投稿日: 2024/03/15
最終更新日: 2024/03/26

以下の記事は、バラ十字会日本本部の季刊雑誌『バラのこころ』の記事を、インターネット上に再掲載したものです。

※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。

区切り

宇宙のクウィンテセンスを求めて-中世とルネッサンスの錬金術師はどのように瞑想したか(前編)
Searching for the Cosmic Quintessence: How Alchemists Meditated in the Middle Ages and Renaissance

デニス・ウィリアム・ハウク博士
By Dennis William Hauck, PhD

『祈り、作業しろ』(Ora et Labora)、ケイトリン・ブリーン(Katlyn Breene)著、2007 年。誰もが唱えていた錬金術師たちのこのモットーは、実際の作業や実験を補うものとして祈りと瞑想という手段を用いることを示している
『祈り、作業しろ』(Ora et Labora)、ケイトリン・ブリーン(Katlyn Breene)著、2007 年。誰もが唱えていた錬金術師たちのこのモットーは、実際の作業や実験を補うものとして祈りと瞑想という手段を用いることを示している

デニス・ウィリアム・ハウク博士は、意識研究の新たな分野における第一人者として知られ、科学史、数理論理学、心理学、神秘体験の科学的研究など、多くの関連分野での貢献を続けています。彼は人気の作家であり講師でもあり、古代の錬金術の原理を通じて、個人、文化、世界の変革を促す活動を行っています。バラ十字会員であるハウク博士は、バラ十字古代エジプト博物館に展示されている「バラ十字錬金術展」を企画し、12冊以上の著書と多くの論文と記事を執筆しており、そのいくつかは「ロージクルーシャン・ダイジェスト」(Rosicrucian Digest:バラ十字会米国本部雑誌)と「ローズ=クロア・ジャーナル」(Rose+Croix Journal:バラ十字会国際オンライン論文集)に掲載されています。

デニス・ウィリアム・ハウク博士
デニス・ウィリアム・ハウク博士

錬金術師たちのヘルメス思想(訳注)の見解によれば、〈創造者〉(the Divine)の精神によって、瞑想を通して光が一点に集められることによって宇宙は創造されました。エメラルド・タブレットには「万物は〈唯一の精神〉(One Mind)が行った瞑想によって〈唯一のもの〉(One Thing)から生じた」と書かれています。〈唯一の精神〉という根源は、自然そのもの、すなわち人間を含む創造された万物の中に埋め込まれました。

(訳注:ヘルメス思想(Hermetism):西暦1~3世紀にギリシャ文化圏で成立した『ヘルメス文書』に見られる思想。新プラトン主義と、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教の秘伝哲学の影響が見られる。)

錬金術師たちは、瞑想によって光と精神の道を探し求めていました。形ある世界と万物の源である神聖な模範(divine ideals)が、この道によって一体になっているのです。錬金術師たちは、自らの意識を浄化し深い瞑想を行うことよって、〈創造者〉の精神とつながることができると考えていました。

中世の錬金術師たちは、瞑想の真の方法を権力者から隠していた一方、この方法は当時の錬金術師たちの間では公然の秘密でした。誰もが唱えていた「祈り、作業しろ。」(Ora et Labora)という錬金術のモットーは、金属と、自分自身と、そして究極の意味では世界全体を、どのようにして変容させるのかということを的確に表しています。

〈唯一の精神〉という神聖な源は、すべての物質的なものの中に存在しますが、それは、物理的な現実世界と非物質的な領域との境界に、四大元素(Four Elements:四大要素)を超越したものとして存在しています。アイザック・ニュートンは次のように書いています。「クウィンテセンスは、非物質的で、浸透性があり、変化を引き起こし、腐敗することがないものであり、四大元素がバランス良く結合したときに、そこから新たに出現する。」(脚注1)

錬金術師たちは、あらゆるものの中にこの神聖な要素が存在すると理解し、それを第5の元素を意味する「クウィンテセンス」(Quintessence)と名付けました。ある物のクウィンテセンスは、その物の聖なる姿、つまり真の正体を運ぶ媒体であり、その物の秘められた形相(form:本質的な特徴)を出現させる役割を担う生命力として働きます。

