資料室 タロットカードと古代エジプトの神秘学

タロットカードと古代エジプトの神秘学

TAROT AND THE EGYPTIAN MYSTERIES

アール・ド・モット
BY EARLE DE MOTTE

タロットカードと古代エジプトの神秘学にはつながりがあるか
Is there a link from the Tarot to the Egyptian Mysteries?

タロットカードに描かれている絵や、その絵が伝えている意味と、古代エジプト神秘学の知恵の間には、何かしら繋がりがあるという強い確信を抱く人が、神秘学者の中には数多くいます。また、タロットはエジプトで生まれ、ジプシーの手でヨーロッパに広まっていったという主張もあります。さらに、タロットカードは、深遠な知識の記録であり、『トートの書』(Book of Thoth)、すなわち古代エジプトの神「ジェフウティ」(Djehuti:ギリシャ名がトート。)のものとされる英知の一部が、現代まで伝えられたものであり、カードの絵柄には、このような秘伝の知識が象徴的に織り込まれていると言われることもあります。この記事では、タロットカードに関するこうした意見の根拠について調べることにします。

ファラオ・プトレマイオス12 世に浄めの酒をかけるトート神(左)とホルス神。
コム・オンボにあるハロエリス神とソベック神の神殿の壁画から。

タロットカードが古代エジプトのカードゲームの一種であったことを示す証拠はどこにもありません。また、知識や知恵を得るための手段であったことを示す証拠もありません。歴史上の証拠としては、14世紀に北イタリアで初めて登場し、そこからヨーロッパ各地に広まって行ったという記録が残っています。ルネッサンス期の人文主義の運動(humanism:教会の考え方に縛られずに古代ギリシャ・ローマの文化を研究することで人間の尊厳を確立しようとする運動)が全盛期を迎えていた1419年に、一冊の写本を、あるフィレンツェ人が多数の人に紹介しました。この本に触発され、その図柄を参考にして、最初のタロットカードが生まれたとされています。この写本は、アレクサンドリア出身のホラポロ(Horapollo)という人が、西暦が始まった直後に書いたものだとされています。『ヒエログリュピカ』(Hieroglyphica)という題のこの書物は、古代エジプト人の聖なる書物を翻訳したものであり、古代エジプトの神秘を解き明かす書物であると、それ自体に書かれていました。しかし、ホラポロは、一体どのようにしてヒエログリフで書かれた秘密を解読したのでしょうか。このこと自体が大きな謎です。2世紀以上にわたるエジプト学の研究と古代エジプトの文献検証によって、現代の私たちが古代エジプトについて得た知識の基礎が作られたのであり、ホラポロはそのような知識を手に入れることができなかったのですから。ホラポロのこの写本は、後に贋作であることが判明しましたが、ルネッサンス思想に多大な影響を与え、古代文化の秘密を探究しようとする機運が高まりました。おそらくこのことから、タロットカードの起源が古代エジプトにあるという説が広がっていったのでしょう。

ナイル川沿いの谷に栄えた古代文明への関心は、18~19世紀にヨーロッパで再燃しました。この古代文明は、世界と人類についての多くの秘密に対する答を保持していると考えられたのです。神秘的な象形文字は「ヒエログリフ」(ホラポロによる造語)と呼ばれました。そして、エジプト各地の聖地とヒエログリフには、知られていない事実が極めて多数残されているという見解が、多くの人に受け入れられていました。ホラポロの写本に次いで大きな影響を与えたのは、アントワーヌ・クール・ド・ジェブラン(Antoine Court de Gebelin:1783年ごろ逝去)の著作です。この本は、エジプトとタロットカードに関連があるという意見を多くの人に広めようとした最初の試みでした。この説は、ジャン・バプティスト・アリエット(Jean-Baptiste Alliette、1791年没)とジャン・バプティスト・ピトワ(Jean-Baptiste Pitois)によって、さらに念入りに仕上げられました。アリエットはエッティラ(Etteilla:エッティラは、アリエットを逆から綴ったもの)版タロットを編み出しました。ピトワは、ポール・クリスチャンという筆名で1870年に後述する本を出版しています。最高の知恵はすべてエジプトからもたらされたものであり、それゆえに当然ながら、古代エジプトこそが西洋神秘学の伝統の源であると、タロットカードのエジプト起源推進派は、19世紀の間ずっと信じていました。そして、神秘学の伝統がタロットカードという形を取ったのであり、タロットカードの中には、この伝統が暗号化されて込められているということも信じて疑いませんでした。

