投稿日: 2021/12/10
最終更新日: 2024/04/19

以下の記事は、バラ十字会日本本部の季刊雑誌『バラのこころ』の記事を、インターネット上に再掲載したものです。

※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。

区切り

魂の暗黒の夜(第二部)
The Dark Night of the Soul Part2

セレスティーナ・サガッツィオ
By Celestina Sagazio, PhD

「魂の暗黒の夜」は、完全にエゴを放棄するという神秘家に不可欠な行いだと考えられます。そのときには、表面的な自己が死を迎えるということが起こります。それは人間が徐々に完全な状態に近づくプロセスによって、新しく深遠な人生を築くためになされます。このプロセスは変容(訳注)、神成(theosis:テオーシス)、神との合一などと呼ばれています。

訳注:変容(transfiguration):一般的には、ある人物の見かけが変化し、より美しく見えるようになることを指すが、特に、『マタイによる福音書』の17章などに記されているキリストの変容を指す。

この記事の第二部では、「暗黒の夜」に耐え抜き、貴い統合をなし遂げるために、さまざまな神秘家が勧めているテクニックについて見ていきます。

偉大な神秘家であった詩人ルーミー(訳注)は、彼の精神的指導者であったシャムス(Shams)が殺害されたか失踪して姿を消した時期に、過酷な「暗黒の夜」を乗り越えました。ルーミーは狂気の中で3年間を過ごし、その間に彼のエゴ、つまり偽りの自己は崩壊し、その後、世界で最も優れた神秘家の詩人へと変容したのでした。彼の崇高な詩は、多くの希望とインスピレーションを与えてくれます。以下に紹介するルーミーの詩は、「暗黒の夜」の目的の極めて優れた説明になっています。

訳注:ジャラール・ウッディーン・ルーミー(Jalal ad-Din Muhammad Rumi):ペルシアの神秘主義詩の詩人。音楽に合わせて集団で旋舞する儀式を行うマウラヴィー教団を創設。代表的な著作は「精神的マスナヴィー」、「シャムス=タブリーズィー詩集」、「語録」など。

私の体という葡萄は、葡萄酒職人が踏みつけた後にしか、葡萄酒にならない。
私は葡萄のように、職人に踏みつけられるままに身を委ねるが心の奥は喜びに燃え、舞い踊ることができる。
葡萄は血を流し叫び続ける。
「これ以上の苦痛には耐えられない。これ以上の無慈悲さには耐えられない。」
しかし踏みつける職人は耳に綿を詰めて言う。
「この仕事の主人は私だ。」
「私は、事情を知らずにこうしているのではない。
それにお前が望むなら、お前は私を拒むことができる。
お前はどんな口実でも言うことができるのだ。
しかし私の情熱によってお前が完全な状態に達したとき、お前は私の名を必ず讃えることになる。」

 私たち人間のエゴは、踏みつける者、すなわち宇宙の摂理によって破壊されることになります。葡萄にたとえられている私たちの部分とは、誤った考え方、自説に凝り固まった信条、愚かな幻想であり、それらが踏みつぶされることになります。私たちは抵抗しながらもそれに身を委ね、耐えがたい苦悩を体験します。しかし私たちは死ぬのではなく生まれ変わり、精神的な変容を経て葡萄酒になります。蘇った内的な活力が、まさに燃え上がり喜びに舞い踊ります。このプロセスを指揮している宇宙の法則は私たちの抵抗を無視します。なぜならその時点の意識の状態では、私たちには何が起こっているのかを理解できないからです。私たちは全知の力を信頼しなければなりません。私たちの影の部分は少しずつはぎ取られていきます。そして完全な状態に達したときに、私たちは苦しみの目的を完全に理解し、自身を変容させた作業の的確さに永遠に感謝することになります。

美しくかつ洞察力に満ちた先ほどのような詩や、さまざまな伝統宗教の聖典を学ぶことは、徹底的な「暗黒の夜」にあるときや、それほど深刻でない「暗黒の夜」の状態にあるときの大切な支えになってくれます。