宇宙のクウィンテセンスとは、宇宙で活動する〈創造者〉の精神のことを指しています。それは、世界の混沌とした変化と徐々に進む進化の背後に働いている力です。ヘルメス哲学では、ロゴスすなわち〈言葉〉が、宇宙に形と独自性を与えるとされます。簡単に言えば、エネルギーを物質へと変換するものは精神の光なのです。

混沌とした状態にあった原初の物質から全宇宙を出現させた聖なる光と同じ原理が、私たち一人ひとりの内部に働いています。この聖なる光のことを、パラケルススは「真の想像力」と名付けましたが、この光が、人間の意識を誕生させた要因であるという考え方に、錬金術師たちが強く惹きつけられました。

錬金術師たちの言う「真の想像力」を、白昼夢や空想と混同してはいけません。スイスの分析心理学者カール・ユング(Carl Jung)は、一般的な想像力と区別するために、「真の想像力」のことをラテン語を用いて「イマジナチオ」(Imaginatio)と呼びました。それは実際には、自然の繊細なプロセスを思い浮かべて、神聖な元型とつながることです。

ユングはこう述べています、「イマジナチオという概念は、錬金術の著作を理解するための最も重要な鍵です。イマジナチオという想像のプロセスは、白日夢がそうであるような実体のない幻影と捉えるのではなく、実体のある現実のサトル・ボディ(訳注)であると捉えなければなりません。」(脚注2)

(訳注:サトル・ボディ(subtle body):クンダリーニ・ヨガでは人間には、物質的な身体、サトル・ボディ、コーザル・ボディの3つの体があるとされ、この3つはそれぞれ、バラ十字哲学の、物質身体、サイキック体、ソウル(soul:魂)にあたる。ユングは自身の錬金術の研究にこのサトル・ボディという考え方を取り入れている。ユングの考えによれば、人間の無意識には、比較的上層にあると考えられる個人的無意識、その基底にあり人類に共通する集合的無意識があるが、それをさらに超えると類心的無意識(Psychoid Unconscious)という心と身体の区別がつかないような領域が存在し、この領域の現実がサトル・ボディと呼ばれる。)

パラケルスス(Paracelsus)はこう述べています。「それゆえ、知るべきである。アストラル界(the Astral)からもたらされるこの完全な〈想像〉(perfect Imagination)は、〈ソウル〉(the Soul:宇宙の魂)から生じることを。(完全な想像によって)人生は解読されなければならず、魂の世界の現実(という本来の姿)に戻されなければならない。そのとき完全な〈想像〉は、瞑想という名を得る。」(脚注3)

この文でパラケルススが意味しているのは、〈真の想像〉(True Imagination)とは、あらゆるものの神聖な源を、(〈創造者〉が万物を創造したときに思い浮かべたように)人間がその心に再び思い描き、瞑想の中でそれに触れることだということです。この秘められた現実は常に存在しているのですが、通常の人の目には見えません。錬金術師たちが語った神聖なビジョンを知覚できるのは、浄化された意識が持つ心の眼と〈真の想像〉の力だけなのです。

カール・ユングは、錬金術の瞑想における〈真の想像〉の役割を説明し、驚くべき洞察を述べています。「想像という行為は、実際的な身体の活動であったのであり、物質変化の循環と合致していた。想像が物質変化を引き起こすと同時に、逆に物質変化によって想像が呼び起こされた。このようにして、錬金術師は単に無意識とつながっていただけでなく、変化させることを望む物質そのものにも、想像の力によって直接の関係を持っていた。したがって、想像という行為は、生命力を一点に凝縮した抽出物のようなものであり、クウィンテセンスのような性質を持つ、物質と心の混合物である。錬金術の全盛期には、心と物質は別々でなく、心と物質の中間の領域、すなわちサトル・ボディというサイキックな領域が存在した。サトル・ボディの特徴は、物質の形だけでなく心という形で現れることである。」(脚注4)