ド・ジェブランによれば、タロットカードとは、伝説の『トートの書』の内容の断片が伝えられたものでした。この推測の根拠は、ルネッサンスの別の潮流であるヘルメス思想の研究を通して得た情報でした。一方アリエットによれば、タロットカードとは、古代エジプト人が知っていた、創世や人類の歴史に関する、隠された真実が込められているものでした。そして、タロットカードとエジプトの関連を主張するグループの第3の人物であるポール・クリスチャンは、タロットカードの全体がエジプトのヒエログリフに対応していると述べました。ポール・クリスチャンは、「大アルカナ」、「小アルカナ」という用語を初めて用いた人物です。しかし、この「大アルカナ」、「小アルカナ」という用語は、今日一般的に使われている意味とは異なっています。この仮説は世間に広まり、数種類のタロットカードが生まれました。すべてのカードを新しくしたものもあれば、一部を新しくしたものもありましたが、いずれにせよそれは、タロットというものを「エジプト風」にしようというとする試みでした。

仮説の欠陥

Flaws in the Hypothesis

カード全体にさっと目を通しただけでも、即座に明らかにすることができるのは、タロットとはそもそも、念入りに考案された『知恵の書』であるということです。数種類の秘伝的な伝承の核心部分と類似点が凝縮して表されているということも、カードの図柄に、中世とルネッサンス期の文化と芸術が反映されていることも明らかです。ロバート・オニールとチャールズ・クリフトンと他の人々は、カードが古代エジプトと関連しているという仮説に見られる、明らかな欠陥を指摘しています。古代エジプトで象徴として用いられたニワトリやフクロウ、ヘビ、トキといった動物の絵柄も、古代エジプトの文献や絵画に登場する、動物の頭部を持つ多数の神々も、ルネッサンス期のタロットカードには描かれていないということをオニールは指摘しています。さらに、古代エジプトの宗教や神秘学にまつわる神話的な背景、つまり、オシリスやラーの逸話や、ホルスとセトの争いといった話を通して表される世界の創造についての言い伝えや原理などが、タロットカードには表れていないということも、タロットカードと古代エジプトには関連がないということを示す、もうひとつの著しい証拠です。世界の創世から統治に至るまでを生き生きと描きだしているマートやトートという重要な神々すら、タロットカードにはまったく登場しません

神秘的な象形文字は「ヒエログリフ」(ホラポロによる造語)と呼ばれる。 そして、エジプト各地の聖地とヒエログリフには、知られていない事実が極めて多数残されているという見解が、多くの人に受け入れられていた。

その一方でタロットカードには、カバラや聖書、古代ギリシャやローマやイスラムの芸術や文学、中世とルネッサンス期のそれぞれの文化の印象的な象徴が、凱旋パレードのように盛り込まれていることは明白であり疑いようもありません。同時に、錬金術や占星術、グノーシス主義やヘルメス思想の思考過程もありありと描かれています。このように考えると、タロットカードの絵柄を最初にデザインした人々は、秘伝的な伝承において、当時知られていた森羅万象についての知恵を、古代エジプトとの関連を強調することなく、カードの中に凝縮して示そうとしたのだと思われます。

ジプシーたちがインドからエジプトを経由してヨーロッパにタロットカードを持ち込んだとする説があります。また、モロッコのフェズ(Fez)で会合を開いていた神秘学派に属する人々が、学派内部の知識を、どこにでもあるカードゲームという"世俗的な"伝達手段に託して、そのゲームを行なう多くの人によって永遠に伝えられるようにしたのがタロットカードの起源であるとする説もあります。しかし、いずれも仮説の域を出るものではありません。その根拠は、真相である可能性もある直観から素直に推測したものだとしても、証拠のある事実に支えられたものとは言い難いようです。

