投稿日: 2022/03/22
最終更新日: 2022/08/08

自然界と調和して生きる ― 私たちの新しい筋書き

Living in Harmony with the Natural World – Our New Story

S. R. C. ジュリー・スコット (バラ十字会世界総本部秘書役、北中南米担当英語圏本部主宰)

By Grand Master Julie Scott, SRC

自然界と調和して生きる

見事に機が熟しています。今こそ、自然界と調和して生きるということに関連した、私たち人間の行動様式を導く「新しい筋書き」が作られ、既存のパラダイム(paradigm:思考の枠組み)が変えられなければなりません。パラダイムには、ある集団が共有している基本的な仮定や思考の方法が含まれています。たとえば、パラダイムのひとつに、ある社会が受け入れ、伝え続けている規範があります。

私たちの社会では規範やパラダイムによって、自然界は人間とは別個のものであるとされ、征服し支配するべきものだと見なされることもたびたびでした。文化史学者であり地理学者でもあるトマス・ベリー(Thomas Berry)によると、私たちの社会のパラダイムでは、母なる地球は、人間が望むように用いてもよい、砂利の採取場やゴミ捨て場だと理解されています。多くの人たちが、自然のことを自分自身や人類とは別のものだと見なしていますが、もちろんバラ十字会員である私たちは、人間が、自然界や動物界などを含む相互につながり合っている全体の一要素であり、しかも不可欠な要素であるということを知っています。一方で、人間が自然界に作り出してきた難問に向き合おうとすると感じることのある、打ちのめされたような感情を避けるために、この問題が存在することを否定する人たちがいます。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)や異常気象、そして他の多くの問題によって、私たちの暮らしや習慣が妨げられ、中断されました。これらの問題は、多くの人が認識している以上に互いに深く関連しています。自然界と調和してより望ましい人生を過ごし、すべてが相互につながり合っている全体の中で私たち人間が役割を果たすために、社会のパラダイム、社会の「規範」を変革するための好機として、私たちは歴史のこの瞬間を活用すべきです。

今号の『ロージクルーシャン・ダイジェスト』誌(訳注)では、この変革のチャンスについて検討します。

(訳注:『ロージクルーシャン・ダイジェスト』誌(Rosicrucian Digest):バラ十字会AMORCの北中南米担当英語圏本部が発行している雑誌。 https://www.rosicrucian.org/ で無料で読むことができる。)

ある集団が大切にしてきた規範を放棄する原因となるものは何なのか、つまりパラダイムシフトが起きるためには何が必要なのかを、さまざまな人が研究してきました。パラダイムシフトはほとんどの場合、危機によって引き起こされます。さまざまな問題をかつて解決してきたパラダイムが、新しい問題をもはや解決できなくなるのです。異常事態(anomality:アノーマリティ)、つまりそれまでのパラダイムでは説明ができないようなできごとが積み重なっていきます。それまでの規範が、私たちを失望させ始めます。

私たちは、今まさにこの状況にあるように思えます。

現在のパラダイムが、もはや集団の役に立たなくなっている場合に、それを転換させることは比較的簡単なように思えるかもしれませんが、それはほとんどの場合に簡単ではないことが、さまざまな研究から明らかになっています。新しいパラダイムの可能性さえ見いだすことができないために、多くの場合、古いパラダイムが持続することを人々は望み、今までよりも強くそれに執着します。

アルバート・アインシュタインはこう書いています。「今世紀(20世紀)初めの物理学における革命(パラダイムシフト)の最中は、まるで足もとの地面がなくなったようであり、その上に建物を建てられるような強固な土台がどこにも見当たらないような状況であった」。

『回復:パラダイムシフトの技術』(訳注)でデニス・ブレトンとクリストファー・ラージェントは、科学の世界でパラダイムシフトが通常どのようにして起こるのかついて書いています。これはまた社会全般にも当てはまります。

(訳注:『回復:パラダイムシフトの技術』(Recovery: the Art of Paradigm Shifts):前出の『ロージクルーシャン・ダイジェスト』誌の2010年第2巻(Volume 88 No.2)の記事(英語)。オンライン(https://www.rosicrucian.org)で読むことができる。)

