトル
楽観的であることには、健康面にも人生全般にも良い影響を及ぼすことが知られています。しかしそれでも、どちらが良い悪いと言えるような単純な問題ではないようです。危険と隣り合わせの状況にいる人や、警備や安全審査に携わっている人が、極端に楽観的である場合の危うさを考えれば、このことはすぐに納得できることと思います。
私たちは誰もが状況によって楽観と悲観の間を揺れ動いていますし、楽観と悲観の程度もさまざまです。どちらとも言えない中間もあります。
ですから、楽観と悲観は、完全に別々の2つの特徴ではなく、紫から赤へと徐々に変わっていく虹のスペクトルのようなものだと考えることができます。
楽観的であることのデメリット(短所)
楽観的であることは、基本的には望ましいことです。この記事の後半では、楽観的になるために実習もご紹介します。しかし、楽観的である人には次のような短所が生じやすいことを意識しておくのは有益なことです。
1.リスク・マネージメントが苦手
楽観的な人には、ものごとが基本的にはうまくいくと考える傾向があるので、不測の事態や起こりうる失敗、危険などを想定せず、十分な備えをしないことがよくあります。
2.失敗を繰り返す
楽観的な人は、何かに失敗しても、それが特別な状況により起こったと考える傾向があります。そのため、反省を怠り、失敗を繰り返す傾向があります。
楽観と悲観に与える遺伝と環境の影響(タンポポとランの仮説)
楽観と悲観は、脳科学と心理学で深く研究されています。そして、ある人が性格的に楽観的になるか悲観的になるかということは、遺伝と環境の両方に左右されることが知られています。
きわめて悲観的になってしまう症状を持つ病気として、うつ病が知られています。この病気には、いわゆるリスク遺伝子というものがあります。しかし、NHKのあるテレビ番組で紹介されていたのですが、この遺伝子が単独でうつ病を引き起こすわけではありません。
イギリスで行なわれた長期的な調査によると、この遺伝子を持っている人が、幼い時期に、両親の死、あるいは不幸なことに虐待など、3つ以上のひどい苦痛を体験すると、うつ病を発症する率が高まるということです。一方、そのような遺伝子を持っていない子供が大きな苦痛を受けても、うつ病になる率は変わらないのだそうです。
さらに、このリスク遺伝子には、ネガティブな影響だけがあるのではないことが分かりつつあります。心理学者の調査によれば、このリスク遺伝子を持つ子供が好ましい環境で育つと、幸福度が、そのような遺伝子を持たない子供より高くなり、さらには、とても非凡な才能を開花させる例があるということです。
リスク遺伝子を持つ子供のことを、生育環境に敏感に反応するラン(蘭)の苗にたとえて、このことは「タンポポとランの仮説」と呼ばれています。
楽観的な人と悲観的な人の違い
認知バイアスとは
さて、楽観的な人と悲観的な人は、実際にはどのように異なるのでしょう。
楽観的な人には、周囲のポジティブな面、楽しい体験に自分の注意を集中する傾向があります。一方、悲観的な人には、周囲のネガティブな面、危険な面、困難な面に、自分の注意を集中する傾向があります。
半分飲み干したビールのジョッキを片手に持っている人を思い浮かべてください。半分残っていることに注目するのが楽観的な人で、半分なくなってしまったことに注目するのが悲観的な人です。このような傾向は、心理学では認知バイアスと呼ばれています。
ですから、楽観と悲観という傾向は、心理学的にはこの認知バイアスのことを指していることになります。
成人になっても認知バイアスは変えられる
「三つ子の魂、百まで」ということわざがあるように、人の性格は、なかなか変わらないとされています。生理学的にも、人間の脳は7歳を過ぎると、それ以降は成長できないと昔は言われていました。しかし現在では、このことは誤りだということが知られています。
たとえば、タクシーの運転手試験のために道を覚える学習をしている大人、あるいはギターの高度な技術を練習している大人の脳を画像診断すると、その訓練期間が長期にわたる場合、脳の構造が大きく変わることが観察されるとのことです。