自己実現の旅

The Journey of Self-Realisation

そのような事情を踏まえながら、タロットカード全体とその一枚一枚のカードに込められた象徴的な意味や、根底に横たわる哲学に目を向けることにしましょう。そして、自然界と人間の性質と自然界と人間の関わり合いに働く普遍的な力を、マンダラのように、調和と秩序のある完全な体系として表していることにも目を向けましょう。しかしその際には、もしも古代エジプトとこのカードに何かしら繋がりがあるならば、それを見つけ出すという具体的な目的をもって行なうことにしましょう。

タロットカードに精通した人の頭に真っ先に思い浮かぶ答えは、タロットカードとは、「自己実現の旅」のための地図であるという見方です。またタロットカードは、質問を行い、難題を与えられ、それに応答するという過程を含む「入門儀式」でもあると見なされます。この過程を経ることで、タロットカードから質問の答えを得ることに成功すると、質問を行なった人の内面では、例外なく意識の変化が起こります。またそれは、自身についての理解を徐々に改善する過程だと言うこともできるでしょう。折々に、あるいは定期的に、自己認識の状態をタロットカードによって調べることは、人生の質を高めるための促しとして作用します。人間の成長には、最終目的地や望ましいレベルといったものがあるのかもしれませんが、タロットカードを使うときに重視されるのは、質問をした人が正しい方向に進めるように舵取りをし、その進路に心を配ることにあります。

タロットカードの絵柄には、カバラや聖書、古代ギリシャやローマおよびイスラムの芸術や文学を取り入れたばかりか、中世とルネッサンス期の象徴も使われている。

自己実現と自己理解という目的が、古代エジプトの入門儀式にもあるということは容易に見て取ることができます。この儀式では、ドゥワート(Duat)と呼ばれる冥界をめぐる死後の旅という比喩を用いて、入門者に対して、人生とはどのような性質のものであるかを教えていました。この儀式に加えて、適切な指導がなされ、その指導を活用することで、入門者は、高い意識のレベルと、自己と人生の理解に達することができます。古代エジプトの『死者の書』や、エジプト新王朝時代に書かれた冥界についての他の書物は、太陽神「ラー」(Ra)が夜の間に通り抜ける12の部屋で死者が体験するエピソードについて詳細に述べています。これらのエピソードと同じように、タロットカードの図版は多くの人々の間に広がり、瞑想や祈祷のときに用いられる曼荼羅(mandala:調和と秩序のある宇宙を表す、神像などが配置された幾何学図形)、すなわち象徴的図案として扱われるようになったのでしょう。タロットカードや、関連するパピルス文書の図柄を注意深く観察して、それについて瞑想することで、自己の精神の深奥と全宇宙との関わりについて探究することができ、そこから得られた洞察を、高次の意識や自己実現へと向かうための手段や経路として使うことができます。

古代エジプトの入門儀式

Egyptian Initiation

古代エジプトの『死者の書』によって伝えられている、心臓を計量し死者に審判をくだす光景。

西暦が始まった直後に、すでに存在していたと思われるある写本には、タロットカードと古代エジプトの入門儀式の伝統との間にある著しい一致が良く表れています。この写本の題名は『エジプトの入門儀式』であり、新プラトン主義の哲学者であり古代エジプトの神秘学派に属していたイアンブリコスが書いたとされています。1870年には、ジャーナリストで神秘学の研究者でもあったポール・クリスチャンの手によってフランス語に翻訳されました。ちなみに、彼は政府の公文書保管室に勤務していたため、多くの保管文書に触れる機会があったのです。しかし、いわゆるイアンブリコス写本と呼ばれているこの文書は、現在ではその足跡を追うことが不可能であると言わざるを得ません。イアンブリコスとポール・クリスチャンをつなぐ、この写本の実物がまだ見つかっていないのです。