ビード・グリフィス(Bede Griffiths)やアンドリュー・ハーヴェイ(Andrew Harvey)などの近代の神秘家も徹底的な「暗黒の夜」を体験し、多くの貴重なアドバイスやテクニックを伝えてくれています。これらの神秘家は「暗黒の夜」のことを罰や裁きではなく、信じられないほどの貴重な恩恵の贈りものだと見なしています。私たちは痛みや苦しみによって、もっと思いやりのある人間になることができます。私たちの心は、苦悩のために崩れ落ちてしまいそうになりますが、より深い愛に心を開くようになります。

あらゆる神秘学の伝統に精通した学者であったアンドリュー・ハーヴェイは、その人の個性に応じた「暗黒の夜」が、誰のもとにも訪れるという結論を出しています。彼は人間が生まれ変わると考えており、私たちは何回もの生まれ変わりを通して、徹底的な「暗黒の夜」のための準備をしているのだと述べています。私たちはある人生において、それほど深刻ではない「暗黒の夜」を何回も経験する可能性があります。ハーヴェイはこうアドバイスしています。「『暗黒の夜』という極めて過酷な状況には冷静に対処する必要があり、この試練を受けている間は、できる限り忍耐強く、自分自身に対して思いやりを持って過ごすべきである」。「暗黒の夜」という神秘的な段階の極めて恐ろしい点は、ベールが引き上げられて幻想が追い払われるということです。私たちは、以前ははっきりと見ることができなかった、自分自身の暗部と他の人たちの暗部を見るようになります。世界は見かけとは異なるということが分かるようになります。

「暗黒の夜」を体験した神秘家は、宇宙のダイナミックな活動が、対立するもののダンスを通して顕在化しているということを教えてくれています。つまり、全く反対のもの、極度の恐怖や混沌や困難や試練と、最高の喜びや幸せや希望や平安のダンスを通して宇宙は顕在化しているのです。このような対立する2つのもの、たとえば創造と破壊、光と暗黒、超越と内在といった対立が、宇宙を顕在化するために不可解なダンスを踊っているのです。

多くの神秘家や聖書は、無限の愛に満ちた神の性質だけでなく、神の残忍さも指摘しています。そして、その力を無視することはできません。たとえば、新約聖書の『へブライ人への手紙』(10:31)にはこうあります。「生ける神の手に落ちるのは、恐ろしいことです」。また、『コリントの信徒への第二の手紙』(5:11)には、「こういうわけで、私たちは主を畏れることを知っているので(後略)」とあります。創造主は「善」を通してだけ作用し、心の変容のために「暗黒」を利用することはないと考えることは、愚直な過ちであると、幾人かの神秘家が主張しています。「善」や「悪」と呼ばれているものは、〈一なるもの〉の神秘の一部分であることを私たちは理解するようになると、これらの人たちは述べています。

20世紀の卓越した神秘家であるビード・グリフィス(Bede Griffiths)は、彼自身の「暗黒の夜」が消滅や破壊のようなものではなく、創造主の愛に突然身をさらされ、その光を浴びた体験であったと書いています。瞑想を行っているときに、グリフィスは左側から殴られたように感じ気を失いました。それからの数日の間、彼は死の瀬戸際にいました。しかし死につつあるのではなく、自分自身が愛に圧倒されているのだということに彼は気づき、彼を見守っていた人たちの前で泣き始めこう語ったのです。「愛が私を圧倒し覆いかぶさっている」。