このことには重要な意味があります。私たちが遺伝や子供のときに育った環境が原因で、悲観的な傾向や楽観的すぎる傾向を持っていたとしても、自分の脳の回路、つまり自分の認知バイアスを変えることができることを意味するからです。自分の努力で悲観的傾向を楽観的傾向に変えたり、その逆に変えたりすることができます。
現代人の悲観的傾向
現代社会は、社会の状況が常に緊張をはらんでいます。国際経済は不安定ですし、政治や官僚システムの劣化を指摘される国々も多くあります。またマスコミには、ネガティブなニュースを特に選んで報道する傾向がどうしてもあります。
さらに言えば、私たちは忙しさにかまけて、人生を十分に楽しむことを怠りがちです。
そこでどうしても現代人は、悲観的な傾向に傾きがちです。
認知バイアスのコントロールと人格の成熟
あなたは、楽観的な人と悲観的な人のどちらに近いでしょうか。そして、自分のその傾向に満足しているでしょうか。
自分が、楽観主義と悲観主義という観点から見て、現在どのような偏りを持っているかを把握し、それを自分が望ましいと考えるポジションに変えること、さらには、状況に合わせて楽観と悲観の度合いを自在に変えること、それは簡単ではありませんが、練習によって実現することができます。
「中庸」と「自在闊達」という言葉が当てはまると思いますが、まさにそれは、精神的に成熟した人格の特徴にあたります。
先ほど話題にしましたが、子供は、自分の生まれ育つ環境を選ぶことができません。そして、両親の死や病気や、場合によっては虐待などの、大きな苦痛を体験することがあります。
ところがこのような場合に、家族でも知り合いでも、近所の駄菓子屋のおばさんでも、たったひとりでも成熟した気高い精神の人がいてその子供に触れあうと、その子供が精神的に健全であること、楽観的であること、そして時には、人類全体に貴重な影響を及ぼすような才能の開花の助けになることが知られています。
性格のバランスが取れていて精神的に成熟した気高い人格を持つ人は、自分自身だけではなく周囲の人たちや社会に、このようなポジティブな影響を及ぼすことがあります。
きっとあなたも、そのような例をご存じのことでしょう。
楽観的だと、人生は望ましいと感じる方向に変わりやすい
楽観的であることと悲観的であることを、たとえば磁石のN極とS極のように対等な両極端の2つの性質だと考えることもできますが、ただ、そうとばかりは言い切れない面があります。それは「心の中にイメージしたことには、創造的な傾向が生じる」ことが知られているからです。
しかし、心の中にイメージしたことがすべて実現するというわけではありません。このことには、人生の本質に関わるさまざまな法則が複雑に関連しています。そのため、当会の通信講座では、前提となる知識を得た後の6ヵ月目の教材で扱われるテーマになっています。
残念ながら、ここで十分にご説明することは、実際のところ不可能です。
しかし全般的に言えば、楽しい、嬉しい、ワクワクするなどの感情を伴う心の中に作られたイメージには、それが現実化するようような駆動力を自身の潜在意識に与える働きがあると言えます。
ですから楽観的であることには、人生の状況を望ましいと感じる方向に変えるために、少なからぬメリットがあります。
楽観的な人になるための実習1
まず、誰にもじゃまされない時間を20分ほど確保してください。そして、ひとりきりになれる静かな部屋で、椅子に心地よく座ってください。
背筋を伸ばして、軽くあごを引いてください。両手は太腿の上に置きます。深呼吸しながら、リラックスしていきます。目は閉じていても開いていても、半眼でも構いません。
リラックスできたら、呼吸を元に戻して、下記のいずれかの場面をひとつだけ思い浮かべてください。そして、その中に自分がいるところを想像してください。リラックスしたまま、その光景に集中して、その場の雰囲気と一体になってください。
・ あなたが今までに経験した最も楽しい旅の、最も楽しかった場面
