こんにちは。バラ十字会の本庄です。
台風5号が近づいていますね。国際宇宙ステーションから撮られた画像に度肝を抜かれました。地球に張り付くように広がって、“眼”をむき出しにしています。
皆さま、くれぐれもお気をつけください。
今回は、私の親しい友人であり、当会の公認インストラクターをされている森和久さんのシリーズ記事『文芸作品を神秘学的に読み解く』のその6をお届けします。
参考記事(前回):『朝雲』
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文芸作品を神秘学的に読み解く(6)
『星の王子さま(小さな王子)』(Le Petit Prince)
フランス人のパイロットでもある作家、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリが第2次世界大戦中の1943年に発表した作品です。
以前、私の英会話スクールで働いていたフランス人講師が強く勧めてくれたので、子どもの時以来、数十年ぶりに読んだ作品でした。
主人公のパイロットである「ぼく」はエンジンの故障で誰もいないサハラ砂漠に不時着します。飲み水は一週間分しかありません。ひとりぼっち、砂漠の中でエンジンを自分で直さなくてはなりません。
不時着した翌朝、ぼくは一人の少年の声で目覚めます。それが「小さな王子」です。話すうちにぼくは王子の身の上を知ることになります。
王子はとても小さな星に住んでいました。その星には3つの火山や一輪の赤いバラの花が咲いていました。その花はとても美しく、王子は大切に育てました。
しかし、王子はその花と喧嘩してしまい、そのまま旅に出ました。そして7番目に訪れた星が地球です。神秘学的に「7」というのは、ミクロコズム(小宇宙=人間)に深く関わる数字です。
王子は地球でとても高い火山と5,000本の咲き誇る赤いバラの花に出会い、自分の星の火山とバラの花がありきたりのつまらないものだったと思い、泣き崩れます。
そこへ一匹のキツネが現れたので、寂しさを紛らわしたく思い、王子は一緒に遊んでほしいと言います。すると、「君に懐(なず)けられていないので遊べない」とキツネは言います。キツネが言うには、「懐かせる」とは「絆をつくる」こと。
「おいらにとって君は他の男の子10万人と、何の変わりもない。君が居なきゃダメだってこともない。君だって、おいらが居なきゃダメだってことも、たぶん無い。君にしてみりゃ、おいらは他のキツネ10万匹と、何の変わりもないから。でも、君がおいらを懐けたら、おいらたちはおたがい、相手にいてほしいって思うようになる。君はおいらにとって、世界に一人だけになる。おいらも君にとって、世界で一匹だけになる……」。
こう言われた王子は、自分の星のバラの花が一番大切で愛おしいことを悟ります。
キツネと別れる時になって、王子はキツネを懐けていたことが分かり、別れが辛くなります。
そして「あの向こうの小麦畑、見える? おいらはパンを食べないから、小麦ってどうでもいいものなんだ。小麦畑を見ても何にも感じない。それって、なんだか切ない。でも、君の髪の毛って黄金色。だから、小麦畑は、すっごくいいものに変わるんだ、君がおいらを懐けたらのことだけど。小麦は黄金色だから、おいらは君のことを思い出すよ。そうやって、おいらは小麦に囲まれて、風の音をよく聞くようになる……」とキツネに言われたことの意味を理解します。
そうです、王子に会うまでは、キツネにとって麦畑は何の意味もなかったのですが、王子との絆が出来てからは、特別なものになったのです。
多くの人には何でもないこと、何の意味も持たないことも、その人にとっては特別なものであり得るのです。
翻って考えれば、私にとって無価値で意味のない物事でもあなたにとっては、特別な物事かもしれません。ですからその物事を私は侮蔑すべきではないでしょう。
別れ際、王子はキツネに大切な秘密を教えられます、「本質は目では見えない、心じゃないと見えない」と。ぼくが子どもの頃に書いたボアに丸飲みされたゾウの絵(*2)も王子にヒツジを描いてと言われて描いた絵(*3)もそのことを表していました。
王子がぼくにこの話をしているときに、ぼくは最後の水を飲み尽くしてしまいます。王子は、じゃ、井戸を探しに行こうと言います。砂漠で井戸を探すなんてぼくには信じられません。
でも王子はこう言います、「水は心にもいいんだよ」、「星が綺麗なのは見えない花があるから…」、「砂漠が美しいのはどこかに井戸を隠しているから…」。そしてぼくは悟ります、「そう、何かを美しくするものは目に見えないんだ!」と。
夜明けになって、ぼくは井戸を見つけます。「ぼくは水を飲んだ。深呼吸する。砂漠は夜明けで蜂蜜色だった。」その水はただの飲み物とはまったく別の物でした。心から望んだ物事は与えられるんです。
次の日は王子が地球に来てちょうど1年になる日。星の配置が同じになるのです。その時に王子は蛇に咬まれ、身体を置いて、魂は自分の星に帰るのです。王子は言っていました、「夜、空を眺めたとき、そのどれかにぼくが住んでるんだから、そのどれかでぼくが笑ってるんだから、きみにとっては、まるで星みんなが笑ってるみたいになる。きみには、笑ってくれる星空があるんだよ!」と。
件(くだん)のフランス人講師は言っていました、「この物語のテーマは美しさ。関係性、繋がりの美しさ」だと。
今、彼のことを考えれば、なるほどなと思います。遠いフランスからたまたま札幌にやってきて、たまたまうちで働き、たまたまフランス語や英語を教える生徒たちに出会い、そして、それらの人たちと美しい絆ができたんだと、彼は伝えたかったのでしょう。
だって偶然は必然ですから。すべての物事は起こるべくして起こるのです。
神秘学的命題『汝自身を知れ』を考えたときに、自分自身との繋がりの重要性を思い起こされます。
ですから「王子」は「ぼく」の「内的な自己」もしくは「下意識精神」(sub-consciousness)なのです。困難に直面した時に、下意識精神を通して宇宙精神が手助けしてくれます。そのためにも自分自身を懐ける、つまり自分自身との絆を強める必要があるのです。
改めて冒頭の挿絵(*1)を見てください。「これは、ぼくにとって、世界で一番綺麗で、一番切ない景色です。」とぼくは言っています。王子が地上に現れて、そして消えた場所の絵です。
皆さんもぼくや私のように、ここが特別な場所に思えてきませんか?
※挿絵と本文の多くは「青空文庫」版「あのときの王子くん」によりました(一部改変)。
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この作品は、日本では1953年3月に内藤濯(あろう)訳により岩波書店から『星の王子さま』のタイトルで出版されました。
岩波書店が翻訳権を保持していたので2005年までは内藤濯版のみが流通していました。その後、20種類以上の翻訳が出版されています。ぜひ、本屋や図書館で手に取り読み比べてみてください。
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ふたたび本庄です。名前は知っていましたが、私はこの本を通しで読んだことがありません。ボアに丸飲みされたゾウは分かるのですが、なぜ3番目の挿絵がヒツジなのでしょうか。夏休みの宿題が増えました。
では、今日はこの辺で。
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