投稿日: 2023/09/01

こんにちは。バラ十字会の本庄です。まだまだ暑さが収まりませんね。

今朝、今年初めてトンボが飛んでいるのを見かけました。秋が、すぐ近くまで来ているようです。

いかがお過ごしでしょうか。

札幌で当会のインストラクターを務めている私の友人から、児童文学の名作についての文章が届きましたので、ご紹介します。

区切り

『不思議の国のアリス』(Alice’s Adventures in Wonderland) ルイス・キャロル著

文芸作品を神秘学的に読み解く40

森和久のポートレート
森 和久

ある暑い夏の日の午後、アリスはお姉さんと土手の上に座っていました。お姉さんは、挿絵も会話もない本を読んでいます。それは7歳のアリスには全く面白みがなく、退屈この上ないです。

暑さのせいもあり、アリスはとても眠くなりました。そこに一匹の白ウサギが通り過ぎていきました。好奇心あふれるアリスはその白ウサギの後を追って、ウサギの巣穴へ飛び込んだのです。

こうしてアリスの冒険は始まりました。ワンダーランド(不思議の国)を巡る冒険です。その冒険の数々は12の章立てによって綴られています。その内容を章ごとに見ていってみましょう。

第1章/ウサギの穴へ落ちて

アリスは白ウサギを追いかけトンネルを通り、鍵の掛かったドアが並ぶ広間へ。ドアを開けてみると、細い抜け道が。しかしアリスの身体では大きくて、ドアを通ることは出来ません。

そこで飲み物を飲むと体が小さくなりました。しかしテーブルの上にあるドアの鍵を取れなくなります。そのときテーブルの下に、小さなガラスの箱に入ったケーキを発見します。

[外界認識]

第2章/涙の池

アリスがケーキを食べると、身体が大きくなり、大きくなりすぎてアリスは泣いてしまい、深さ10センチの大きな涙の池が出来ます。ウサギが落とした扇を使ってみると、身体が縮みました。しかし鍵は、テーブルの上に置いたまま。さらにアリスは、足を滑らせて涙の池に落ちてしまいました。

自分の変化に得心できないアリスは自分が別の人間になったのでないかと不安になります。

[身体認識]

初版本の冒頭の挿絵、Public domain, via Wikimedia Commons
初版本の冒頭の挿絵、Public domain, via Wikimedia Commons

第3章/レースと長いお話

池にはまった皆で岸へ上がり、コーカス・レースをやり身体を乾かすことに。みんなが優勝し、ネズミの長いお話を聞きます。アリスがペットの猫(ダイナ)の話をすると、みんないなくなります。

[共通認識]

第4章/白ウサギ、トカゲのビルを送り込む

白ウサギに使用人と間違われたアリス。白ウサギの家へ行き、ビンの飲み物を飲むと、アリスはどんどん大きくなっていき、腕が窓の外へはみ出しました。

巨大なアリスに驚いた白ウサギは、トカゲのビルをけしかけたり、家ごと燃やそうとしたり、小石を投げたり。床に落ちた小石がケーキに変わっていて、それを食べたアリスの身体は縮みます。

[他者認識]

初版本の18ページ、Public domain, via Wikimedia Commons
初版本の18ページ、Public domain, via Wikimedia Commons

第5章/芋虫からの助言

芋虫におまえは何者だと聞かれ、答えられないアリス (芋虫:Who are you? → アリス:I’m not myself.) 。自分で自分が解らない。

芋虫にキノコの片側を食べれば背が高くなるし、その反対側を食べれば低くなると教えられますが、キノコのどこを食べれば良いのかわかりません。きのこをいろいろ試して、ようやく元の大きさに戻ることが出来ました。

[自己認識の崩壊]

第6章/仔ブタと胡椒

公爵夫人の家にたどり着くと、中では料理人の女が大騒ぎをしています。女王様とのクロケー遊びへ出掛ける公爵夫人は、赤ちゃんをアリスへ預けますが、その赤ちゃんは、実はブタ。

アリスは人間の子だったら醜いが、ブタにしては可愛いと思う。チェシャ猫が現れ、消えるときは、笑いが身体より後まで残っています。

[常識の崩壊]

第7章/狂ったお茶会

三月ウサギの家を発見。家の前のテーブルで三月ウサギと帽子屋とヤマネがお茶会中。同じ時間を繰り返しているのでいつもお茶の時間だと言う。言葉の間違い、時計の間違い、話しの間違いを延々と話しています。

[常識の欠如]

マッド・ティーパーティー
マッド・ティーパーティー

 第1章から第7章までは、主に「認識」についての記述を読み取ることが出来るでしょう。

共通認識から「常識」というものは形作られていきます。普段何気なく使っている「時間」も「空間」もそうです。そして「常識」の範囲も共通認識からできあがっています。

例えば、他人が入ってくると不快に感じる距離感であるパーソナル・スペースも国や地域、文化、ジェンダーで違ってきます。それを少女アリスは冒険という形で身につけていきます。(下図を参照ください)

不思議の国のアリスの最初の7章と認識についての図

第8章/女王様のクロケー場

庭の入口に咲いている白いバラを庭師たちが、赤く塗り替えています。ハートの王様と女王様が登場しクロケーを始めますが、グランドは溝だらけ、ボールはハリネズミ、バットはフラミンゴ。みんなが同時にゲームを始めて、まったく収拾がつきません。女王様は「首を切れ」とわめき立てています。

[不条理]

第9章/ウミガメモドキの話

女王様に勧められて、グリフォンとウミガメモドキの話を聞きます。学校の時間割の話。毎日1時間ずつ減っていき、ついには休みになり、そしてその次の日は?

