投稿日: 2023/08/29

以下の記事は、バラ十字会日本本部の季刊雑誌『バラのこころ』の記事を、インターネット上に再掲載したものです。

※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。

区切り

二つの仏像-私の人生を大きく変えた「実物からの学び」
The Two Buddhas

アフェクテイター
by Affectator

二つの仏像

私の書棚に置いてある2つの仏像が、とても貴重である理由は、ひとつだけではありません。他の人はただの骨董品だと思うでしょうが、私には違います。私にとっては、決して忘れることのできない出来事を思い起こさせてくれるものなのです。

この2つの仏像を見ていると、私をじっと見つめながら仏像を私に手渡してくれた僧侶の愛情のこもったまなざしが、いまだに目に浮かびます。それは、もう何年も前、私が若かったときのことです。私がこの仏像を手に入れたいきさつをお話すれば、なぜ私がこれを「実物からの学び」(object lesson)と呼んでいるのかをご理解いただけることでしょう。私がこの仏像から学んだことは、私の生涯の宝物になったからです。

1936年、私は世界一周クルーズ中の大型客船で、二等通信士として働いていました。ある日の早朝、私たちは、セイロン(現在のスリランカ)のコロンボの港の停泊場所に到着しました。植民地時代風の白い家々と緑の丘に囲まれた港でした。とてものどかな風景でした。

私たち4人は、島の中央部にあるキャンディ(Kandy)という町に向かっていました。私たちは古いガタガタのトラックに乗り込み、灼熱のジャングルを通っている、穴だらけで溝だらけの道を抜けていきました。最後には、車を降りて人力車に乗り換えなくてはなりませんでした。人力車でなければ、道にある車ほどの大きさの穴を避けて通ることができなかったからです。キャンディでは、太陽がギラギラと容赦なく照りつけていました。しかし、耐え難いほどの暑さにもかかわらず、私たちは町中を歩いて写真を撮ることにしました。

まず、蛇の寺を訪れました。そこでは、広い部屋の中央に、床から30センチほどの高さの円形の祭壇が設えてありました。祭壇には小さな木々が固定されており、木の枝には想像できる限りのあらゆる種類の蛇がいました。鮮やかな色をしてしっかりと枝に巻きついているものもいれば、濃い灰色や茶色でとても長いものもいました。ひざまずいたり、祈ったりする人や、お辞儀をして寺を出て行く人がいました。

床の近くの低い枝に巻きついている、色とりどりの模様をした蛇に魅せられ、もっとよく見ようとして身をかがめたとき、私は右の耳にシューシューという音と風が吹いたような感覚を感じました。体を起こさないようにして、ゆっくりと振り向くと、茶色がかった蛇の目を自分が見つめているのに気づきました。その蛇の細い刀のような舌が私の耳をかすめました。シューシューと大きな音を立てながら、その蛇は一撃を与えるようと大きな口を開けました。しかし、逃げ出したいという強い気持ちを押えて、幸いにも、完全に静止したままでいることができました。致命的な一撃に襲われるのではと身構えていましたが、その一撃は来ることなく、蛇は口を閉じると、枝を素早く登って行きました。私が色とりどりの模様の蛇を見ようと身をかがめたときに、おそらく、その枝に軽く触れたのです。

私はどうやってその寺を出たのか覚えていないのですが、ものすごいスピードで走り出たに違いありません。その一瞬の後には、通りの斜め向かいにある別の寺にいるのに気づいたからです。そこでは祭壇が部屋全体に広がっていました。そして、祭壇にはさまざまな種類の小さな仏像が点々と置かれていました。そこにいた一人の人はすぐにいなくなり、私は独りで祭壇上の、素晴らしい仏像を見ていました。そのとき、視界の端から輝く銀色の仏像が飛び込んできて、私の注意を引きました。今でもその理由がわからないのですが、私はその仏像を持ち去りたいという突然の衝動にかられました。

通りの斜め向かいにある別の寺では祭壇が部屋全体に広がっていました

ひそかに周りをうかがい、部屋に誰もいないことを確かめると、私は素早く仏像をポケットに入れました。そして、祭壇の箱にお金を入れれば、埋め合わせ以上になるだろうと考えていました。お金を入れようと祭壇のほうを振り向くと、白い衣を着た奇妙な姿の僧侶がどこからともなく現れました。

「やあ、こんにちは、若者よ」と彼は言い、丁寧にお辞儀をして微笑みました。彼の目は私の目を真っすぐに見つめていました。「この慎ましい寺を気に入ってくださったか」。私は小さな仏像が置かれていた祭壇に目をやりながら、「はい、気に入りました」と何とか口ごもりながら言いました。私は、自分のうしろめたい眼差しや仏像がなくなっていることに、僧侶が気づかないことを願っていました。すると、僧侶は身をかがめて、私がポケットに入れた仏像の隣に置いてあった金色の仏像を取り上げました。その仏像と対になった銀色の仏像を私が盗んだことを僧侶はもう知っていることが、私には即座にわかりました。

彼はしばらくの間、金色の仏像を手に持っていましたが、やがて私に手渡しながらこう言いました。「若者よ、これも持って行ってくださらんか。今あなたが持っている仏像は正直を象徴しています。そしてこちらは真実を象徴しています。この2つは対なのです。ですから、あなたは両方を持っていたほうがいいのです」。私は恥じ入って、ポケットから銀の仏像を取り出し、それを返すと申し出ました。僧侶はゆっくりと頭を振りました。「いや、若者よ、私からの贈り物として受け取りなさい。この2つの仏像を持っていれば、あなたの中で、この2つが磨かれていくと私は思うのです。」

今、私の書棚にあるこの2つの小さな仏像を見ていると、私は今でも彼の言葉を思い出すことができ、思慮深く静かな彼の声が聞こえてくるような気がします。そして確かに、この重大な出会いによって私の人生は大きく変わり、私は、あの聡明な賢者との出会いに、永遠に感謝しています。

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