「パラダイムがその役割を果たさなくなればなるほど、古いパラダイムを持つ科学者はそれを機能させようと激しく努力する。パラダイムを変革する機は熟しているのだが、科学者はパラダイムというものがあることすら忘れてしまっているため、代わりに自分たちの世界が崩壊しつつあるという結論を出す。解決策が、(現在のような)科学を行う別の方法であるなら、それは存在しない。科学者はあらゆる可能性を探ってきたが、彼らが知っている選択肢だけでは何の役にも立たない。彼らは既存のパラダイムに縛られすぎて、自分たちが構築したモデルの範囲内でよろめき歩いていることに気づかずにいる。」

この状況こそ、バラ十字会員の出番です。世界は新しいパラダイムを、トマス・ベリー(Thomas Berry)や他の人たちが提唱するような「新しい筋書き」を必要としています。そして、バラ十字会が提案しようしている「新しい構想」には、実は長い歴史があります。

1614年に発行されたバラ十字会の宣言書『バラ十字友愛団の声明』(Fama Fraternitatis:ファーマ・フラテルニタティス)には、後に「クリスチャン・ローゼンクロイツ」と呼ばれる伝説上の人物、ブラザーC.R.の物語が記されています。C.R.はその旅の途中、キプロス、ダムカール、エジプト、フェズで、世界で最も深遠な英知のいくつかを手に入れたとされます。C.R.はヨーロッパに戻り、学んだことを分かち合おうと熱心に取り組みましたが、学者や宗教指導者は彼の語ることを聞こうとしませんでした。彼らは耳を傾けるのではなく、これまで信じていたことを守ることだけに興味を持ち、自分たちのパラダイムが正しいと主張することに執着しました。自分たちの“知識”が疑われることを望まなかったのです。

C.R.はその旅の途中、キプロス、ダムカール、エジプト、フェズで、世界で最も深遠な英知のいくつかを手に入れたとされます

そこでブラザーC.R.は、旅で集めた英知を後の世代に伝えるために、ある友愛組織を創設しました。それがバラ十字会だとされます。彼の目標は、ヨーロッパの統治者たちのために諮問会議(古代の神託所のようなもの)を提供できるような友愛組織を作り、統治者たちが社会を導く光となるために協力することでした。『バラ十字友愛団の声明』には、新しいバラ十字会員たちが120年後に現れ、この英知を受け継いで、危機に瀕した世界に平和を取り戻し、自然界と調和して生きるように人々を導くことに貢献すると記されています。

クリスチャン・ローゼンクロイツは旅でどのようなことを学んだのでしょうか。

彼が最初に訪れたのはキプロスでした。ここはアフロディーテの生誕の地です。この女神は、ヘルメスとの間に両性具有の子供であるヘルマプロディートスを産んだとされています。両性具有は、原初の男性性と女性性のバランス、精神と物質が調和した全体、二元性が支配する世界からの解放を象徴しています。錬金術における両性具有とは、女性性と男性性の自然な調和を通して、新しい人間を作ろうとする心の錬金術(訳注)の一種です。

(訳注:心の錬金術(spiritual alchemy):物質の錬金術は卑金属を貴金属に変容させることを目標にし、心の錬金術は心の卑しい要素(短所)を貴い要素(徳)に変容させることを目標にする。)

ダムカールはアラビアの秘境にある神秘的な都市で、達人の集団が住んでいたとされます。科学の知識と秘伝哲学の知識の両方を集めた重要な百科事典がこの地で編纂(ルビ:へんさん)されました。ダムカールは、ヘルメス文書(Corpus Hermeticum)を保管している地として知られていました。それは、古代エジプトの神秘学派の英知を受け継ぐヘルメス思想の核となる文書です。ヘルメス思想は、自然と調和することと人間と自然の相互関係を重視しています。

ダムカールに滞在している間にC.R.はイスマーイール派(訳注)の賢者に会い、物理学と数学の重要な知識(アラブ世界から人類への贈り物)を学びました。またこの賢者はパラケルススの思想と『Mの書』(Liber Mundi:世界の書)を彼に与え、後にC.R.はこれをラテン語に翻訳したとされます。