それはそれとして、その写本に述べられているのは、「神秘の神殿」で執り行われる入門儀式を受ける、ある志願者の様子です。入門を望んでいるこの志願者は、ギザの大スフィンクスの足元へと連れて行かれ、両足の間に設けられた扉を通って地下の部屋へと入ります。そして、入門儀式がこの部屋から始まります。神秘学派への入門を認められることを熱望しているこの志願者は、立て続けに行われる恐ろしい試験を通過し、ランプひとつを頼りに、曲がりくねった長い通路を無事に通り過ぎ、一枚の木製の扉にたどり着きます。扉が開くとその先には、奥行きのある幅の狭い展示室があります。その展示室の壁は、22枚のフレスコ画によって覆われています。そのフレスコ画には、ジプシー・タロットの大アルカナが描かれています。"神聖な象徴を守護する役"を担っている神秘学派のメンバーが、扉の所で志願者たちを挨拶で迎え、次に、壁のフレスコ画に描かれている象徴の形而上的な意味について解説を始めます。これらのフレスコ画に描かれているのは、全宇宙を支配し、全宇宙の創造を説明する根本原理でした

入門を志願している人は、ギザの大スフィンクスの前足の間にある扉のところに連れて行かれ、そこから直接地下の部屋へと入った。
そして、入門儀式がこの部屋から始まった。

ポール・クリスチャンは、さらに詳細について述べ、タロットカードの図柄とフレスコ画が個々に対応することを示し、タロットカードとは、オシリス神話によって伝えられている万物創造の手順にまつわる根本原理が記号化されたものであるという結論を出します。タロットカードの研究者の中には、大アルカナ(major arcana:78枚のタロットカードのうちの切札にあたる、特に象徴的な図柄が書かれた22枚)のうち1から11番目のカードは、物質界の創造を司る諸原理を表し、12から22番目のカードは、人間の進化と内面の成長に関する様々な要素を表していると説明する人がいます。こうした人たちは、クリスチャンの説明を踏襲しているということもあり得ますし、彼らが抱いている確信の根拠は、多くの創造神話に見られる類似性であるということも考えられます。

また、フレスコ画とタロットカードに描かれている様々な場面は、紀元前22世紀ごろのミイラを収めた棺に書かれている「葬礼文書」中の、ある儀式の様子に類似しています。それは、ある使者がドゥワート(冥界)に降りて、オシリスの復活の秘儀を伝授されるという場面です。死者に対する一連の指示である11対(すなわち22枚)のフレスコ画と、22枚のタロットカードという数字の一致には、タロットカードとエジプトの関連に対して懐疑的な人々であっても、大いに興味をそそられることでしょう。

暫定的な結論

Tentative Conclusions

古代エジプトとタロットカードに関連があるという仮説に対して、次のような暫定的な結論に達することができました。

古代エジプトの神秘学派の英知がタロットカードの起源であると断言するに足る十分な証拠を、私たちはまだ得ていない。

タロットカードからでも、古代エジプトのパピルスや遺跡の壁面に描かれた絵画や文章からでも、適切なトレーニング、すなわち神秘学派に入門して学習を行なった人は、世界の神秘と人間の神秘、そして、この2つがどのように関わりあっているのかを読み解くことができる。さらに、私たちと宇宙の力や働きとの関係についての知識を明らかにすることもできる。どちらから読み解く場合であっても、その究極の目的は、こうした知識を自分の人生にうまく活用することで、単なる知識に留めず、知恵に変えることにある

いずれの場合においても主眼となるテーマは、闇から光への「魂の旅」である。その道筋で、冥界の旅人、または命ある人間、もしくは、タロットカードによって質問の答えを得ようとする者は、自身を変容させることになる次々に展開する出来事を体験していく。旅人や探究者には様々な試練によって試される。エジプトのドゥワート(冥界)においてであれ、カードによって答えを得ようとする人の無意識の世界においてであれ、恐ろしい出会いであっても、喜ばしい出会いであっても、その出会いに、旅人や探究者は上手に対処することが期待されている。そして、そのような過程が進んでいく際には、様々な仲介役の力を借りる。その仲介役とは、冥界の案内役であり、タロットカードの場合は、カードの意味を解釈する専門家である。

「太陽」や「月」や「星」といった天体を描いたカードもあり、これらは、「塔」のカードに描かれている稲妻の図案と同じように、光へと向かう段階、すなわち啓示の過程を表し、「死に神」とそれに付随するカードとは対照的である。