要約すると、「真の想像」とは、事物の本質を「〈創造者〉が夢見るように」捉えようとすることです。したがって、錬金術の著作家が「心の眼で見る」と言うとき、そこで語られているのは、外観を超えて、内的なクウィンテセンス、つまり「事物そのもの」に達するまで事物の秘密を見抜くプロセスです。

『錬金術師の実験室-大いなる作業の第一段階』(The FirstStage of the Great Work)、ハンス・フレーデマン・デ・フリース(Hans Vredeman de Vries, 1527-1604)作。この絵には錬金術師ハインリッヒ・クンラート(Heinrich Khunrath)が実験室で作業している様子が描かれている。『永遠なる叡智の円形劇場』("Amphitheatrum Sapientiae Aeternae"、ハインリッヒ・クンラート著、1595 年)の挿絵より
図2:『錬金術師の実験室-大いなる作業の第一段階』(The FirstStage of the Great Work)、ハンス・フレーデマン・デ・フリース(Hans Vredeman de Vries, 1527-1604)作。この絵には錬金術師ハインリッヒ・クンラート(Heinrich Khunrath)が実験室で作業している様子が描かれている。『永遠なる叡智の円形劇場』(”Amphitheatrum Sapientiae Aeternae”、ハインリッヒ・クンラート著、1595 年)の挿絵より

中世とルネッサンスの錬金術師にとって、「観照の祈り」は「個人的な実験室」で実践するものでした。その様子が、図2に「大いなる作業の第一段階」として描かれています。現代人が考える瞑想は主に東洋の瞑想であり、当時のヨーロッパ人は用いることができませんでした。

錬金術の全盛期に「個人的な実験室」で作業を行う際の主な手段は、瞑想ではなく「観照の祈り」でした。アルベルトゥス・マグヌス、ロジャー・ベーコン、ジョージ・リプリー、アグリッパ、パラケルスス、レイモン・リュリ、ニコラス・フラメル、アイザック・ニュートンと、他のヨーロッパの錬金術師の大部分は、精神的な実践として「観照の祈り」を行っていました。

錬金術師たちの瞑想は、極めて初期の頃から、今日普及している瞑想とは異なるものでした。特別な姿勢も必要ありませんし、マントラや呪文を唱えたり、望ましい意識状態を達成したりするための儀式もありませんでした。錬金術師が社会での仕事を終えて「個人的な実験室」に入った瞬間から作業が始まります。それは極めて自然な作業だと考えられていたので、手の込んだ準備は必要ありませんでした。

ひとたび注意が内面に向けられたら、高度な精神状態に到達できるかどうかは、その錬金術師の精神修養の程度次第でした。最も重要なことは、錬金術師が観照を開始したばかりの段階では、心理的なレベルや、潜在意識に関わるレベルで、活発な内面的作業がそこに含まれるということです。この種の作業には、明確な精神的な目標が常にありました。それは通常、〈創造者〉の精神と自分がひとつになるということでした。

錬金術について書いている多くの著作家の意見とは異なりますが、西洋の錬金術の起源がキリスト教にあることは否定できません。アブラハムの宗教(ユダヤ教、イスラム教、キリスト教)で行われていた祈りが、後に、中世の錬金術師たちの精神的な実践行為になりました。13世紀末には、錬金術はすでに体系化された基本原理を確立していました。その中には、「エメラルド・タブレット」に要約されているヘルメス思想の理論だけでなく、アダムの堕落の後に人間のソウル(soul:魂)が引き裂かれたという聖書の考え方も含まれていました。

ソウルを癒すことは、錬金術と宗教的伝統の共通の目標でした。それを達成する方法に関して意見の相違があったことは確かですが、この2つは、哲学的な根を同じ土壌に下ろしていたのです。錬金術の内面世界における最高の成果は「ミステリウム・コニウンクティオニス」(Mysterium Coniunctionis:結合の神秘)ですが、それは、引き裂かれたソウルを再び統合することでした。

ソウルを完成させるという神聖な作業こそが、錬金術という「大いなる作業」なのです。物質を変質させる錬金術の操作は、どんなものにも通用する原理であると彼らは考えていたので、鉛を金に変換する秘法を習得できた人は、同じ根本のテクニックを自身の内面にも適用できると考えたのでした。