(訳注:イスマーイール派(Ismaeilian):イスラム教シーア派の一派。)

パラケルススはドイツ系スイス人の医師で錬金術師であり、秘伝哲学の多くの学派の知識を統合することに取り組んでいました。パラケルススは、ルネサンス時代の医学革命のいくつかの先駆者でした。彼は観察を行うことの重要性を強く主張し、手に入れていた知識と観察を組み合わせ、医学における化学の役割を確立しました。パラケルススは、ガレノス(訳注)の医学的方法を拒絶し、当時の極めて名高い錬金術師と会い、その効果的な治療法を学んだだけでなく、自然の潜在的な力とその利用法を発見しました。

(訳注:ガレノス(Galen):西暦2世紀のギリシャの医学者。彼の著書には当時の間違った知識が数多く含まれていたが、ルネッサンス時代まで医学の基本として信頼され続け、その権威は医学の停滞の原因になった)

『バラ十字友愛団の声明』の表紙
『バラ十字友愛団の声明』の表紙

C.R.はダムカールで3年間学んだ後、生物学と動物学を学ぶためエジプトに短期間滞在したとされます。その後、彼はフェズに赴きました。

フェズは、哲学と他の学問の当時の重要な中心地であり、いくつかの壮大な図書館がありました。フェズは、錬金術の学校がいくつかあることでも知られていました。C.R.はそこで歴史のサイクルに関する知識を完成させ、自然界から「下にあるものは上にあるものに似ている」という原理を学びました。C.R.は「諸元素の住民」(ノーム、フェアリー、ニンフなど)に紹介され、彼らから数多くの秘密を明かされたとされます。諸元素の住民とは、目に見える自然界に対応する目に見えない非物質的な存在、つまり土、空気、水、火という本質です。パラケルススによると、諸元素の住民は、自分たちと接触する方法を知っている人間と自然界の秘密を分かち合います。

C.R.は、アラビアとアフリカの学者たちが異なった学問分野にまたがる協力をしていることに深く感銘を受けました。彼らは、知識を共有するために毎年会合を開いていたのです。より良い考え方が見いだされた場合や、あるできごとが、以前に見いだされた理論が正しいとは限らないことを示した場合に、彼らはそのことを賞賛しました。毎年、知識は改善され進歩していました。

ブラザーC.R.の視点は私たちの意識を広げ、私たちが万物の一部であり、すべてのものとつながっていることを理解させてくれます。私たちは互いにつながっていて、あなたと私もつながっており、全人類とも、木々やイルカや鹿や海やミツバチなど、すべての存在とすべての生命と、そして土、空気、水、火の精霊とも互いにつながっています。

私たちは宇宙に存在する万物とつながっており、その一部であり、宇宙の中心ではありません。私たちは誰もが、振動でできている同じ海で泳いでいます。私たち人間の振動数が他と異なることが理由で、私たちは他とは別個のものであるという印象を受けますが、別々ではありません。

デニス・ブレトンとクリストファー・ラージェントがあらゆる時代の科学の革命を調べて確認したように、古いパラダイムに従って生きている人には、そのパラダイムこそが危機の原因になっていることが理解できません。彼らは、自分たちには新しいパラダイムなど必要なく、自分たちが持っているパラダイムがより良く働くようにする必要があるだけだと信じています。彼らは、自分たちの社会制度には何の問題もないと言います。もしあれば、社会の根底にあるパラダイムに疑問を投げかけることになるからです。彼らはその代わりに、ものごとがうまく機能しない場合には、何かが故障しているのだと主張します。

解決策は、私たち一人一人が心の中の助言システムである自分の魂(soul:ソウル)と同調することです。もちろん、そのためには現在普及しているパラダイムから離れる必要があります。しかし、パラダイムから自由になることは簡単ではありません。

フランツ・ハルトマンは『達人とともに:バラ十字会員との冒険』(With the Adepts: An Adventure Among the Rosicrucians)に以下のように記しています。