精神探究の旅において、私たちはさまざまな手段を用いることができます。たとえば、自然の美や芸術や音楽に触れること、宇宙と同調する実習や瞑想を行うことによって得られる励ましは、困難な時期における極めて貴重な支えになってくれます。アンドリュー・ハーヴェイは、彼が過ごした十年間の「暗黒の夜」に、聖書の文章を常に用いて毎日深い祈りを行ったと述べています。愛と献身の思いを込めて唱えた祈りが、極めて困難な体験の間、ずっと彼を助けてくれたのです。苦しみの間に最も強く自分を励ましてくれたのは、実際のところ聖なる言葉を口にする行為だったと彼は語っています。深い愛と畏敬の念とともに、何度も繰り返し、あなたが選んだ名前で〈創造主/神〉の名を口にすることは極めて重要です。そうすることで、保護や恩恵、明晰さ、強さ、心の平安、啓示を受け取ることになります。ハーヴェイはまた、他の人たちを真に許すことが重要であり、他の人たちが癒され解放されるのを熱心に祈ることが重要であることを学びました。このような許しと祈りによって、彼に恩恵が与えられ、真の啓示の入り口へと導かれました。「暗黒の夜」の間に感じる、心が折れてしまいそうになる感覚から身を守るための別の実践は、昼間に(暗黒の夜が訪れる前に)感謝の気持ちを何度も表現するようにしておくことです。

神秘家が私たちに伝えている別の貴重な教えは、「世界の暗黒の夜」という観念と、〈光〉を広めることで私たち一人一人がそれに対して役割を果たすことができるということです。

私たち人間の傲慢さや、神聖なものに対する敬意が失われつつあることや、権力への執着から、「世界の暗黒の夜」というものが起きているとハーヴェイは警告しています。たとえば、戦争、様々な衝突、貧困、環境破壊、多くの種類の動物の絶滅の恐れなどが押し寄せるように襲って、世界を悩ませています。しかし、世界中で育まれつつある「スピリチュアリティ」(spirituality:心の深奥の高貴さ)の尊重に、希望の兆しを見ることができます。人数という面でも強さという面でも、スピリチュアリティ(心の深奥にある崇高さ)の重視が現代ほど進歩した時代は、人類の歴史において今まで一度もなかったと、この分野の多くの専門家が述べています。

バラ十字会は、通信講座や他の活動を通じてスピリチュアリティの重視に貢献している、国際的な規模の神秘学の組織です。その活動には、日々行われている「慰めの評議会」や出版や公開の講演などがあります。バラ十字会の3冊の宣言書(マニフェスト:manifesto)、『バラ十字友愛組織の姿勢』(2001年)、『バラ十字友愛組織からあなたへの訴え』(2014年)、『新クリスチャン・ローゼンクロイツの化学の結婚』(2016年)は、世界中の何百万人もの人に読まれています。これらの宣言書は、世界の不幸と苦悩についての洞察を提示し、それらに対処するために必要な精神面における活動のための助言を提供しています。『バラ十字友愛組織からあなたへの訴え』にはこのように書かれています。「人類が、スピリチュアリティの重視と人間尊重と環境保護という方向に舵を切ってほしいと、私たちはかつてないほど強く願っています。そして、この方向へと向かうことで人類は再生を果たし、あらゆる面で生まれ変わった『新しい人類』への道が開かれることでしょう」。

「暗黒の夜」の間に起こる変化のプロセスは変容であり、宇宙の摂理との合一です。人間の本質は肉体の中に宿った崇高な魂であり、宇宙意識を体験し、人類全体へ奉仕することに価値を見いだし、愛と思いやりと深遠なる平安、心の静けさ、勇気、喜び、寛容さなどの美徳を高度なレベルで発揮します。私たちはすべての生命を尊いものであると見なし、また、自分の体全体が、最も深いところまで光のエネルギーに満たされている神聖なものであることを体験します。

徹底的な「魂の暗黒の夜」が訪れたとき、どうか私たちに、困難な課題に立ち向かう準備が十分に整っていますように。もし私たちが神秘学の学習と主要な実践を熱心に行い、「自身の心の中の創造主」を信頼し敬っているならば、そのとき私たちは、新たな高みに上昇することになります。

出典
聖書からの引用は聖書協会共同訳による
The quotes by Rumi, Bede Griffiths and Andrew Harvey and Andrew Harvey’s information on the Dark Night are from Andrew Harvey’s online course (www.andrewharvey.net): ‘Rebirthing Yourself Through the Dark Night of the Soul’
バラ十字会の3冊の宣言書の日本語版は www.amorc.jp で読むことができます。もしくは、「バラ十字会 マニフェスト」で検索してください。

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