以下の記事は、バラ十字会日本本部の季刊雑誌『バラのこころ』の記事を、インターネット上に再掲載したものです。

※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。

区切り

スカラベという象徴
Scarab Beetles

シャーリー・エルスビー
By Shirley Elsby

ツタンカーメンの即位名ネブケペルウラー(Nebkheperure)のヒエログリフ表記であるエジプトのスカラベの護符(胸飾り)
ツタンカーメンの即位名ネブケペルウラー(Nebkheperure)のヒエログリフ表記であるエジプトのスカラベの護符(胸飾り)

スカラベ(ヒジリタマオシコガネ)(脚注1)は、球形に丸めた糞を、地面を転がして運ぶ習性で有名ですが、その糞の重さは時には自分の体重の何倍にも及ぶことがあります。この世界でのあなたの経験が、どれほどがんじがらめで、退屈で意味がないものに思えるとしても、成虫になってから死を迎えるまで毎日毎日繰り返される、スカラベの過酷な作業ほどひどいものではないことでしょう。しかし、一心不乱に働くこの昆虫は、歴史上初めての甲虫マニアを生み出しました。最高権力者のファラオさえもが、この虫に、絶賛に値する性質があることをまさに認めていました

古代エジプトの職人は、スカラベの形を、鋳造、彫刻、絵画、刺繍、浮き彫りなどに用いて、幸運のお守り、宝飾品、文書を封印する印章、衣類、室内の装飾品、葬儀用品などの数多くの品物を作りました。スカラベの形に精巧に加工された、極めて高価な貴石や貴金属が多数残されています。宝石などで美しく装飾されたものや、複雑な彫刻が施され、さまざまな言葉が刻み込まれることもたびたびありました。刻み込まれている言葉には「誕生日おめでとう」、「戦いの勝利、お見事」というような、身近な意味の文言もありますが、大半は偉大な太陽神ラーに呼びかける呪文や祈りの言葉です。

スカラベの像は、愛情、敬意、称賛を込めて、そして多くの場合希望をも込めて、エジプトの地の極めて高貴で神聖な場所に設置されました。また、ミイラをくるんでいる布のひだの間に、書きつけられた呪文とともにスカラベの像が隠され、亡くなった人が、冥界の恐ろしい番人たちから何とか逃れて、星々の間で永遠の生命を得られるようにという願いが込められました。大英博物館のリーフレットには、古代エジプトでスカラベがお守りとして特に重要であったことが次のように記されています。「スカラベは古王国時代(紀元前2613~2160年頃)に初めて見られるようになった。それは多くの場合、指輪に取り付けられた印章として使用され、平らな裏面には署名が刻まれた。中王国時代以降に、スカラベの用途は葬儀の場にも広がり、スカラベの形をした石の護符『ハート・スカラベ』が、ミイラの胸の上に置かれるようになった。ハート・スカラベの裏面にも文字が刻まれた。それは『死者の書』の第30章にある、死後の審判の際に心臓が死者に不利な発言をすることを防ぐ呪文であった」。

ではなぜ、みすぼらしいスカラベが、最高級の虫だと見なされるようになったのでしょうか。そして、この小さな生きものから私たちは何を学べば、この世界における自分自身の役割に活かすことができるのでしょうか

ファラオがスカラベを神聖な虫としたのは、希少な生きものだったからでは決してありません。コガネムシ科のスカラベが属する亜科の仲間は約5,000種にも及び、その多くが糞、すなわち動物の排泄物だけを餌にしています。多種多様なコガネムシ科の中で正真正銘の糞虫は、数種類に分類されます。糞を球形に丸めて食糧と繁殖のための部屋の両方に利用する「フンコロガシ式」、見つけた場所に糞を埋める「トンネル式」、糞を丸めることも埋めることもせず、単に糞の中に住む「居住式」です。(脚注1)

古代エジプトの人々が好んだヒジリタマオシコガネ(Scarabaeus Sacer)は、球形に丸めた糞を巣穴まで転がし、雌がそこに卵を産み付けます。スカラベの幼虫は、孵化すると究極の保存食品である糞の玉から最初の食事を得て、準備が整うと、次世代のためにせっせと働き始めます。エジプト神話についてのある解説(脚注2)には、次のような記載があります。「古代エジプトの人々には、地面の穴からスカラベの幼虫が自然に生じてくるように思えた。そのため、『現れた』を意味するケペラ(Khepera:昇る朝日の神)としてスカラベを崇拝した。また、ひとりでに出現する(と思われた)スカラベの創造的な性質は、創造神アトゥム(Atum)と結び付けられた」。

甲虫スカラベ
甲虫スカラベ

スカラベの頭部にある光線に似た触角と丸い糞を転がす習性から、スカラベは太陽の象徴としても扱われるようになりました。スカラベで象徴されるケペラ神は、スカラベが糞の玉を転がすのと同じように、沈んでいく太陽を空に沿って押しているのだと信じられていました。多くの工芸品でスカラベは、天の道筋に沿って太陽を押しているように描かれています。