・ これから1年以内に実現したら、心から嬉しい、楽しいと感じるできごと
もう十分だと感じたら、手を握ったり開いたりして、実習を行なう前の現実感覚を取り戻してください。
この実習にはいくつかの効果があります。まず、ストレスが緩和され、ストレスが原因の心身の不調が緩和されます。
この実習に取り組むと、この効果をすぐに実感することができます。一方、今までご紹介してきた通り、認知バイアスを変えるには、つまり楽観と悲観の度合いを、楽観の側にずらすには、ある程度の期間がどうしても必要です。
今ご紹介した実習を一日に一回行なうことを習慣にすると、人によってやや異なりますが1~2ヵ月後にははっきりと変化が感じられるようになります。自分の心の傾向が変化するだけでなく、怒りを抑えることのできる能力が徐々に向上していきます。第2のカテゴリーの場面を選んだ場合は、いくつかの条件が整えば、それが現実化したり、それを現実化させるための重要なヒントが得られることもあります。
楽観的になるための実習2
この実習は、「人生を変えるシンプルな方法」として以前にもご紹介したことがあります。とても効果的なものなので、ふたたびご紹介させていただきます。
メカニズムとしては、自己信頼が育まれることによって、認知バイアスが楽観的な方向に変化します。
紙を一枚用意して、手書きで次のリストを書き写します。タイプするのではなく、必ず手で書き写してください。
書き写したら、毎日時間を決めて読み上げます。心の中で読んでも声に出して読んでも、どちらでも構いませんが、心を込めて読んでください。
そして、これらを守るために最善を尽くすことを自分に誓います。この実習は、おおよそ3週間で効果が表れることが知られています。
▽ ▽ ▽
● 忍耐強くあろう。忍耐によって希望がはぐくまれ、人生の折々に自分の支持者が現れるから。
● 自分を信じよう。自分を信じることは、ものごとをなし遂げるためのよりどころであり、他の人と友情を結ぶためのよりどころだから。
● つつしみを持とう。つつしみによって極端を避けることができ、安心を得ることができるから。
● 寛大でいよう。寛大さによって心の翼を広げることができ、他の人と親しくすることができるから。
● 公平でいよう。公平であることによって心の自由を表わすことができ、内面の富を築くことができるから。
● 物惜しみをしないようにしよう。物惜しみをしないことによって、与えた人が受け取った人と幸せを分かち合えるから。
● 誠実でいよう。誠実さによって良心が保たれ、澄み切った心がもたらされるから。
● 謙虚でいよう。謙虚さによって人は育ち、他の人の尊敬を勝ち取れるから。
● 勇気を持とう。勇気は日々蓄えることができ、逆境の時に強くあることができるから。
● 非暴力を支持しよう。暴力を排除すれば心の中に平安がもたらされ、すべての生きものに平和を広げることができるから。
● 善意を持とう。善意は心を喜ばせ、魂を美しくしてくれるから。
(出典:『幸福への挑戦』、マックスウェル・マルツ、産業行動研究所、1967年)
この2つの実習はいずれも、人間の潜在意識に秘められている力を活用する方法に相当します。人間の心の不思議さについてさらに詳しく知りたい方は、下記の神秘学通信講座を体験してみてください。
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第2号:人間にある2つの性質とバラ十字の象徴、あなたに伝えられる知識はどのように蓄積されたか
第3号:学習の4つの課程とその詳細な内容、古代の神秘学派、当会の研究陣について
執筆者プロフィール
本庄 敦
1960年6月17日生まれ。バラ十字会AMORC日本本部代表。東京大学教養学部卒。
スピリチュアリティに関する科学的な情報の発信と神秘学(mysticism:神秘哲学)の普及に尽力している。
詳しいプロフィールはこちら:https://www.amorc.jp/profile/
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