「より多くのお金、より多くの快適さ、より多くの喜びなど、求めている物すべてを得た後にも、それらを求め続けるせわしさは現代文明を特徴づけるものである。しかし、それらは必ずしも貪欲、悪意、道徳的堕落を示しているのではない。そうではなく、物質の世界で自己を表現するような、何かより高度でより良いものに達しようという人間の本質に内在している本能的な衝動が原因で起こっているのである。」

「どれほど金持ちになろうと、どれほど名声を得ようと、満足して休息するような状態にはまだ達していないことを人は直感的に理解している。何かのためにまだ努力し続けなければならないことは分かっているのだが、その何かが何であるのかを知らない。より高いレベルの人生を知らず、低いレベルの人生が提供してくれるものをより多く得ようと努力し、それゆえに、自分にとって無用なことを達成するためにエネルギーを浪費する。私たちに掛けられている呪いは、自らの真の性質を知らないことである。」

キャッツアイ星雲、ハッブル宇宙望遠鏡による、NASA の画像
キャッツアイ星雲、ハッブル宇宙望遠鏡による、NASA の画像

私たちの「新しい筋書き」の基礎になるのは、私たちの真の性質を知ることです。私たちは鏡のようなものであり、そこでは創造主が自体を反映する像を、うまずたゆまず熟視しているのです。私たち人間は、自然界を含む相互につながった全体の中の不可欠な構成要素であり、宇宙の進化に一人一人が携っています。私たちは自然界の和音の中のひとつの音です。このことは、バラ十字会のあらゆる教本の中でも、バラ十字会の(新旧の)宣言書の中でも、そして私たちがひとりきりで自宅で行う作業の中でも伝えられることです。私たちの「新しい筋書き」は自然界と調和して生きることです

何を買うのか、どのように過ごすのか、大地をどのように歩くのかという日々の選択を通して、社会の現状のパラダイムの転換を起こすことに私たちは貢献できます。私たちは自ら学ぶこともできますし、自然界と調和して生きるということを理解して支持している政治家に投票することもできますし、変化をもたらすための情報にアンテナを張り、関わり続けることができます。そして、後に続く人たちの前例としての役割を果すことで「新しい筋書き」に貢献することができます。

『バラ十字友愛団の声明』(1614年)は、ヨーロッパの指導者に対して、社会の調和を取り戻し、指導者間で合意を宣言するという提案について検討することを要請する文章で終わっています。この宣言書の出版から400年後の2014年に、バラ十字会は別の宣言書『バラ十字友愛組織からあなたへの訴え』(Appellatio Fraternitatis Rosae Crucis)を公表しました。「アペラシオ」(Appellatio)という言葉は、呼びかけや訴えを意味しています。今回の宣言書は、指導者だけに呼びかけるものではありません。すべてのバラ十字会員と、人生の神秘について考えるすべての人に、私たちの社会の変革に加わるように呼びかけるものです。パラダイムに転換を起こし、「新しい筋書き」を広めることに参加することが、あなたにも呼びかけられています。それはすべての人、すべての生きもの、素晴らしい地球のために自然界と調和して生きるという筋書きです。

私たちの未来がそうありますように(So Mote It Be!)。

参考文献

  • Breton, Denise and Christopher Largent. The Paradigm Conspiracy: Why Our Social Systems Violate Human Potential – And How We Can Change Them. Center City, MN: Hazeldon Foundation, 1996.
  • d’Arcy, Christina. “Fama Fraternitatis or a Discovery of the Fraternity of the Most Laudable Order of the Rose Cross”. Rosicrucian Digest vol. 97, no. 1, 2019.
  • Hartmann, Franz. With the Adepts: An Adventure Among the Rosicrucians. London: William Ryder & Son, 1910.
  • The Rosicrucian Manifestos, San Jose, CA: Supreme Grand Lodge of the Rosicrucian Order, AMORC, 1610 – 2014.
  • ThomasBerry.org

※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラのこころ」の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。

人生を変える・人生を知る/1ヶ月無料体験プログラムのご案内

無料体験のご案内ご入会申込