天空を通過する太陽の動きをスカラベが模倣しているという話題を続けましょう。ケペラ神は、太陽神ラーの早朝の姿です。ラー神は、それ以前に存在していた、ラー神より高位の男神と女神が結びついて生まれた神ではなく、自らを創造した神でした。この自己創造の行為が、最初は糞虫によって表され、エジプトの歴史の後の時代には、スカラベの頭を持つ神として表されるようになりました。スカラベは、自分の体の前に太陽の円盤のような形の糞を「転がし」て、夜明けに現れます。その後まもなくして、あらゆる危険に満ちた冥界を12時間かけて旅してきた太陽神が、昼の世界に再生します。太陽が東の地平線から姿を現すとき、若さ、誕生、新鮮さ、前進、創造性、物事をなし遂げる技術など、日の出から私たちが連想するあらゆる性質がもたらされるとされました。アンティークの宝石を扱うあるウェブサイト(脚注3)には、次のように記されています。

「スカラベは再生と復活を表す象徴的なモチーフであり、身につける人に保護、幸運、生命力をもたらすと考えられていた。戦いを前にした兵士に、また子宝を得る目的で女性にスカラベが贈られた。また、エジプトの王家の墓にも、副葬品として収められた。スカラベの形の記念遺物をいくつも残していることで有名なエジプト王のひとりに、アメンホテプ3世がいる。」

ツタンカーメンの即位名ネブケペルウラー(Nebkhepアメンホテプ3世が建立したカルナック神殿のスカラベの像
ツタンカーメンの即位名ネブケペルウラー(Nebkhepアメンホテプ3世が建立したカルナック神殿のスカラベの像(写真:AMORC 主催のツアーにて)

デビッド・ローソンの著作『ホルスの眼、古代エジプトの神託』(脚注4)では、次のように述べられています。「どんなに単純でつつましい仕事であっても、それを受け入れるならば、崇高なレベルに自分を引き上げることができる。自分自身を、汚れた土の上で糞の山を永遠に転がし続ける糞虫と見なすのか、それとも、栄光と献身と精神的な目的とともに、天空を横断する旅を続けるケペラ神と見なすのかを、あなたは選ぶことができる」。

そこで、私たちが自分の人生を歩んでいく上で、熟考に値する観点を紹介します。私たちの中には、「いつでもいつでも同じお馴染み」の道を歩いていて、ときおり、行き詰まりを感じたり、新鮮さがなく無意味だと感じたりする人もいることでしょう。しかし、自分がどのように感じていたとしても、私たちはいつでも、これまでの旅を振り返ることができ、人生という旅についての考え方を調整することができます。あらゆる瞬間が、人生を高潔なものにする機会になります。ある一つの方法で取り組むことも、別の方法で取り組むこともできます。敗北主義という悲観的な気分で取り組んだとしても、楽観主義と目的という前向きな輝きとともに取り組んだとしても、いつでも行動の結果から、人生の教訓を得ることができます。多様で鮮やかな色彩と均整のとれた体を持つスカラベには、何か本質的に美しいものがあり、一定の構造の中にも無限の多様性があるように見えます。同様に、人間の造形にも何か本質的に美しいものがあります。すべての人が個性的で唯一無二であり、芸術家なら、しわがあっても、曲がっていても、どんな欠点があっても、その美しさをとらえることができます。洞察力がある人は、ある人の表面的な美しさではなく、顔や身体にかすかに刻まれている、人生という旅の痕跡を高く評価することでしょう。私たち一人一人には、他の人にはまねすることができない、他の人とは異なる目的があり、それを見つけて追い求めます。スカラベは糞の玉を転がすことを決して止めません。牛がモーと鳴き、クモが巣を張るのと同じように、転がすことが生きものとしての本能だからです。

大型で神聖だとされる糞虫ヒジリタマオシコガネ
エジプトには数種類の糞虫が見られるが、古代エジプトの美術品に最も多く表されているのは、大型で神聖だとされる糞虫、ヒジリタマオシコガネである

人がその存在理由を全うするために働いているならば、その仕事が実際にはどんなに厳しいものであろうと、スカラベが毎日押して、押して、押し続けるのと同じくらい、たやすいことです。抵抗は、行っていることが、まったく正しいわけではないことを示すサインです。そうならないための秘訣は、完全にひたむきに取り組めると感じる仕事を見つけることです。そうすれば、注意を奪ったり、その仕事に必要なエネルギーの一部を奪ったりするような影響が働くことはありません。そうすれば、自分をあれもこれもと振り分ける必要もなく、一方に引っ張られたり、他方に押し付けられたりすることもありません。自分の本来の存在理由に沿って働く人は、集中することができ、流れに乗って前へ進みます。栄光を極めた昆虫であるスカラベが常にそうしているように、自分の行うべきことを行わずにはいられないのです

脚注
1.https://en.wikipedia.org/wiki/Dung_beetle
2.http://www.egyptianmyths.net/scarab.htm
3.http://www.charmchatter.com/egyptian-scarab-beetle-jewelry
4.The Eye of Horus, An Oracle of Ancient Egypt by david Lawson, Piatkus, London, 1996.

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