中世の教会と錬金術師たちは対立していましたが、人間のソウルの救済という永遠の目的を共有していたのです。(脚注5)

静寂主義運動(Quietist Movement)の起源は、キリスト教の神秘家であるマイスター・エックハルト(Meister Eckhart, 1260-1328)の教えにあります(脚注6)。彼は、意識の浄化を通じて暴君のようなエゴの影響から逃れることによって、人は〈創造者〉との合一を達成できると考えました。この神秘思想の種子は教会に根付き、やがてミゲル・デ・モリノス(Miguel de Molinos;1640-1696)という司祭の著作によってスペインで花開きました(脚注7)。彼の思想はフランスとイタリアで急速に広がり、最終的にはヨーロッパの極めて広い範囲に及ぶ精神運動になりました。

静寂主義者たちは、人間の自己中心性を超えて〈創造者〉との合一に至るために、観照の祈りという方法を唱えました。彼らは、人間のソウルが〈創造者〉を内的に体験することが可能であり、この体験を得たソウルは、まだ地上にいる間に〈創造者〉の完全性を獲得できると考えていました。しかし、ソウルを変えられるのは〈創造者〉の恵みだけであり、それは、直観にしっかりと支えられた観照と浄化のための瞑想を通して、ソウルが浄化され高められた後にだけ起こります。

広い支持を集めた静寂主義運動の指導者に、スペインの修道女のアビラのテレサ(Teresia Abulensis, 1515-1582)がいます(脚注8)。彼女のメッセージの根本は、天国へ上昇は自身の内部から始まるということです。心の錬金術(訳注)に携わる大部分の人たちと同じように、彼女は、心が洗練されていない人間は内面的な厳しい作業を通して自身を変容させなければならないと唱えました。「自身の中に入ることなしに天国に入ることができると考えるのは愚かなことです」と彼女は述べています。しかし、「どんなに肥沃な土地でも、耕さなければアザミやイバラが生えます。それは人の心も同じです」(脚注9)と、内面の作業の前に、まず意識の浄化が必要であると注意を促してもいました。

(訳注:心の錬金術(spiritual alchemy):卑金属を貴金属に変えることが物質の錬金術と呼ばれるのに対して、心の中の卑しい要素を貴い要素に変容させることは「心の錬金術」もしくは「精神の錬金術」と呼ばれる。)

静寂主義者の瞑想
静寂主義者の瞑想

西洋の中世の錬金術師が実践した瞑想の一例を、4つのステップに分けてご紹介します。それは、静寂主義者たちが用いた、体系的に組み立てられた観照の祈りです。

静寂とは、集中すると同時にリラックスし、あらゆる関心から心を切り離すという単純な方法であり、他の様々な伝統思想とも共通する方法です。しかし、中世とルネッサンスの観照の祈りの実践者にとっては、これを実践する理由はただ一つ、〈創造者〉との合一のために心の準備をすることでした。

静寂の段階を始めるためには、楽な姿勢で椅子に座り、背筋を伸ばして目を閉じます。横になった状態では行わないでください。早朝、昼寝の後、休みの日など、誰にも邪魔されない一人になれる時間が最適です。

基本となる静寂の段階は、身体と精神とソウルのすべてのレベルで行います。身体のレベルからまず始めます。身体の感覚や外部からの刺激への関心を少しずつ手放していきます。まずは筋肉をリラックスさせて緊張を解くことで、体を「柔らげる」ことから始めましょう。

精神のレベルの静寂には、絶え間ない思考のおしゃべりと、感情のエネルギーの渦巻くような混乱を鎮めることが必要です。これはまだ初期的な段階であり、精神の働きはまだ完全には浄化されていないため、頭の中にまだ残っている様々な考えや、感情、記憶、空想、計画、心配や、他の印象に気を取られてしまいがちです。それらは、意図的にコントロールしようとはせず、ただ無視してください。押しのけたり包み隠したりすることにエネルギーを使わないようにしましょう。こうした残りかすは、注意を払わないことによって自然と消え去ります。