深層心理学の用語を借りれば、タロットカードと入門儀式はどちらも、無意識への個人個人の旅であると解釈することができる。この旅によって、個人の意識と集合的意識のいずれにも新しい情報がもたらされ、また、個人の自我と人類全体の集合的無意識の間に和解がもたらされる。分裂した心の断片同士が統合される結果として、バランスと調和が得られるが、カール・ユングはそれを「個性化の過程」と名付けた。また、アブラハム・マズローは「自己実現の欲求を超越した状態」(自己超越)と呼び、トランスパーソナル心理学の世界では「エゴの限界を超越した精神的統合」と呼ぶなど、様々な表現がされてきた。バラ十字会では「深遠な平和」(Peace Profound)と呼んでおり、また、様々な神秘哲学の学派では「変容」とか「再生」などと呼ばれている。

古代エジプトの葬礼文書や、遺跡の壁面に記されている文章に描かれている冥界の旅のテーマや、そこで起こる出来事については、タロットカードからも手がかりを得ることができる。しかし、タロットカードには、古代エジプトの図柄と同じ絵が使われているわけではない。古代エジプトの絵画とタロットカードはいずれも、宇宙で作用している様々な力の正体を特定し、その性質を明らかにしていると思われるが、初期のタロットカードの制作者は、エジプト由来の図柄を、多少は取り入れたとしても控えめに用いて、より多くの図案を他の様々な文化や思想から取り入れた。しかし、タロットカードの内容のもとになった様々な伝統思想に示されているような、人類全体に共通する「元型としての象徴」が存在することを理解し、また、エジプトの神々(neteru:ネチェル)の大部分が、こうした元型の持つ力を、独自のやり方で表していたということを理解すると、古代エジプトの神秘学派の入門儀式の過程とタロットカードの内容の間にある類似性を発見することは、より容易になる。

古代エジプトの神秘学派の場合は、神殿の区域内にあらかじめ用意された部屋とそこにある調度品に囲まれて自己探究が行なわれた。そしてこのような環境に置かれた志望者は、世俗の生活から離れた修行者としての生活において、通常とは異なる実在の側面を目の当たりにした。入門儀式は最高位の祭司たちが企画し、それを入門者が体験し、その結果、啓示を得られたり、変容がなし遂げられる。一方、タロットカードの解釈を、「自己探求」や自身の変容に役立てようとする場合、そのことは、問いかけを行い、示唆に富むイメージから情報を引き出し、自身の直観を通してその情報を解釈するか、必要とあれば鑑定者(タロットカードの意味を解釈する人)の助けを借りながら、その情報を解釈することでなされる。入門儀式とタロットは、進め方こそ異なるが、いずれの場合でも、象徴や比喩の背後に秘められている意味と究極の真実を見つけ出し、自己検討の道筋を見いださなくてはならない。

私の見解では、死後の世界を描いたエジプトの文章は、決して予言することを意図しているのではなく、現在と今後の人生をどの様に生きるかを道案内することを意図している。古代エジプト人にとって未来とは、様々な手段によって、すでに知られているものや、すでに語られているものであった。そして、正しく生き、宇宙から命じられている役割を受け入れ、魔術を実践することによって、未来を具体化するという選択が、人には与えられているとされた。タロットカードは、個々のカードや、カードの組み合わせが瞑想の題材になるという価値は別にしても、また、知恵の書として情報を与えてくれるという側面を除いても、「未来を占う」道具として、現在は絶大な人気を博している。

類似点を探して

Looking for Affinities

結論として述べますが、古代エジプトの神秘学とタロットカードの間には、神秘学的にも神話学的にも、また心理学的にも、何点もの類似点が見られます。古代エジプトの神秘学とタロットカードはともに、宇宙の力と原理と働きを扱っています。「太陽」や「月」や「星」といった天体を描いたカードもあり、これらは、「塔」のカードに描かれている稲妻の図案と同じように、光へと向かう段階、すなわち啓示の過程を表し、「死に神」とそれに付随するカードとは対照的です。カードが語っている中心的なテーマは、闇から光へと向かう「愚者」の旅ですが、質問を行なっている人の感情や意識の状態の、ある時点での性質も表します。