[論理の破綻]

第10章/ロブスターの踊り

ウミガメモドキとグリフォンがロブスターの踊りを踊ってみせますがちぐはぐで、果ては踊りの歌詞も支離滅裂になります。

[ナンセンス]

第11章/タルトを盗んだのは誰?

ハートの王様と女王様による裁判が始まります。裁判官は王様と女王様で陪審員はいろんな生き物たち。茶番の証人喚問が行われます。

[制度の形骸化]

第12章/アリスの証言

なぜかアリスが証言台に立たせられます。そしてアリスは巨大化していました。王様は都合の良い法律をでっち上げ、アリスに退廷を迫ります。アリスは従わず、王様は全く意味のない詩を証拠として採用します。女王様は陪審員の評決の前に刑の執行を促します。

身体が大きくなったのは、実は自己を確立したアリスの意識の姿です。トランプたちは、アリスに「ただのトランプのくせに!」と現実を突きつけられ、アリスに襲いかかります。アリスは夢から覚め元の世界に戻ります。

[権威の失墜]

トランプたちがアリスに飛び掛かるシーン。アーサー・ラッカムの挿絵(1907年)、 Public domain, via Wikimedia Commons
トランプたちがアリスに飛び掛かるシーン。アーサー・ラッカムの挿絵(1907年)、 Public domain, via Wikimedia Commons

第8章から第12章は、外界との関わりが述べられます。アリスは社会性を確立し自立した人間になります。

それには「実在」と「現実」が大きく関わってきます。「実在」と「現実」は同じものではありませんが、相反するものでもありません。「実在」を認識すると「現実」になります。ただし、認識の仕方は多様ですので、「現実」も多様になります。

逆に言えば、認識というフィルターが介在するので、「実在」そのものを知ることは出来ないのです。これはプラトンの言う『イデアの世界』にも量子力学の理論にも通じることわりです。

第12章の終わりに、アリスの冒険譚を聞いたお姉さんもその場で夢を見始めると、アリスの言っていたワンダーランドの世界をまざまざと感じることができるのでした。

「白ウサギが急いで通り過ぎると、彼女の足元で長い草がカサカサ音を立てました。おびえたネズミは隣の池を飛び跳ねました。三月ウサギとその友達が終わりのないお茶会をしているとき、ティーカップのカタカタ音が聞こえました。」

「客人を処刑するよう命じる女王の声、豚の赤ちゃんが公爵夫人の膝の上でくしゃみをし、食器が周りでぶつかり合います。グリフォンの金切り声、トカゲの石版鉛筆のきしむ音、押さえつけられたモルモットが窒息し、遠くで悲惨なウミガメモドキのすすり泣きが…」

でも目を開けるとそこには、普段の現実があることが分かっていました。

「草はただ風にそよぎ、水たまりは葦の波打つ音に変わり、カタカタと鳴るティーカップは羊の鈴の音に変わり、女王様のかん高い叫び声は羊飼いの少年の声に変わり、赤ちゃんのくしゃみ、グリフォンの悲鳴、その他すべての奇妙な音が普段聞こえる音になるのです…」

そうです、アリスの見てきたワンダーランドはアリスの現実でした。ただ、実在は常にそこにあるのです。これは「現実」と「実在」の関係性をわかりやすく例えているともいえるでしょう。

お姉さんは大人になったアリスのことを想像し、こう思うのです、「子どもたちを集めお話をして聞かせ、その時きっと、自分自身の子ども時代を、そして幸せな夏の日々を思い出すことでしょう。」

『子供部屋のアリス』原書の表紙画 (1890年初版)、E. Gertrude Thomson, Public domain, via Wikimedia Commons
『子供部屋のアリス』原書の表紙画 (1890年初版)、E. Gertrude Thomson, Public domain, via Wikimedia Commons

この物語は1865年に出版されました。イギリスの数学者チャールズ・ルトウィッジ・ドジソンがルイス・キャロルというペンネームで書いたもので、友人の娘、アリス・プレザンス・リデルをモデルにしたものです。

執筆されたとき、アリス・リデルは10歳になっていましたが、物語上のアリスは7歳です。続編のアリスが女王になる物語の『鏡の国のアリス』が完成したときアリス・リデルは、18歳になっていましたが、物語の中でのアリスは、7歳半のままです。

「Alice」と言う名前は、古フランス語の「Adelais」、古ドイツ語の「Adalheidis」から来ており、「気高い、高潔な」という意味を持ちます。「アリス」は永遠の美少女のポップアイコンなのです。

区切り

再び本庄です。

話題になっていた実在と現実について補足します。

辞書(デジタル大辞泉第二版)には、このように書かれています。

【実在】:(哲学で)

① 意識から独立に客観的に存在するもの。

② 生滅変転する現象の背後にあるとされる常住不変の実態。本体。

【現実】:いま目の前に事実として表れている事柄や状態

何となく分かったような気がしますが、この2つは哲学上の大問題です。実在などというものは存在しないという説もあります。

また、神秘体験によって「認識するもの」と「認識されるもの」が統一され、人は実在を認識することができるという説もあります。

哲学に興味のある読者の方、バラ十字会の通信講座を学んでいる方は、ぜひ考えて見てください。この場合認識されるものは、先ほどの辞書の①なのでしょうか、②なのでしょうか。

下記は森さんの前回の文章です。

では、今日はこのあたりで。 また、お付き合いください。

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