このような作業をしている最中に妨げになる他の要因には、洞察、解決策、あるいは「私は正しく行っているか」とか「自分はとても落ち着いている」といった、自分の状態についての感想があります。こうした執着はすべて、たとえ肯定的なものであっても、日常の関心事に精神を引き戻してしまいます。

精神は、何の考えも印象もない、まっさらな状態であるべきです。この状態に達するまでには多少時間がかかるかもしれませんが、離れて手放すという態度を保ち、すべてを単純な意識の状態に戻し続ければ、最終的にはこの状態が現れます。精神の静寂が達成できたら、目の後ろで額の奥にある、心の暖かい光に注意を向けましょう。

ソウルのレベルでの静寂の段階も、日常的な関心事や欲求から離れるためのものであり、罪悪感、欲深さ、プライドといったマイナスの感情や、心に染み付いた一切の願望を手放すことで、自身の内的な部分を落ち着かせる方法です。そのために必要になるのは、欠乏感、罪悪感、劣等感を克服することです。また、ソウルは無限の存在であり、この世界やこの世界に出現した一時的な自己(ego:エゴ)の行ないに結び付けられているものではないのを理解することです。ソウルに静寂がもたらされると、愛情に満ちた無邪気さと、えも言われぬ安らぎを感じるようになります。

ひとたび身体と精神とソウルに静寂がもたらされると、この第一段階の作業にはさらに、精神内の「静寂を育む」という作業が含まれてきます。ここでの主な作業は、自分個人の意志に対して行われる作業であり、自分の意志が消滅するようにする、すなわち、神聖な「静寂」の中で〈創造者〉の存在に自分の意志が吸収されるようにすることです。

あなたを溶かし去るものは「静寂」そのものだということを心得ていてください。心の錬金術の化学では、あなたを溶かし去るこの成分は、アルカヘスト(Alkahest)すなわち「万能溶剤」として知られています。

「静寂の祈り」を終了するときには、制限時間を設けたり、アラームを用いたりしてはなりません。できる限り長く行い、終わらせるべき時間が来たと感じたら、そっと「個人的な実験室」から退出して、作業を終了してください。意図の純粋さが、この作業をなし遂げるためには必要なので、純粋であるための気力が途切れた時点で終了しましょう。

静寂主義者の用いる方法の第2の段階は「復帰」です。ここでの観照の内容は、宇宙の〈唯一の精神〉(One Mind)の意志に完全に身を委ね、個人の意志に取って代わる〈創造者〉の導きを求めることに照準を合わせます。これは、宗教の用語を用いて言えば、〈創造者〉に自身を明け渡す(surrender)ことです。皮肉なことに、それが最も確実に起こるのは、自分自身を改善しようとする努力がことごとく失敗に終わり、挫折し失望したときです。これは、人生において並外れたことをしようとしていて、仲間や家族、職場や社会、宗教上の信条やその他の文化的制約によって、その目的が阻まれている人なら、誰にでも起こることがあります。

「復帰」を真に理解するには、これまで人生で、〈創造者〉をどのように拒絶してきたかを理解する必要があります。毎日の雑用や時間つぶしの仕事、義理や出世のために行動に身を投じて、自分の生活に精神性の向上という面があることを決して認めない人がいます。そうした人たちは神秘体験の存在や効用を受け入れていないか、そのような考えを受け入れると、日々力を注いでいる事柄に何らかの支障が出ると考えています。また、時間とエネルギーのすべてを奪い取られるような仕事に没頭し、心の崇高さに関わる体験をする余裕のない人もいます。さらに、愛が不足していることや、貪欲さ、辛い経験が理由で、世の中に対して頑なに物質主義的な見方をする人もいます。

この段階では、〈創造者〉のエネルギーに心を開くことができなかった原因をよく考え、心を閉じていることによってソウルがひどく傷ついてしまっているありさまを素直に認めましょう。

静寂主義の人たちの観照の第3段階は「回想」です。これは、二元性を超越し万物の神聖な源をしっかりと確認する段階です。回想の作業は、精神的な祈りを熱心に行うことから始めます。ここでは、世俗的な誘惑からソウルを引き離すことに集中し、精神の崇高さを求める情熱の力について誠実な観照を始めます。回想の段階に進むためには、先ほど述べた2つの段階に上達しておく必要があります。

