ハルモニア(harmonia)とは
今回の話題は調和(harmony:ハーモニー)です。ハーモニーの語源はギリシャ語の「調和」を意味するハルモニア(harmonia)という語ですが、この語は同時にギリシャ神話の女神も意味しています。
女神ハルモニアと英雄カドモス
ハルモニアは、大神ゼウスの命令で人間の英雄カドモスと結婚した女神です。カドモスはギリシャの都市国家テーバイの建国者ですが、建国に際して戦いの神アレスに捧げられた大蛇を殺してしまったことが原因で、子や孫たちが呪いを受けます。
国と子孫の災いを取り除くためにカドモスとハルモニアはテーバイを離れ、イリュリアという地に移住します。
この地でカドモスは「もし蛇の命が神々にとってそれほど大切なものなら、私も蛇になりたいものだ」と叫びます。すると、この言葉を言い終えるやいなや、彼の体は徐々に蛇に変身していきます。
ハルモニアは夫と運命をともにすることを願い、蛇に変えてくれるように神々に祈ります。この祈りはかなえられ、その後2人はイリュリアの森で蛇として永遠に暮らします。この二匹の蛇は人にあっても逃げることがなく、人を決して傷つけることがないとされています。
カドモスは、フェニキアで発明されたアルファベットをギリシャに導入した人物だというという言い伝えがあります。
文字は「知恵」と深く関連していますので、この夫婦の蛇の逸話からは、『創世記』で「知恵の木の実」を食べるようにイヴを誘惑した蛇のことが思い起こされます。
調和としてのハルモニアとピタゴラス
皆さんはハーモニーという言葉を聞くと、何を思い浮かべるでしょうか。まず思い浮かべるのは、合唱での心地よい音の組み合わせのことではないでしょうか。
古代ギリシャの哲学者ピタゴラスは、心地よい和音を響かせる2つの弦の長さ(もしくは張力)が単純な整数比であることを発見し、このことを基礎にして音階(ピタゴラス音階)を発明したとされています。
彼は、音楽の美しさは宇宙のハルモニア(調和)が表れたものだと考えました。ピタゴラスの哲学では宇宙(Kosmos)の本質はハルモニア(調和)とタクシス(taxis:秩序)であり、この2つは数という原理によって保たれています。ご存じのようにピュタゴラスは数学、特に幾何学について深い研究を行いました。詳しくは下記の記事をご覧ください。
参考記事:『図形と数について』
当会のフランス本部代表のセルジュ・ツーサンが、自身の人気のブログに「調和について」という題で記事を書いていますので、その翻訳をご紹介します。女神ハルモニアと英雄カドモスの物語についても、先ほどとは別の部分が紹介されています。
記事「調和について」
ハルモニア(調和)とカルマ
調和にあたる英語は「ハーモニー」(Harmony)であり、その語源になっているギリシャ語は「ハルモニア」(Harmonia)です。ギリシャ神話で調和を司る女神ハルモニア(Harmonia)は、戦いの神アレスと愛の神アフロディーテという、正反対の性質を持つ2体の神の間にできた娘です。
ハルモニアは、都市国家テーバイの始祖カドモスと結婚しましたが、神と人との結婚であったにもかかわらず、結婚式には神々が訪れ、貴重な品々を贈ったとされています。その中には、カドモスが受け取った貴重な木製の竪琴や、ハルモニアが受け取った豪華な首飾りがありました。
伝説によれば、この首飾りは盗まれ、後に多くの人の手に渡ったのですが、手にしたすべての人が不幸になったとされています。このたとえ話によって語り伝えられているのは、調和を損なった者は、遅かれ早かれその報いを受けるという教訓であり、カルマという考え方がそこから連想されます。
調和と芸術
「調和」とは一般に、「ある全体、特に、ある芸術作品の全体と、その部分との間にある望ましい関係(形、色、音、リズムなど)」であるとされます。彫刻や絵画、音楽などの芸術作品がどのようにあるべきかを、この定義は端的に示しています。
しかし残念なことに現代では、芸術であると称している作品の一部は名ばかりで、調和という要素がまったく見られません。みっともなさ、不釣り合い、耳ざわりなことを売りものにしている作品さえあります。このことから考えると、芸術には互いに補い合う次の2つの要素が必要不可欠であることに思い至ります。それは、美しさと審美眼、つまり、美しいものを美しいと認める能力です。
人間関係の調和
「調和」には、「あるグループとそのグループ内の人たちの間に、考えや好みや意図の一致の結果として成り立っている関係」という別の意味もありますが、このことを私はとても興味深く思います。
この定義によれば、調和が完全に失われたときに生じるのは、仲違いであり、ひいては争いや戦争です。世界の現状は、調和した状態からはほど遠く、さまざまな国の内部の人と人との関係も、国と国の関係も、調和ではなく混沌に支配されていることを私たちは認めざるを得ません。
しかし、希望を失わないでいましょう。表面的にはそうは思われないかもしれませんが、人類は協調へと向かって徐々に歩みを進めています。
4つの側面での調和
人と人との関係において調和を育んでいくことが重要であるとすれば、私たちひとりひとりが、自身の心の中に調和を育んでいくことも必要不可欠です。
このことは、神秘学(mysticism:神秘哲学)で知られている人間の4つの側面のすべてでなされなければなりません。身体面においては、健康に十分に注意を払わなくてはなりません。精神面においては、健全な思考を保つ必要があります。感情面においては、美しいものごとを尊び、肯定的な気持ちを保つように努力しましょう。
そしてスピリチュアルな面においては、人格を高めることに取り組み、〈絶対なるもの〉についての自身の観念と同調するための時間を定期的に設けることが挙げられます。
この4つの側面のそれぞれに調和を実現したときにだけ、私たちは根本的な心の平安を知ることができます。バラ十字会の哲学では、この平安のことが〈深遠なる平安〉(Peace Profound)と呼ばれています。
自然界との調和
しかし私たちは、外側にも目を向けなければなりません。自然界がなかったとしたら、私たち人類は一体どうなってしまうでしょうか。人間という生命は、歴史的に見て自然界から生じましたが、人類が今後も存続できるかどうかは、自然環境が健全に保たれているかどうかにかかっています。
自然は、地球上に住むすべての生き物の母であるだけでなく、先ほどの4つの側面を通して私たちが密接に結びついている母でもあり、日々の生活を支えてくれている母です。
宇宙全体と同じように自然界も、いわゆる〈自然の法則〉に支配されており、自然の法則には、常に建設的だという性質があります。私たち人類が幸せで豊かでいられるかどうかは、自然の法則を尊重し、それと調和して生きることができるかどうかにかかっています。
ですから私たちは、このことについて学ばなければなりません。バラ十字会AMORCの会員が、この会から提供される教材を用いて行っていることのひとつに、自然の法則についての学習が含まれるのはそのためです。
バラ十字会AMORCフランス本部代表
セルジュ・ツーサン
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執筆者プロフィール
セルジュ・トゥーサン
1956年8月3日生まれ。ノルマンディー出身。バラ十字会AMORCフランス本部代表。 多数の本と月間2万人の読者がいる人気ブログ(www.blog-rose-croix.fr)の著者であり、環境保護、動物愛護、人間尊重の精神の普及に力を尽している。本稿はそのブログからの一記事。
本庄 敦
1960年6月17日生まれ。バラ十字会AMORC日本本部代表。東京大学教養学部卒。
スピリチュアリティに関する科学的な情報の発信と神秘学の普及に尽力している。
詳しいプロフィールはこちら↓
https://www.amorc.jp/profile/
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