一対の柱や、軛(yoke:牛馬などを首の所で連結する弓なりの器具)で繋がれた2頭立ての馬、光と闇、太陽と月といったような、この世に存在する「二元性」(dualism:正反対の2つの性質があること)を表すカードもあります。また、神秘学で扱われるような、循環的な性質の変化を示す様々なシンボルもあります。この循環は、占ってほしい人が、折に触れてタロットカードの知恵を求めに戻ってくることも表しています。宇宙に充満する力や、心の内部に宿っている力は、「節制」、「剛毅」、「愚者」、「悪魔」のカードに表されています。これらのカードと厳密に対応しているわけではありませんが、古代エジプトの文献は、人間と世界に影響力を及ぼす神々であふれています。古代エジプトのマート神によって表される道徳的な意志と、オシリス神によって表される判断のための知力は、「審判」のカードに対応しています。意志と知力が一体となって人生の困難に対処することは、古代エジプト社会の若きエリートたちに教えられる戒めにも、神秘学派に入門する許可を求める志願者が行なう心の準備にも見られます。

ロバート・オニールはさらに、「教皇」(Hierophant:最高司祭)のカードが、「ドゥワート」(Duat:冥界)の玉座に座るオシリス神の姿に似ていることを指摘し、「星」のカードの光景が、フィラエ島(Philae:ナイル川上流の島、現在はアスワンハイダムによって作られたナセル湖に水没している。)の神殿に描かれていたナイルの女神に似ていることを指摘しています。この女神は、甕から大地に水を注いでいます。また、タロットの一流の権威者であるレイチェル・ポラックは、ド・ジェブランの研究を事実というよりは空想であると一蹴しながらも、エジプト人の考える至高の神とは、二体の男神と一体の女神との三位一体であり、このことがタロットカードの「女帝」、「皇帝」、「教皇」の3枚のカードによって的確に表されているということに人々の注意を促しています。彼女はまた、「運命の輪」というカードが、死と再生というテーマの別名であると指摘しています。そして、車輪の縁に描かれている様々な動物の絵は、オシリス神話に登場する様々なキャラクターを思い起こさせると指摘しています。しかし、こうしたオシリス神話偏重の見方は、1748年版の「マルセイユ版タロット」以前の版については考慮しないという条件付きでなければ、支持することはできません。

『扉の書』

The Book of Doors

カードと古代エジプトとの関連に熱中しているタロット研究者は、A・ベジーとA・ダビッドソンが共作した『扉の書』という占い用のタロットカードのことを興味深く思うことでしょう。このタロットカードのモチーフは、古代エジプトに統一されています。オグドアド(Ogdoad:ヘルモポリスで崇拝されていた8体の神々)が8通りに表された64枚と、象徴としての意味は異なっていますが、愚者に相当する「ネター=ネチェル」(Neter-Neteru:古代エジプトの男性でも女性でもある神)というカードを加えた計65枚で構成されています。

(訳注:ネターは不可知である唯一神を表し、ネチェルとは、この神の、知ることのできる影響力を表すという説もあります。)

ベジーとダビッドソンの共作による『扉の書』のタロットカード

8組に分かれた各グループが、それぞれ、神々の集団や、全宇宙と人間に内在する力と能力を表します。そして、各カードが表しているのは、エジプトの神々の純粋な元型と、創造神話において神々が象徴するエネルギーです。二人の制作者の言葉によれば、このような革新的なカードの創作という一大企画が正当化されるのは、次のような考えからです。つまり、現在のタロットカードは不完全であり、魂がドゥワート(冥界)を旅する全行程が古代エジプトの『死者の書』にはっきりと描かれているにもかかわらず、そのほとんどすべてがタロットカードから失われてしまったために、異端の取り調べという迫害を生き延びたものは、ほんの一部だという考えです。「最後の審判」は、そのような生き残りのひとつなのです。そして、現在、元々のタロットカードは、形の面でも、数字や絵柄の面でもすっかり様変わりしてしまったので、現代的な装いを得た古代エジプトの魔術であるこのタロットカードについて探究することには、極めて大きな価値があると考えられると、二人の制作者は最後に述べています。このタロットカードを、従来のタロットカードの新たな焼き直しであると考えてしまわないように注意する必要があります。このカードに描かれている古代エジプトの象徴画は、全体として、占いという用途を重視して作られていますが、「瞑想」をしたり、祈祷を行ったりするための道具としての価値も損なわれてはいません。

 ※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラ十字」(No.131)の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。

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