回想に用いる主な手段は深い観照です。それは心の奥底からの実践でなければならず、表面的な知性によるものであってはなりません。それによって、宗教的な教義や慣習によって達成できるいかなるものも超えた深い敬虔さが、心の中に芽生えることが体験されます。心の中のこの清らかさが、あなたの導き手となって、ソウルは神聖な意志だけに導かれるようになります。

錬金術という観点から見ると、この導き手はトート神/ヘルメス神(訳注)であり、人の無限のソウルから現れて浄化された心の中に住む、内なる先導者です。実際のところ、〈創造者〉の助けが人間には必要であることに同意しなければなりません。自分という存在から完全に切り離された何か、それはこのプロセスの最終段階に進むための自信と強い信念をもたらします。なぜなら、日常表現されている性格つまりエゴは、そこに行きたがらないからです。

(訳注:トート神/ヘルメス神(Thoth/Hermes):紀元前4世紀にギリシャ人がエジプトを征服すると、エジプトでヘルメス思想が成立した。当時のこの地のギリシャ人は、エジプトのトート神をギリシャのヘルメス神と同一視した。)

この段階で極めて重要ことは、深い観照の状態を保ち、あなた自身の意志が溶け去るまで心の中に留まり続けることです。すると突然、紛れもない〈創造者〉の恩恵によって「生き生きとした新たな自分になった」と感じる瞬間が訪れます。

心の錬金術の化学の用語を用いるならば、ソウルを容れた器は密閉して、日常世界から来る不純物が混入しないようにしなければなりません。その時点で、いかなる種類の思考もすることなく、観想を直ちに止めなければなりません。また、この状態に至るまで用いていた方法も放棄しなければなりません。あなたのソウルは、〈創造者〉が観照の中で、観照を通して働くことを許さなければならないのです。その妨げにならいようにソウルを完全に解放し、恩恵が可能な限り流れ込み続けるようにしなければなりません。

静寂主義の人々が取り組む瞑想の最終段階は、達成するまでに時間がかかるかもしれません。しかし、先ほどのステップで開いた至高者の恩恵への通路を通して達成できます。ここでは、神聖なエネルギーの流入を伴う受動的な観照の状態に入ります。それは、至高者と共にいるという限りない慰めに心を奪われる体験です。

言い換えると、その人は完全に満たされ、生き生きと感じ、それ以上望むものは何もなくなります。真実の探求は終わり、その人はグノーシス(訳注)の至福の状態に達します。それは、人間が到達できる、そして到達を果たした希有で素晴らしい状態です。

(訳注:グノーシス(gnosis):ギリシャ語の元々の意味は、「知識」もしくは「認識」。〈創造者〉と人間本来の自己が同一であるという認識体験を指す。グノーシスによる救済を唱えるグノーシス思想は、西暦紀元前後にローマ帝国の圧政下にあった有産知識人層から広まった。)

一人ひとりのソウルは、宇宙の大いなるソウルの一部でもあります。したがって人間のソウルは〈創造者〉の領域に属し、〈創造者〉の核心にあたります。ですから一人ひとりが、〈創造者〉と同じ神聖な場所で暮らすことで、〈創造者〉の精神と一つになることができます。この神聖な場所に留まるためには、常にエゴを捨てて欲望を絶つことが必要です。プライドや自己愛を自身の全ての部分から捨て去らなければなりません。その結果残るものは、ソウルの真の住居である〈創造者〉の傍らに留まりたいという、素朴で純粋な願いだけです。

「流入で満たされた観照」を行っているときの自分の役割は、神聖なエネルギーを入れる完璧な器になることです。そうなることを考えたり、イメージしたりするだけでは十分ではありません。この最終段階では、体内の感覚が消えた完全に受動的な状態であり続けなければなりません。記憶や想像は〈創造者〉に吸収され、忘我の強い喜びが自身の内部を満たします。

(後編はこちら)

脚注

1. Philip Ashley Fanning, Isaac Newton and the Transmutation of Alchemy: An Alternate View of the Scientific Revolution (Berkeley: North Atlantic Books, 2009), 160.

2. Nathan Schwartz-Salant and Murray Stein, The Body in Analysis (Asheville: Chiron Publications, 1986), 32

3. Paracelsus (Philippus Aureolus Theophrastus Bombastus von Hohenheim), Liber de Imaginibus. (Bonn, 1531), Cap. XII.

4 Carl Gustav Jung, Psychology and Alchemy, Collected Works of C.G.Jung , Volume 12. (Princeton, NJ: Princeton University Press), para. 394-395

5. カトリック教会における神秘思想の歴史は、紀元前100年頃の新プラトン主義やグノーシス思想の一神論に遡ることができる。プラトンの唯心論的な形而上学に触発されたこれらの集団のメンバーは、ソウルと〈創造者〉との直接の合一を探求した。聖アウグスティヌスのような初期の教会指導者は神秘思想の方針を支持したが、最終的に定められた公式の教義では、心の崇高さを完成させることは現世では不可能であり、教会の外で神との合一をなし遂げようとする瞑想は、神への冒涜であると宣言された。

6. マイスター・エックハルトは、意識を浄化することで、人はエゴの横暴な支配から脱し、神との合一に到達できると考えた。しかし、彼の考える「神」は、教会の擬人化された神よりも、新プラトン主義〈唯一の精神〉(One Mind)に近く、1329年に教皇ヨハネ22世はエックハルトを異端者とする勅令を出した。

7. ミゲル・デ・モリノス(1628-1697)は静寂主義運動の創始者とされている。1675年に『霊の導き』(The Spiritual Guide)を発表し、心の崇高さを完成させる手段として瞑想を提唱した。この本は、啓示を得るための実践的な方法を求める人たちの共感を呼び、出版後6年間で20版を重ねた。ヨーロッパ各地で、この本の教えを実践するグループが生じ、教会までもが、モリノスのこのささやかな書物を認めた。数年後に神父たちはようやく、モリノスの人気の著書がカトリックの教義に反していることに気づいた。モリノスは、自宅でひとりでいるときにも「神の御前」で瞑想することができると主張したことで一線を越えてしまった。1687年に彼は異端審問にかけられた。教会は彼の裁判を公開の見世物にしようと考え、見物に来た人全員に、15年間は悪習にふけっても地獄の刑罰が免除されるという免罪符を提供した。モリノスは終身刑を宣告され、9年後に死亡した。裁判の後、教皇庁は『霊の導き』を含む彼のすべての著作を、既刊未刊を問わず悪書に認定し禁止する勅令を出した。

8. テレサ・サンチェス・デ・セペダ・アフマーダ(Teresa Sanchez de Cepeda Ahumada)は、1515年にスペインのアビラ(Avila)に生まれ、 「アビラのテレサ」(Teresa of Avila)として知られるようになった。彼女は20歳で修道女となり、カルメル会に入会した。テレサは機知に富み、聡明で美しい女性であった。彼女が行っていた心の実践は、「静寂の祈り」に重点を置いており、この祈りで達することのできる観照のレベルにおいて、彼女の魂は並外れた平安と休息を経験した。「静寂の祈り」を続けることで、神の存在を身近に感じられるようになると語った彼女は、修道院に来た2年後に消耗症(consumption)を患った。消耗症に陥ると、身体が衰弱し、病気に徐々に“吸い取られていく”かのような状態になる。現在では播種性結核(粟粒結核)と呼ばれるこの悪性の疾患は、その後3年に渡って彼女を死の淵に追いやった。彼女はその間、観照の祈りの実践と静寂主義運動に関する書物の研究に時間を費やした。彼女はこう説明している。「病気の最中に、私は魂の最も低級な片隅から立ち上がり、神という崇高な存在とひとつになりました。そして、神の癒しの恩恵が、この病気を打ち破ってくださったのです」。テレサはその後、静寂主義運動の有力な指導者になった。

9. Teresa of Avila, The Interior Castle, or the Mansions (London: Forgotten Books, 2007), 25,26.

※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラのこころ」の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。

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